教育
最近、子どもを殺してしまう悲しいニュースがテレビや新聞で紹介され、報道されることがあります。そして、多くは生活のためではなく、行き過ぎた躾のために子どもが亡くなってしまうことが後を絶ちません。現在、日本においても育児の孤立は一つの問題にもなっています。未だに、子育ては母親が行わなければいけないものという風潮は強く、男性の育児休暇の取得率は一向に上がっていきません。地域も昔ほど、関係性があるわけでもなく、人家庭ごとが孤立していることも多くなっていたり、親戚や知人がいなかったりすることも珍しいことではなくなっています。こういった環境の中での育児で、精神的にも肉体的にも子育ての時期に健康を崩すということをよく聞きます。産後に抑うつ状態になる母親の割合は、厚生労働省の統計でも約10%いるそうです。病的な状態になるのが子の割合なので、抑うつ傾向や不安傾向の親の割合はもっと高いといえるでしょう。
こうした親の精神状態の不調は、子どもの実行機能を含めた発達に負の影響をおよぼします。抑うつ状態の場合、精神的な健康にも波があるので、その状態によって子どもへの関わり方が一貫しないこともあり、子どもは困惑すると森口氏は言います。最近では、こういった子どもの一貫しない関わりが愛着関係への影響があるということも言われています。そのため、母親への精神的な健康をサポートすることは大切なことになります。母親はストレスやホルモンの影響などにより精神的な健康を崩すことも多いのです。特に産前や産後数年にわたっては精神的なバランスを崩しやすいと森口氏は言っています。
また、子育てにおいて、親の影響だけでなく、居住地域の問題もあると森口氏は言っています。近年の分析によると、居住地域は居住する同じ年代の子どもの行動や、大人の質、および、地域の結びつきの強さなどによって、子どもに影響すると言われています。子どもの年齢が低い間は、居住する地域が近い子どもと仲良くする傾向が強いため、周りの子どもに実行機能が備わっていなかったら、その影響を受けると言います。また、地域に住んでいる大人が子どもの悪い振る舞いを助長するのか、それとも、監督して正すのかという点は、子どもの実行機能にとって影響があると言います。その結果、近隣住民との結びつきが強いところに住んでいたり、安全で地域の問題が少ないところに住んでいたりすると、子どもの自分をコントロールする力が育まれやすいことが示されています。
このように親の影響、居住地域における影響は子どもにとっては大きいようです。当然、これらのことは子どもに直接関わるものであり、無縁ではないことが理解できますが、では、もう少し大きく「文化」というものは子どもたちにとって、どのような影響をあたえるのでしょうか。国によって、その国民性が違うということは世の中でもよく言われていることです。こういった文化性というものは子どもにとってはどのような影響があるのでしょうか。
2020年7月17日 5:00 PM |
カテゴリー:乳幼児教育, 教育, 社会 |
投稿者名:Tomoki Murahashi
森口氏はメディア視聴において二つの大きな影響があると言っています。一つ目は前日に紹介した。「ダラダラとテレビがついてある状況でした。」では、二つ目はどういったことが影響を与えるのでしょうか。
それは、テレビの内容の影響を挙げています。暴力的なシーンは全般的に子どもの発達に悪影響があるので、子どもにみせることはお勧めできません。また、現在議論になっているのが、ファンタジーです。『トイ・ストーリー』などのアニメから、『ハリー・ポッター』などの実写に至るまで、子どもにもファンタジーは人気ですが、ヴァージニア大学リラード博士らはこのようなファンタジー作品を見せた直後に思考の実行機能を測定すると、子どもの思考の実行機能の成績が低下することを示したそうです。
森口氏はテレビだけではなく、スマートフォンやタブレット端末などのデジタルメディアにおいても紹介しています。Youtubeや動画のコンテンツを最近は見るようになった子どもたちは先ほども話した通りです。これは幼児の子どもでも好んでみる子どもが多いです。テレビは受け身で視聴するだけですが、スマートフォンなどのデジタルメディアにはタップするなどの双方向性があります。この双方向性があると、テレビでは実行機能の低下が見られたファンタジーコンテンツが、デジタルメディアでは実行機能の成績は低下しなかったのです。テレビは受け身になってしまうので主体性に目標に達成する実行機能が低下しますが、デジタルメディアには主体的に関わることができるので、実行機能は低下しなかったのです。
こういったことを受けて考えてみると、テレビにおいてはただ受け身になることもあり、少なからず実行機能に影響がありそうですが、デジタルメディアにおいては利点もあることが言えそうです。とはいえ、デジタルメディアを視聴しすぎると、視力や睡眠に悪影響があることは否めないですし、親子の交流が減ってしまうため、ネガティブな側面があることは確かだと森口氏は言っています。しかし、現在はスマートフォンなどのデジタルメディアに関するネガティブな側面ばかりが強調されているような気もすると森口氏は言っています。
