やり抜く

自制心が大切だと言っているアンジェラ・ダックワースでさえ、自制心だけでは限界があることを認めています。誰が高校を卒業するか予測する際には役に立つかもしれないが、誰が新しいテクノロジーを発明するか、あるいは誰がアカデミー賞をとるような映画監督になるかを見分けることはできないといっています。そこで改めて「成功の原動力とは何か?」を考えます。そして、その答えは正確には自制心ではないと思うようになったのです。

 

そこでダックワースは自分自身を振り返ってみたとき、ディビット・レヴィンのような人物と比べると、様々な場所を渡り歩いてきた自分の初期のキャリアはあまりにもねらいが定まっていないような気がしてきたのです。ダックワース自身は自制心も強ければ、知性も高く、成功もしています。しかし、レヴィンはというと、22歳で天職を見つけ、以来ずっと同じゴールを目指し、多くの障害を乗り越えてマイケル・ファインバーグとともに大勢の生徒をかかえるチャータースクールを築いていきます。年齢が同じでもあるダックワースとレヴィンでしたが、なにか自分にない資質を持っているのではないかとダックワースは思ったのです。ひとつの仕事に情熱を持ってかかわり、揺らぐことなく専念できる資質。ダックワースはその資質に「やり抜く力(グリット)」という名前を付けることにしました。

 

ダックワースはクリストファー・ピーターソンとともにやり抜く力を測定するテストを考案し、グリット・スケールと名付けました。それは12の短い文章が並んでおり、回答者がそれぞれについて自己評価をするというものです。たとえば「新しいアイディアやきかくによって気が散ることがある」「失敗でくじけることはない」「仕事は一所懸命にする」「一度始めたことは最後までやり通す」などです。それぞれの文章について自分にどの程度当てはまるか、回答者は五段階で評価をする。テストは3分もあれば終わる。しかも完全に自己申告です。それでもやってみると大いに成功を予測する指標になることがわかりました。ダックワースの発見によれば、やり抜く力は知能指数とはほとんど関係がない。IQが高くてやり抜く力のある人もいれば、IQが低くてもやり抜く力のある人もいたのです。

 

ペンシルベニア大学では、入学時の成績が比較的低くても、やり抜く力のスコアが高い生徒はその後のGPA(評定平均)が高かったそうです。英単語の全国スペリングコンテストでは、やり抜く力の高い子どもが最終ラウンドまで残る確率が高かった。そして、陸軍士官学校でも新入士官候補生を対象として、過酷な夏期訓練のまえにテストを実施しました。陸軍には独自に開発した複雑な評価システムがあり、どの候補生が厳しい要求にこたえて生き残れるかを予測していました。しかし、どの候補生が過酷な訓練を乗り切り、脱落するかを正確に予測したのは、ダックワースのシンプルな12の設問によるグリッド・スケールのほうだったのです。

 

やり抜く力というのは、粘り強さということにもつながります。確かにこのことは知能指数とは違った力です。最終的な目的に向かってやり抜くということは成功の条件としてはかなり重要なものということは否定できないことです。そして、それは「自制心」とはまた違った別のものとしての力であるのですね。