日々思うこと

相手に伝える

これまでのコーチングの内容を見ていても。繰り返し、目的や目標、夢を持たせることがコーチングの大きな意味であるということが言われていました。問題はその目的や目標をいかにクライアント自体が自分自身で持とうとポジティブに考えることができるかです。そのために、コーチはクライアントと関係性を作っていかなければいけません。そのために、「一緒に考える」姿勢がなければいけないのです。しかし、この「一緒に考える」というのはなかなか難しいことです。自分自身がある程度の答えを持っているため、つい口をはさんでしまいます。

 

これまでの内容を見ていても、割と“want”を見つけるための“not want”を探すという作業は様々なところで目的を見つけるためのプロセスになるようです。そうして、ネガティブな側面をいかにポジティブな面に切り替えることができるかです。ベクトルの変化を起こすことで、ネガティブな面はいくらでも変化していくことができるのです。鈴木氏はその際「行動のプロセスではなく、その行動の先の“いいこと”をイメージする」ことが重要であると言っています。つまり、「行動結果=いいこと」をイメージすることで目的ができ、そのための行動プロセスがはっきりしてきます。このことは常々自分自身も考える視点を持つ絶えに意識していることです。日ごろから起きる問題は山ほどありますし、課題もたくさんあります。それを嘆いて本質から外れていくことだけは避けたいので、その「本質」といった目的をいかに意識することで行動を変えていくということを意識しています。そう考えることで、考える方向性を見つけることは比較的行いやすくなります。なぜなら、目的が一つの物差しになるからであって、それを中心にすることで行動プロセスが明確化していきます。行動結果にいいイメージを持つことは、目的を意識しやすくし、動くことにおいてもポジティブなプロセスを意識しやすくなるのだろうと思います。

 

しかし、この部分にコーチングの難しさを感じます。大切なことはコーチングを受ける側の人が悩みをいかに上げていくかが重要になってきます。他律的にコーチが悩みを押し付けたところで論点がズレていれば、それは意味がありません。むしろ、物事がネガティブな方向に向かう可能性もあるのです。その人自体が悩んでいることを主体的に話をするように持ってくることがコーチングとしては一番困難な部分でもあるように思います。そして、こういったやり取りを繰り返していく中で信頼関係が生まれ、よりよい関係性が生まれてくるのでしょう。では、それはどういったやり取りが重要なのでしょうか。相手を聞き出すことにはどういったやり取りをしていく必要があるのでしょうか。

 

鈴木氏は「“なぜ”を説明する」必要があると言っています。ただ相手に対して指摘するだけでは人はついてこないといいます。「なぜ、それをするのか、なぜそれが大事なのか」を伝える必要があるのです。ただ、難しいのは「ルールだから」「自分のときはそうだったから」というのは通じない反面、だからといって、懇切丁寧に説明してしまっても、生けないというのです。なぜなら、そうすると相手は納得したことしかやらなくなるからです。世の中の「不条理」を引き受ける強さも人は持ち合わせており、不条理と説明しすぎとのバランスをいかに持たせるのかということがコーチの腕の見せ所であると鈴木氏は言っています。

 

実際のところ、この部分は難しいところですね。確かに説明しすぎると相手は分かったところしかしません。そして、「自分はできている」と考えがちです。しかし、説明しなさすぎるとかえって全体が悪い方向に向かうのが止められなくなります。その「塩梅」というのは難しく、そこには大きく信頼関係が関わってくるのではないかと個人的には感じます。コーチと現場においてやはり大きなウェイトを占めるのは信頼関係なのでしょう。結局はそれがなければ、「絵に描いた餅」になるのは明白です。そのため、細かなやりとりを丁寧に相手にとって必要な関わりをもつことが重要になってくるのでしょうね。

夢を持つ

さて、先日の話であった“want”を見つける作業ですが、日本では教育の在り方や進め方によって、”want”を見つけるというのがうまくできず、難しい現状があるということでした。ではそういった人の場合、どのようにコーチングすることで“want”を見つけることにつながるのでしょうか。

