乳児

赤ちゃんの前頭葉

子どもは年齢とともに、育つ環境に合わせた効率の良い脳内ネットワークを作っていくと森口氏は言っています。脳内ネットワークの変化が起こる年齢は脳領域で異なるのですが、アクセルに関わるような報酬系回路は比較的発達が早く、ブレーキや思考の実行機能に関わる外側前頭前野や頭頂葉は発達するのに長い時間がかかります。前頭前野の発達は青年期でもまだ終わっておらず、前頭前野がしっかりと働くようになるのは青年期から成人期にかけて起こるということになります。

 

元々、数十年前には前頭葉は子どものときには働いていないと考えられていました。というのも、これは前述にもあるように前頭前野や頭頂葉が青年期や成人期ごろまで十分に出来上がっていないということが示されていたからです。しかし、これまでのマシュマロテストやそれ以外のテストを見ていても、子ども期にかけて、実行機能が働いているということが分かりますし、それは前頭葉が機能しているということを示唆しています。また、最近では赤ちゃんの頃からの研究も進んでおり、そこでも前頭葉の働きが見られることが示されていると森口氏は言っています。

 

その方法は動物向けの実行機能テストを赤ちゃんに利用して前頭葉が働いているかを調べてみるということでした。そのテストでは不透明なコップを2つ赤ちゃんの前に並べます。コップの片方(コップA)におもちゃを隠します。9ヶ月くらいの赤ちゃんであれば、隠されたおもちゃを正しく探すことができます。これを数回繰り返します。その後、今後はもう一つのコップ(コップB)におもちゃを隠します。隠した後に、10秒程度、赤ちゃんを待たせてみます。その後、探索させます。すると、9ヶ月頃の乳児はコップAを探してしまいますが、12ヶ月くらいになると正しくコップBを探すことができるようになります。

 

つまり、コップAからコップBに対象が変わったことで、探す対象を切り替えることが必要になります。森口氏はこれに使われる能力は、思考の実行機能の種のようなものと言っています。このような発達を見たとき、前頭葉の働きが赤ちゃんにあることが明らかになっています。

 

もちろん、大人と比べるとまだまだ未熟な前頭葉の働きですが、赤ちゃんにおいても、しっかりと働いているということがわかりました。これは保育をしていても感じるところです。0歳児を見ていても、決して、無力ではありません。未熟ではあるのは確かですが、実に能動的に環境に働きかけているようにも思います。よく周囲を見回していますし、すでに、自分の安心する人を察知し、判別もしています。すこし、発達が進んでいる子どもを見て、模倣し、やってみようとするように能動的にも動いています。こういった赤ちゃんの特徴は本来であればもっと深めていかなければいけないのだと思います。

赤ちゃんと進化

そもそも人類は二足歩行になったがゆえに産道が非常に狭くできています。そのため、あまり脳が大きくならないうちに出産し、乳児を母親が大切に育てていかなければいけません。しかし、出産適齢期の女性は人生の中でも体力的にはベストコンディションであるため、社会を維持するための働き手としての役割もあります。また、二足歩行になったため、肉食動物の餌食になってしまう危険性もあります。これらの要因のために、できるだけ短期間に多くの赤ちゃんを産むようにしたい。基本的に一産一子である人類は一度に多くの赤ちゃんを産むことができないので、この悩みに対する答えとして毎年出産するという方法を選びました。そのため、早く離乳し、次の子どもを産む準備を始めなくてはなりません。

ということで、人類の離乳は、5か月ごろから始まり12か月ごろに完了し、もう次の年には次の赤ちゃんを産むことが可能になってきます。早く離乳するためには様々な工夫が要ります。授乳期から普通食への移行が早いためにその間の食事が必要になってきます。そのため、人間は調理をし、食べ物を加工するようになりました。しかも、赤ちゃんでも食べられるものにするために火を使います。様々な生物の中で人類だけが火を使って調理をすることができるので、早い離乳が可能になりました。

離乳においてはチンパンジーは5~6歳、オラウータンの離乳は7~9歳です。生まれた瞬間から離乳までチンパンジーやオラウータンの赤ちゃんは母親だけに抱っこされて(同時にしがみついて)育ちます。当然、離乳するまでの間、お母さんは次の子が産めません。このように人間の離乳は他の霊長類よりも早く次の子どもを産むために離乳が早くなっているというのです。しかし、同じ霊長類の中でもゴリラだけは少し早く3~4歳で離乳し、ゴリラのお母さんは上の子が3歳になると次の子を産むことができます。そして、ゴリラの研究からゴリラが早く離乳し、次の出産ができるようになったのは、上の子の育児をオスのゴリラが手伝うからだとわかってきました。これらのように生物学的に近い仲間であるこれらの動物たちに比べてみても、人間の1年という出産サイクルが非常に短いことだとわかります。早々に離乳したと言っても1歳児の赤ちゃんです。次の子が生まれるとなると母親一人では手が回りません。そのため、人類は家族で育児をすることにしたのです。早く離乳した赤ちゃんは父親やきょうだい、祖父母などに抱っこされて育つようになります。

そのため、生まれた赤ちゃんが何かをつかもうとしたり、手のひらに何かが当たると反射的にそれを握る行動をしたり、すぐにそうした赤ちゃんの手の反射恋宇津尾がなくなったりするのは、こうした人類の育児スタイルに由来していると考えられているそうです。また、赤ちゃんがあおむけになって寝ることにも、だれにでも抱かれる体勢という意味があるのです。

このように保育の起源では紹介されていました。赤ちゃんの行動には進化の過程が垣間見え、赤ちゃんが大人に対して能動的に働きかけているということが見受けられます。そして、その進化の過程でヒトは社会を作っていくのですが、そこにも赤ちゃんの存在は大きく関わっているのですね。赤ちゃんが未熟で生まれてくる意味、その裏に隠されていたヒトの進化、ヒトの活動に意味はないということを感じます。