実際、スマートフォンや人工知能などによって育児の負担が軽減されたり、子どもの発達が促されたりすることは今後必ずあると考えられます。そのため、こういった技術もやはり使いようだとなのだと思います。そして、そのために良い部分も悪い部分も考慮する必要があるのです。
新しい時代において、デジタル機器は日々進化しています。問題は新しい技術のネガティブな部分を嘆くのではなく、うまく付き合っていく必要もあるのだと思います。だからこそ、こういった研究の結果を踏まえ、今の時代に最適化した環境を作ることが必要なのでしょうね。
2020年7月16日 5:00 PM |
カテゴリー:乳幼児教育, 教育, 社会の変化 |
投稿者名:Tomoki Murahashi
睡眠の次はメディア視聴です。これも家庭によってはルールに上がってくることが多くあるものだと思いますし、家庭によってもそのルールは大きく違います。私の実家では日中にテレビを見ることは許されていましたが、食事中などは姿勢が悪くなるという理由や家族の会話が無くなるという理由で消されていたのを今でも覚えています。メディア視聴というのは何もテレビだけではありません。最近ではスマートフォンの普及もあり、インターネット動画などの映像視聴なども増えています。子どもたちが外で動画視聴をしている姿はよく見ますね。家の中でも外でも子どもに静かにしてほしいときにテレビやインターネットの動画を見せるようにしているご家庭は少なくはないと思います。こういったテレビなどのメディア視聴が子どもの発達にどのような影響を及ぼしているのかというのは、昔から関心が高い問題です。
日本でも、2004年に日本小児科学会が、2歳以下の子どものテレビやビデオの長時間視聴は避けるべきだと提言を出しました。これは長時間のテレビ視聴が子どもの言葉の発達が遅れるという研究知見が見えてきたからです。しかし、実際のところ、テレビ視聴が子どもの発達において、良い影響を及ぼすのか、悪い影響を及ぼすのかは、結果が混在していると森口氏は言っています。言葉の発達の遅れにおいても、子どもの教育番組を視聴させることでむしろ促進されるという結果もあるのです。
では、実行機能においては、テレビ視聴はどのような影響があるのでしょうか。森口氏は実行機能の発達に影響を及ぼすのは大きく2つあると言っています。
一つは誰も見ていないにもかかわらず、ダラダラとテレビがついている状態だと言っています。ジョージタウン大学のバー博士らは家庭における乳児期のテレビ視聴と思考の実行機能の関係を調べました。その結果、1歳の時点において、大人向けの番組が長時間ついていればいるほど、4歳児時点における思考の実行機能の成績が低いことが示されました。
なぜ、ダラダラとテレビがついているのがいけないのでしょうか。その理由は子どもが絵をかいたり、遊んだりする場合に、少し気になるシーンや音楽が流れると、子どもは今やっている活動をやめて、テレビに注意を奪われてしまうからです。この場合、子どもの意志ではなく、テレビの映像や音声によって活動を切り替えられているのです。思考の実行機能は子どもが自分で主体的に頭を切り替える能力なので、実行機能は育まれないというのです。いわゆる「気が散った状態」になるのでしょうね。それでは「遊び込む」ことが難しくなります。
では、もう一つのメディア視聴の影響とはどういったことがあげられるのでしょうか。
2020年7月15日 5:00 PM |
カテゴリー:乳幼児教育, 教育 |
投稿者名:Tomoki Murahashi
森口氏は管理的な子育てにおいて、家庭のルールが子どもの実行機能に影響を与えているということを言っています。そして、ある程度の大人の管理的な子育ての必要性にも言及しています。
このことにおいて、森口氏はルールに関連して、2つの生活習慣の影響を紹介しています。その二つというのが睡眠とメディア視聴です。睡眠というのはこれまでにも言われることが多い内容です。発達障害にも睡眠が関わるということが言われています。そんな睡眠ですが、なぜ、それほどまで人の体に影響するのかというと、睡眠は脳にとって非常に大事な生活習慣だからです。睡眠中、脳は起きている間に損傷があった箇所などを修復したり、起きている間に覚えたことを記憶に定着させたりすることが報告されています。また、寝る前に難しい問題に取り組むと、起きた後にその問題に対してする解決策をおもいつくなど、記憶や学習に非常に重要であるということもわかっているそうです。よく受験生においても、一夜漬けするよりもしっかりと夜は寝たほうが良いというのはこのことが言われるのはこういったことを指します。
では、実行機能に関してはどうでしょうか。実行機能の脳内機構である前頭前野は、睡眠中に活動が著しく低下することが知られていると森口氏は言っています。つまり、睡眠不足によって前頭前野を休ませることができなければ、起きている際の行動にも影響が出るというのです。睡眠不足は、学業不振につながりますし、それ以外にも精神疾患、情緒不安定、肥満などにも結び付く可能性があります。そして、このことは特に子どもにおいても顕著なのです。幼児期には2~3割の子どもが睡眠に関する何らかの問題を抱えているという統計もあります。なかなか寝付けなかったり、寝ている間に歩いたりしてしまうのです。最近の子どもたちの入眠時間は確かに遅くなっているように思います。それは親の就労にも影響を受けているのでしょう。