 

このときに問いかけるといいというのが「何をしたくないのか」「イヤなことは何か」「ほしくないものは何か」といった“not want”から入ることだと鈴木氏は言います。人は嫌なことには敏感だと言います。確かに人の批評やネガティブなところはすぐに予想がつきます。そして、見たくなくても見えてくるものです。そのため、思い切りわがままになって、何が嫌いなのかを話してもらうというのです。そうすることで、物事を対比するのです。対比することは事象を思い浮かべやすくする傾向があるそうです。“not want”をたくさん話した後、”want”を見つけ出していくようにしていくと目標が見えてきやすくなると鈴木氏は言います。

 

また、「視点を変えること」も大切なことです。コーチングの大前提は「すべての答えは、誰かとの探索の中で、一緒に見つけ出していける」というものです。そして、「夢」に気づかせることもできると言います。この「夢」ですが、果たしてどれくらいの人が「夢」を持っているでしょうか。鈴木氏は「夢」は外側に転がっているわけではなく、気づくことや見ることができるものであると言っています。しかし、その内側にはたくさんの膜や靄がかぶさっていて、夢をはっきりと鮮明に見ることができないと言います。そのため「自分には夢がない」と思ってしまうのです。そのため、コーチは膜や靄の向こう側に横たわる夢へのアクセスを可能にするのが役割です。そして、そのためのアプローチが「視点を変えること」なのです。さまざまな角度から対象を見ることで、全体像を鮮明に見ることができるかもしれないのです。

 

そのため、コーチは視点を移動させるための質問をクリエイトする必要があります。「制限が無かったら、どんなことをしてみたい?」といったことや、「10年後、今のあなたにどんな夢を追及してほしいと思っている?」といった質問です。こうすることで、それまで捉えることのできなかった夢を垣間見せるようにします。そして、夢が鮮明に見えてくると、その夢について話をさせます。こうすることで、明確な夢を持たせ、そこに多くの可能性を見出し、心の底からそれを手にしたいと思うまで話をします。相手の夢の中に心からの興味と関心を持って入っていくのです。

 

「夢」というとどこか「実現不可能なもの」と捉えている人は多いのではないでしょうか。自分自身もそう思うことがありました。しかし、「近づけるもの」と捉えることもできます。しかし、そのためには「明確な夢や目標」がないとそうはなりません。今の社会、自分で目標を見つけるということがあまりなく、「ミッションをこなす」という作業的に仕事をしている人も多いように思います。大切なことは作業をこなすのではなく、何のためにその作業があるのかを知ることや実感すること、意味を知ることは大切なことのように思います。そうでなければ、やりがいといってものは生まれてはきません。“want”を見つけること、夢を見つけることというのは主体的に向き合っていないとできないのです。こういった当事者意識を持たせることにコーチングの意味はあるのでしょうね。

目標と”want”

鈴木氏は「部下とどんなコミュニケーションがとれたらいいですか?」と質問すると、多くの管理職は「目標を達成するようなコミュニケーション」と答えるそうです。確かに、目標や目的をもって、仕事をしてほしいものです。特に保育においては、成績などがなく、より明確な目的が持ちにくく、常に抽象的なものを追いかける職業です。そのため、他の職種に比べて、目標設定というのは理念的であり、そして、その価値観のすり合わせといった作業がより重要になってきます。では、どうするれば「本気で目標達成してみよう」と思えるような気を起こさせることができるのでしょうか。

 

鈴木氏は単にお尻を叩いて「がんばれ」というだけでは目標を達成するのは難しい時代だと言っています。多くの人は「目標達成したら、それはどんな“いいこと”を自分にもたらしてくれるのか」ということも含めて、目標についてたくさん、飽きるくらい誰かと話す必要があると言います。そうすることで、目標というものに意識が集中し「やってみよう」と思うのです。そのため、コーチングをする人は相手に対して、考えうる数多くの目標にまつわる質問を作りだし、相手と目標について多くの話をしてみるようにすることが重要になってきます。

