未来の記憶

エピソード記憶の実験で、4歳児の子どもは自分の気持ちは「以前とは違うということがある」ということがわかってきたきました。そして、そういったことを理解している子どもたちは、自分の気持ちは今後も気持ちは変わりえるということも理解できるようになります。

 

このことに関して、クリスティーナ・アタンスが行った実験は、まず砂漠に照り付ける太陽、雪に覆われた山頂など、いろいろな風景の写真を子どもに見せてから、「明日ここに遠足に行くとしたら、何を持っていけばいい?」と聞き、サングラス、貝殻、防寒着、氷の中から持ち物を選ばせました。続いて、「なぜ、これを選んだの?」と聞くと、4歳、5歳の子は、先の危険を予測して、それを防げそうなものを選んでいることが分かりました。(砂漠にはサングラス、雪山には防寒着)また、その理由も「目が痛くならないように」とか「風邪をひかないように」など、未来の適切な予測に基づくものでした。ところが、3歳児ではこうした適切な答えがずっと少なく、サングラスも貝殻も、砂漠に必要だと考える傾向があったのです。

 

乳幼児の現在の願望を未来のために抑制する「実行制御」の能力が育つのは、自伝的記憶が作れるようになるのとほぼ同時期です。子どもが自分の心に働きかけられるようになるのは、3歳から5歳にかけてです。目の前のクッキーを我慢するマシュマロ実験のようなものでは、子どもたちは歌を歌ったり、口笛を吹いたり、目をつぶったりして、誘惑から逃れようとするのは、未来に自分を投射しているからではないか、未来の自分を予測ができるから待とうと自分を成業できるのではないかというのです。

 

これより幼い赤ちゃんも、別の世界を思い描き、その実現に向けて働きかけをすることはあります。ですが、実行制御をするためには、別の自分を思い描く能力も求められます。そのして現在の願望と未来の願望が食い違うとき、その能力が使われます。また、その時には、現在の感情と未来の感情の因果関係も分かっていなければいけません。たとえば、「今はサングラスはいらない。でも明日砂漠に行ったらほしくなるのでは?」とか「今は一枚でいいからクッキーが食べたい。でもこれを食べてしまうと、あとで2枚のクッキーをもらえない。そうなったらいやだな・・」といったように現在の感情だけでなく、今こうしたら未来の自分はどう感じるだろうと考え、必要なら自分の心を抑制するというのが実行制御です。

 

実行制御(機能)においても「記憶」というものは大きく関わっているのですね。確かに自分のことを客観的に見ることや、先の自分の気持ちを予測できていないと実行機能のいわゆる「目標を達成するために自分の気持ちをコントロールする」ということにつながりません。そのためには「目標」を見通しておかなければいけませんし、その時の自分の感情も予測できていなければいけません。よく実行機能においては、様々な「体験」を通すことが必要と言われます。ということは、子どもにとって体験というもの自体が記憶や因果関係を得ることにいかに大きな影響を与えるのかということが見えてきます。つまり、主体的に関わることがその後の学習にも大きくつながるということの根拠ともいえることが見えてきます。