実際、テルアビブ大学のサダー博士らは、小学校高学年の子どもを、ランダムに早寝群と夜更かし群に分けて、その前後に思考の実行機能のテストをしました。その結果、早寝群は成績が向上するのに対して、夜更かし群は成績が低下することが報告されました。小学生の研究に比べると数は少ないのですが、乳幼児期の睡眠もやはり実行機能に重要な影響を与えることが示されています。カールソン博士らは1歳時点における乳児の睡眠の質を測定し、その後の実行機能の影響を検討しました。この研究では、1歳時点における夜の睡眠時間が長ければ長いほど、その子どもが2歳になったときの思考の実行機能の成績が高いことを示しています。
ここであることが見えてきました。昼寝を含めた子どもの一日の睡眠時間の長さは実行機能と関係しないという点です。夜に子どもが寝ることが重要ということを意味しています。
このように睡眠と実行機能は密接に関係しているということが言われていることが分かった来ました。これまでも「睡眠」というもののとり方は人の体に大きく影響を与えてくれるというのは大人においても、子どもにおいても、言われています。心身のリフレッシュにおいても、成長ホルモンが出るのも、睡眠中なのです。いかに子どもたちの睡眠が大切なものなのかということが分かります。そして、それは先の社会における能力にも大きな影響を与えることになるのですね。
2020年7月14日 5:00 PM |
カテゴリー:乳幼児教育, 教育 |
投稿者名:Tomoki Murahashi
今回の新型コロナウィルスは様々なところで、教育や保育への変化をもたらしました。リモート(遠隔)での教育形態、分散登校、4月入学から9月入学など、さまざまな部分で新しい取り組みや変革が起きています。こういった議論は多く行われている中で、今後の教育に向けてどういった教育形態が求められるのか、前回話した武藤隆氏の話においても触れられてきた内容です。武藤氏の話にも出てきた「9月入学」この制度は様々なところで波紋を起こしています。内容に関しては、武藤氏が言っていたことが大きな答えになっていました。
私は常々、入学をどの時期にするのかということ以上に、子どもの進級の時期を子どもの理解度とともに変えていくべきだと思いっています。そして、分からないところがあれば、わかるまでその学年で留まることができる留年を作るべきだとも思っていました。このことに対して、日本経済新聞の7月8日の記事「教育改革 危機が促す」にこんなことが書かれていました。「同年齢の子を一斉に入学させ、学習内容が定着していなくても決まった時期に卒業させる『履修主義』を取る日本の義務教育。『一律・平等』の重視は教育水準を底上げした一方、横並びで硬直的な学校生活を生み、子どもの個性にあった指導を難しくした」と書かれていました。
この状況はまさに教育現場において問題になっていることではないでしょうか。特に「ワル」と言われる不良少年などは、以前にも書いたように、勉強についていけず、そのままドロップアウトしてしまう子どもが多くいます。こういった子どもたちに対して果たして「平等な教育」が施されたというのでしょうか。個人差を加味した上で「平等」があるのでしょうか。
日本経済新聞ではこのひずみが新型コロナウィルス禍でも露呈したと言っています。この自粛期間における休校措置で失った200コマをどう解消するかということです。そして、それと同時に日本の教育現場においては技術革新や国際化の加速によって教育過程は拡大しています。ただでさえ、指導日程が窮屈になってきている中で、この休園措置によって、履修主義的な教育はかえって、重荷となり、短期間で大量の「指導ノルマ」をこなす必要が出てきたというのです。そして、これは「修得主義」をとる欧米とは事情が異なります。
修得主義はひとり一人に応じた学びを実現する土台にもなると言います。国際学力調査で上位のフィンランドでは就学や卒業の時期、留年や飛び級も本人や保護者が選ぶのです。教育過程は教員が決め、個にあわせた指導が可能になるのです。こういった教育形態をうけ、日本の経済同友会でも小学校高学年以降は修得主義にし、留年や飛び級を実施するように提言しているそうです。
また、こういった教育形態になったときに5歳児の育ちは重要になってきます。19世紀から義務教育開始年齢が5歳の英国では「探求心と好奇心の育成が最初の目標」だと言っています。つまり、こういった教育を進めていくためには乳幼児期の教育も決して無縁ではなく、その土台を作る環境を作っていかなければいけないのです。子ども一人一人が平等に学んでいくためには、一人一人がしっかりと自立していなければならず、その土台はやはり乳幼児期にこそ必要なのだということが読み取れます。
2020年7月13日 5:00 PM |
カテゴリー:乳幼児教育, 教育, 社会の変化 |
投稿者名:Tomoki Murahashi
« 古い記事
新しい記事 »