ストレス反応
産業医として年間1000人以上のビジネスパーソンの産業医面談を行う武神氏はストレスについて、あることを指摘しています。多くの人は仕事質や量、職場の人間関係を原因としたストレス、不安、悩みで面談に来るが、多くの場合はこれらのことを改善するために来るわけではないというのです。それらはあくまで「原因」で、落ち込んだり、眠れなくなったり、集中できなくなったりと様々なストレス症状を呈して、その症状の相談に来るというのです。つまり、「原因の改善」の相談ではなく「ストレス症状」の相談に来るのです。しかし、その一方で、同じような職場環境で、同様のストレス原因にさらされていながらも、ストレス症状が出ない人もいます。その違いはどこにあるのでしょうか。
ストレス原因とストレス症状の間にあるのは、個々人のストレスへの“反応”だと武神氏は言います。ストレスに反応する中で、「反応自身がストレスになってしまう」というのです。そうなると人はストレス症状がでるようになり、メンタルヘルス不調になっていくのです。この反応は、個人の認識や心がけ次第で、単なる反応で終わらせることができる場合と、ストレスに感じてしまう反応(反応性ストレス)になる場合があるのです。【ストレスの原因→反応→ストレスに感じてしまう反応→ストレス症状】という順序です。メンタルヘルス不調にいたるには反応性ストレスに至るかどうかがネックになってくるのですね。そして、この反応性ストレスには3つのタイプがあると言います。それが①がんばるストレス ②我慢のストレス ③ガス欠ストレス です。
一つ目の「頑張るストレス」です。これは優秀な人も知らずのうちにため込みやすいタイプのストレスです。近年、仕事の量は増え、また求められる質も高まっていく上に、社会構造の変化とともに、仕事のスピード化が求められています。そのため、質も量も増えていく中で、優秀な人材ほど仕事が集まりやすい状況になっているのです。結果、優秀な人ほど早く帰れるのではなく、仕事が集まってしまうがゆえに遅くまで残業していくのです。最初のうちは上司や同僚からの信頼や感謝がモチベーションの源になりますが、次第にこの優秀な人の「頑張り」は本人にとって以上に周囲にとって頑張り続けることが普通になってきます。「みんなのために頑張っている。しかし、それが普通になり認められなくなる」それをふと感じた瞬間に報われない感覚が一気に押し寄せてきます。そして、張り詰めた気持ちが切れてしまうことになるのです。肉体的あるいは精神的な疲労の蓄積に気づき、今までの「頑張っていた反応」が“反応性ストレス”に変わるのです。メンタルヘルス不調は、仕事への適性が欠けている人(いわゆる能力不足)だけではなく、チームの頼りになる花形選手のメンタルヘルス不調はこのように生じているパターンが多いそうです。
できる人ほど、責任感がある人ほど、こういった張り詰めた仕事をしてしまいがちになるのです。その時に、「弱音や愚痴」をはける場やコミュニケーションをとる場といったようにガス抜きができる場があるとまた違ってくるのでしょうが、「頑張る」人は一人で抱えて頑張ってしまいがちになることが多いようにも思います。風通しのある職場であればこういったことが起きることは少ないのでしょうが、そうではないと、一人で抱え込んでいるうちにメンタルヘルス不調に陥ってしまうのだろうと思います。いい人材がいなくなってしまう職場はこういった「頑張らなければいけないこと」を抱えがちになるからなのかもしれませんね。