脳の機能障害と凶悪犯罪
コグトレのような認知機能トレーニングは犯罪を減らすことにも繋がります。凶悪犯罪の中には、生活歴や性格の問題以外にも、脳機能障害の問題が避けて通れない事件もあるからです。
2001年に大阪教育大学池田小学校事件では、宅間守死刑囚は精神鑑定がされました。それによると脳MRIが施行され、中脳左外側部に星細胞腫が発見されたことや、他の検査(脳SPECT〈脳血流断層撮影〉など)で前頭葉機能の低下が指摘されました。また、前頭葉機能の実行機能のうち「変化する環境の下で認知的戦略を変化させていく能力」の障害の可能性も示唆され、「前頭葉に何らかの障害がある可能性を示唆する所見はある。人格や精神症状との関連については今後の精神医学的研究に期待したい」と書かれていました。
1966年米国テキサス大学の糖の上から銃を乱射して17人を射殺し、負傷者32人を出した凶悪殺傷事件の容疑者チャールズ・ホイットマンは当時25歳でしたが、事件の前日に手紙をタイプしていました。そこには恐怖と暴力的衝動に苛まれており、激しい頭痛にも悩まされていたこと、自分の死後、遺体を解剖して何か身体的な疾患がないか調べてほしいことが記されていました。遺体の解剖の結果。脳の深部に胡桃大の悪性腫瘍がはっけんされ、それによって暴力的衝動を抑制する能力が阻害されていた可能性が浮かび上がったのです。
また、他にも脳機能、特に機能低下と反社会的行動との関連性を考える上で有名なのが、フィニアス・ゲイジの症例です。彼は当時鉄道敷設の現場監督をしていた当時25歳の時は、働き者で人望もありました。しかし、火薬の不意の爆発事故で吹き飛ばされた鉄棒が、ゲイジの前頭葉を貫通しました。片方の眼球は損傷したものの一命をとりとめたゲイジは回復し、12年間生き永らえましたが、ゲイジの人格は一変し、気まぐれで、礼儀知らずで、ときには冒涜的な言葉を口にし、同僚にもほとんど敬意を示さなくなったのです。また、欲望に対する抑制もできず、しつこいほどに頑固で将来の計画もできなくなりました。彼の死後、ゲイジの頭蓋骨と標準的な人の脳MRI画像を重ねあわせると、左右の前頭前皮質の損傷と、それが引き起こす合理的意思決定や感情の課程に障害をもたらす可能性があったことが報告されたのです。
米国ジョージタウン大学医学部教授ジョナサン・」ピンカスはその著書「脳が殺す―連続殺人犯:前頭葉の秘密」の中で、殺人犯の神経学的損傷が疑われる具体的症例を多数挙げています。ピンカスは殺人犯の検査において、大多数に前頭葉に神経学的損傷が疑われる形跡があるとし、脳機能障害(特に前頭葉)だけで犯罪に結びつくわけではないものの、脳の「神経学的損傷」「被虐待体験」「精神疾患」の3要因がそろった場合、犯罪に結びつくリスクが高いことを警告しています。
こういった症例はほかにもいくつか出ています。