 

また、その際、相手の“want”を一緒に探索することが必要だと言います。“have to~”(する必要がある)でがんじがらめだった人が、コーチの「やってみたいことは何でしょうか?」の質問をきっかけに、自分の“want”に目を向けるようになります。しかし、この“want”を見つけることは、決して簡単なものではありません。特にこのことは日本において難しいと鈴木氏は言います。なぜなら、日本においてはこれまで基本的に問題が投げかけられ、それを解いてきた人が圧倒的に多い国です。「正しく問題を解くこと」が大事であり、「自分なりの考えを表現すること」があまり重要視されていなかったため、社会においても「与えられた問題をどう解決するか」が仕事であり、「自分がやりたいことを提示してそれを実現する」という経験するものでもなければ、機会もないのです。そういった人たちが“want”を聞かれても答えられないというのです。

 

これは今の日本の教育や保育においても、大きな課題であり、日本が読解力があっても問題解決能力が乏しいと言われる部分につながっているところだと思います。乳幼児保育施設においても、今の子どもたちは自分から訴えてくるよりも、大人から声を掛けられるのを待っている子どもが多くなっているように思います。それは子どものやりたいことができる環境が少なく、言われたことをすることや主体性が保証された環境が少なくなってきているからかもしれません。特に鈴木氏が関わるコーチングの対象者は社会人です。つまり、こういった人材を世に送り出しているのはやはり教育に問題があり、その始まりの時期の乳幼児施設の時期から、こういった子どもが多くいるということはよく考えなければいけません。こういった書籍からも様々な問題点が見えてきます。では、社会に出た人が“want”を見つけるためにはどうしていくのでしょうか。これは保育にも生かせる内容かもしれません。

アクノレッジメント

コーチングにおいて、相手の強みを生かすということが言われています。そして、その強みを生かしていくためには相手がどういったタイプかを知らなければいけません。そして、そのタイプは4つに分類されるということが分かりました。つまり、大きく分けて4つのタイプには別のアプローチが必要になってくるのです。コーチングを始めたばかりの新米コーチにありがちなのが「数人のクライアントに対して、同じスタイルのコーチングを強要してしまうこと」があると言います。確かにコーチングの大きな目的はクライアントの目標達成にあります。しかし、目標達成に向けてどのようなサポートを必要としているかはクライアントそれぞれ違いますし、クライアントのその時の状態によっても変わってきます。「ただ励ましてほしいとき」「鋭く突っ込んでほしいとき」「笑い話で盛り上がりたいとき」など様々あります。

 

こういった時にどうしたらいいのでしょうか。このとき大切になってくるのが「クライアントのリクエストを聞くこと」です。「どういったコーチングをもとめていますか?」と聞いてみるのもいいと鈴木氏は言います。相手が求めるサポートを聞いてみることでコーチングの道筋が見えてくるというのです。かえってその方が、「あいつのためだ」と思いこみで相手を苦しくさせてしまうよりはずっと「あいつ」にとっては“ため”になるのです。

 

また、サポートするにあたって「アクノレッジメント」も必要になってきます。このアクノレッジメントとは「相手をほめたり承認したりすること」を指します。このアクノレッジメントはどういったスタンスに立って相手に伝えるかによって2種類に分類されます。

 

一つ目は「You」のスタンスです。「よくやった」「やればできるじゃないか」といったように、「あなたはこうだ」という相手に伝えることです。こういった承認を受けることは決していやな気はしませんが、気を付けなければいけないのは、このタイプの承認は「それ自体が評価に捉えられてしまう可能性がある」ということがあります。この場合、受け手があなたのことを尊敬していて、自分ことを評価するに値する人だと思っていれば別ですが、そうでない場合、このタイプの承認は相手にとって受け取りにくいものになるかもしれません。このような承認を受けたとき、「そうでもないんですけど」なんていう言葉が口をついたりしていないかを考えてみるといいと言います。

 

