いろんな興味とひとつの物事

タフ氏はオフィスの参照用においているチェスセットに2歳の息子がいたずらして倒したり、盤上でならべてみたりする姿を見ます。その姿に「もし今から駒の動きを教えて1日1時間プレーすれば、きっと3歳になるころには・・」と思ったそうです。タフ氏はポルガー家のようになるかもしれないことを夢想することは楽しかったのですが、息子にチェスの天才になってほしいわけではないことに気づきます。ふとなぜそう感じたのか、正確な理由を考えようとすると、説明したり根拠を示したりするのは容易ではなかったといいます。

 

もし、息子が毎日4時間チェスの練習をすると、代わりに逃がしてしまうものがあるのではないかと思います。しかし、自分が正しいかどうかはよくわからなかったのです。タフ氏は「子ども時代を、あるいは人生全般にわたって、たくさんのものに少しずつ興味を持って過ごすのがいいのか、それともひとつのことに多くの関心を注ぐ方がいいのか」というのを判断するのが難しく感じたのです。そして、この疑問に対してスピーゲルとたびたび議論してます。そして、スピーゲルの一事に集中することの利益を主張する彼女の言い分には説得力があったことは認めざるを得ないと思ったのです。

 

それはタフ氏が迷った理由にアンジェラ・ダックワースのやり抜く力の定義を思い出したからです。やり抜く力とは一心にひとつのゴールを目指す行動と深く結びついた自制心のことだからです。スピーゲルは「何かに夢中になることで、子どもたちは自由になれると思う。彼らはいま、ずっとあとになっても忘れない、ものすごく大事な経験をしているところなの。子どもの頃を振り返ったときに、退屈しながら教室に座っていたり、家に帰ってテレビを見たりっていうぼんやりしたイメージしか浮かばないのは最悪だと思う。少なくともチームの子どもたちが振り返れば全国大会の思い出があるし、あるいは個人的によかった試合とか、アドレナリン全開で一番の難題に取り組んだ瞬間のことを思い出せる」というのです。

 

スピーゲルは話の中でマーティン・セリグマンと共同研究をした心理学者ミハイ・チクセントミハイの「最適経験」について言及しています。これは「人が日常の雑事から開放され、運命を掌握し、完全にひとつのことに没頭する稀有な瞬間」の研究です。

 

その中で高度な集中状態を表すために、彼は「フロー」という言葉を考え出しました。