性格の強み

KIPPのディビット・レヴィンはここを卒業した最初の生徒たちが大学で苦戦しているということに心を痛め、その対応策を探るため、大学のデータを集め始めます。しかし、最初のクラスだけではなく、2番目・3番目のクラスからも大学中退の知らせが舞い込むようになるとレヴィンはある興味深い事実に気づきます。それは大学で粘れるのは必ずしもKIPPでトップの成績をとっていた生徒たちではなかったのです。その生徒たちにはどういった特徴があったのでしょうか?

 

大学で粘ることができた生徒たちは「楽観的だったり、柔軟であったり、人付き合いにおいて機敏だったりといった、何か他の才能や技術を持った」生徒たちだったのです。そういった生徒たちは悪い成績を取ってもすぐに立ち直り、次回はもっと頑張ろうと決意できる生徒たちでした。親とのケンカや不幸な別れから立ち直ることのできる生徒、講義の後に特別に手を貸してくれるように教授を説得できる生徒、映画でも観に出かけたい衝動を抑えて家で勉強のできる生徒だったのです。こうした性質そのものはそれだけで学士号をとるのに十分な条件にはなりません。しかし、家族からの援助を当てにできない若者、裕福な学友たちが享受しているセーフティネットを一切持たない若者にとっては、こうした気質は大学を卒業するために欠くことのできない要素だったのです。

 

レヴィンが気が付いた大学卒業者に共通する気質は、ジェームス・ヘックマンや他の経済学者が非認知的スキルと呼ぶものと重なる部分が大きいのです。しかし、レヴィンはこのことを「性格の強み(キャラクター・ストレング)」と言っています。1990年代をはじめ、KIPPがヒューストンのミドル・スクールの教室が始まって以来、レヴィンと共同創立者のマイケル・ファインバーグは学力と同時に気質を育てる授業をしようと明確に意識してきました。壁には「コツコツ勉強」「人にやさしく」「近道はない」といったスローガンを掲げ、分数や台数だけではなくチームワークや共感や粘り強さを教えられるような褒賞と罰点のシステムを作り出しました。

 

もともとレヴィンとファインバーグは、新卒の若者を教師として派遣するNPO「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」の第三期派遣団の一員としてヒューストンにきました。もともとは大学を出たばかりの無知な教師でした。最初のころはそれまでに会ったことのある革新的な教育者たちから授業のコツや戦略を借りることで、掛け算表からシェイクスピアまでどの強化も教えやすくなりました。しかし、気質の教育となるとレヴィンもファインバーグも手本を見つけることができないでいました。確立されたシステムがなく、それどころか議論もほとんどされていなかったので、KIPPでの話し合いは1から始めるしかありませんでした。どういう価値観や行動を、なぜ、どうやって育てるのか、教員と理事で毎年改めて意見を出し合うことをしていったのです。

 

その中でレヴィンは一つの本と出合います。そして、そこでの説明の多くが自分や同僚の教員や生徒に当てはまると気付いたのです。