2つ目は相手が自分に対してどういう影響を与えたのかを言葉にする「I」のスタンスです。「君が頑張っているのを見ていると、僕もやる気が高まるよ」といったり、「今日の君のプレゼンは安心して見ていられる」といったように、相手の姿から自分がどう感じたかを伝えることです。「信頼しているよ」「任せたよ」といった言葉もこのタイプです。つまり、相手の評価ではなく、「こちらはそう思っている」という意思を伝えるのです。

 

承認するということをとっても、様々なアプローチがあるということが分かります。確かに受け取り方によっては「評価」と捉えられたり、「承認」と捉えれるかで大きくその受け止め方は変わってきます。振り返ってみるとこれまでも「You」の立場で相手に伝えることは多かったかもしれません。見方や伝え方のスタンスを変えることは相手の受け止め方も大きく変わってくるのですね。

強みを生かす

人にはそれぞれ4つのタイプがあるということを前回紹介しました。そのうえで、そのタイプを活かし、かつ強みにするような力にしていくのがコーチングの腕の見せ所です。鈴木氏は「名選手、名コーチにあらず」という言葉を紹介しています。いくら現役のときにいいプレーヤーだったとしても、後進の選手が育つとは限りません。なぜなのか、名選手が名コーチになりにくい理由に、自分のやり方を後進の選手たちが受け継ぐことを求めがちになってしまうことがあると言います。かえって、現役時代あまりいい成績を残せなかったコーチの方が、自分のやり方にこだわりを持たない分だけ、選手個々に合わせた育成方法を考え出したりするそうです。

 

このことはビジネスであっても同様で、上司がかつて成功を遂げたやり方を部下に強要しがちになると鈴木氏は言っています。ある保険会社で成績が伸びないYさんにどうコーチングしていけばいいのかといったテーマで話をしたとき、そこの所長はYさんに対して「最終的にどれだけ自分の熱い思いをお客さんに伝えられるかだと思うんですよ。あいつはどうもそこのところが弱いんですね。自分自身の壁を崩せないんですよ」といっていたようです。しかし、この“熱く保険を売る”というのは所長のやり方であって、このことが必ずしもYさんの目指すべき営業マンの在り方であるとは限らないと鈴木氏は言います。なぜなら、タイプで言うと所長はプロモーターであり、Yさんはどうやらアナライザーのようだからです。アナライザータイプは分析力に優れ、論理的に話を進めていくのは得意ですが、感情を表現したり、“ノリ”で相手を巻き込んでいくことは得意ではないのです。

 

つまり、この場合。所長はYさんに対して、タイプの違う関わりを求めていたのです。Yさんを活かしていくためにはYさんの「アナライザー」としての強みを生かした営業を求め、生かしてあげるべきなのです。それはYさんに自分の強みを気付かせることでもあるのかもしれません。このように「タイプ分けは相手の強みを知り、どのポイントを中心に彼らを伸ばしてあげればいいかを理解する切り口を与えてくれる」と鈴木氏は言います。

 

自分の経験値ややり方はいくら自分にとってはやりやすく、成果の出やすい経験であったとしても、それを相手に強要したところで、それが合うタイプなのかどうかは当然別問題であり、成功するとも限らないのです。大切なのは「相手のやり方をどう個別対応して、相手の強みを見つけて伸ばしてあげるべきなのかだ」と鈴木氏は言っています。

 

なかなか相手を尊重するというのは難しいことです。ましてや、相手が自分とはタイプが違うとどういった結果になるかはなおのこと心配になります。だからこそ、相手のタイプを知り予測することが重要であるのでしょう。よくこういったコーチングの本を読んでいると相手が「働きやすい」ようにということが言われます。これは一歩間違えると「なぁなぁ」な関係に勘違いされることもあります。「楽しむ」と「ふざける」のが違うように、「働きやすい」と「なぁなぁ」も違います。この環境作りにこそコーチングの意味があると思います。この「塩梅」を探すのがやはり難しいと思っているのは、コントロールをしようとしているからなのでしょうか。