運動と集中力

集中力についても、運動は少なからず大きな影響を与えると言えるようです。集中力を調べる際、「選択的注意」を調べるエリクセン・フランカー課題が行われました。選択的注意というのはたとえば、喫茶店で人と話している時を想像するとわかりやすいように思います。騒がしい喫茶店で話をしていても、相手の声が聞こえると思います。それは騒がしい喫茶店の音を人は遮断し、相手の声に集中しているからでいる芸当です。これができないと、いろいろな音に反応してしまい、相手の声が聞こえなかったり集中できなかったりします。ADHDの人は割とそういった状態にあるようです。いろいろなところが気になってしまい、集中できないのです。

 

このように、この「選択的注意」をするテストをする中で、被験者が運動をすると選択的注意力と集中力が改善したようです。MRIを通してテストを受けている時に脳を観察していると、頭頂葉と前頭葉が活発に動いていたことがわかりました。この領域は意識を集中し、その状態を維持する機能を司る部分です。なお、このテストを行う際、健康状況も調べたのですが、健康状態が万全な人の方がテストもうまくこなせ、選択的注意力が優れていたことがわかりました。では、「健康な人が選択的注意力が高い」というと、必ずしもそうとはいえないようです。なぜなら、それは運動によって体調が改善して集中力が高まったというより、もともと集中力が高い人がたまたま運動を楽しむ傾向にあり、そのため健康だった傾向があるともいえるからです。

 

そのため、今度は新たな被験者を通して、運動により健康になったことで選択的周囲力が改善するか調べることが始まりました。1つのグループはウォーキングを行い、2つめはヨガやストレッチといった心拍数が増えない負荷のかからない運動を行います。どちらのグループの同じ活動頻度と時間をもうけ半年間続けました。その後、選択低注意力を改善しているか、エリクセン・フランカー課題を行いました。するとウォーキングのグループはテスト課題をうまくこなし、選択的注意力が改善し、前頭葉と頭頂葉が活発化しました。この傾向はウォーキングのグループで見られたのです。つまり、習慣的にウォーキングのような簡単な活動を半年続けるだけで、脳が変わり、選択的注意力が高まるということ証明されたのです。

 

運動は体を健康的にしてくれることやストレスをコントロールするだけではなく、脳の機能にまで影響がみられるのです。注意力が改善したのも、運動によって前頭葉の細胞同士のつながりの数が増えたことが考えられるようです。そのため、情報量が多いような環境になったときに脳が集中力の機能を発揮し、周囲の不要な情報を的確にふるいにかけたというのです。この研究によって、研究チームは「脳の働きが活発になると可塑性が促進され、周囲の環境に対処する注意能力も高まる」という結果に確固たる結論をもったそうです。