関わりの改善

 

リーバーマンは過去の心的外傷やアタッチメントの不全は克服できるという事実をミネソタ大学のスルーフやエゲランドの研究では充分に強調されていないと言っています。不安定な愛着関係を健全な機能する安定した関係を育む接し方に変えるのためにはどういった助けが必要なのでしょうか。リーバーマンは親子心理療法を開発し、エインズワースの愛着理論と心的外傷につながるストレスに関する最近の研究とを組み合わせました。親所心理療法では幼児のセラピーと危機にある親のセラピーを同時におこなって、親子関係を改善し、親と子の両方を心的外傷の影響から守ろうとしています。このように親子の関係を強化することで子どもの行動を改善しようとする姿勢はアメリカ中で様々な支援方法を生んでいます。

 

ミネソタ大学の心理学者ダンテ・チケッティは137家庭を追跡し、児童虐待の経歴を記録しました。これは子どもが極めて高いリスクにさらされていた家庭の記録です。そこでは「安定群」に分類された幼児はひとりだけであり、90%の子どもが、葛藤に満ちたアタッチメントを抱く「無秩序群」に分類されていました。その後、137の家庭は無作為に治療グループと対照的群に分けられ、親子の心理療法を受けます。すると、1歳の子どもが2歳になった時点で治療グループの61%の子どもが安定した愛着関係を形成しました。その逆に「対照群」ではそれはたったの2%だったのです。つまり、このリーバーマンの親子心理療法は安定した愛着関係を育むことは問題を抱えた親にも可能であり、親と子の双方にとって極めて有益なものになるということを示したのです。

 

また、オレゴン大学の心理学者フィリップ・フィッシャーは里親制度においても実験されていました。というのも、里親制度に頼って暮らす子どもたちはしばしばストレス対応システムにトラブルを抱えていたのです。そこで家庭内の対立や困難な状況をうまく処理するためのアドバイスを6ヶ月おこなっていくと子どもに「安定群」の兆候だけではなく、コルチゾール分泌のパターンに変化が見られ、機能不全から完全に正常になっていることが見られました。

 

里親と幼い子どものための介入プログラムには、他にもデラウェア大学の心理学者メアリー・ドージアが開発した「アタッチメントと生物学的行動のキャッチアップ(ABC)」があります。これは幼児の発する信号に注意深く、温かく、落ち着いて反応するよう里親に促すという方法がとられました。すろと10回ほどの家庭訪問をしただけで子どもたちが安定したアタッチメントを示す割合が高くなり、コルチゾールレベルも一般家庭の子どもと変わらなくなったのです。また、ドージアの支援プログラムにおいて注目すべき点は、親だけが治療を受け、子どもには何もしないところです。それでも子どものHPA軸の働きに極めて大きな効果を及ぼしているのです。

 

このことから見ても、「大人が子どもたちにどのように関わるのか」は、子どもたちの将来に大きな影響を与えるということが分かります。そして、親が家庭内の対立や困難な状況をうまく処理することや子どもの発する信号に注意深く、温かく、落ち着いて反応することなどが挙げられていました。このことは保育に置き換えると「行事に追われるのではなく」といったことであったり、「余裕を持って子どもたちと関わる」といったことであったりと置き換えることができます。子どもと関わる大人や保育者、保護者自体にある程度の余裕や寛容さがなければ、それは子どもにとっても有益なものは与えられないのだろうことが分かります。