社会の変容と好奇心

前回まで、「モラル」ということを軸に人間性や人間力、人とのかかわりを保育の中で重要視していく必要があるという話を書いてきたのですが、これはこれからの社会で生きていくにあたっても重要になってくる事案だと思います。その人間を思いやるような力はこれまでのような学歴や成績以上に重要になってくるであろうと思っていたのですが、このことについて池上彰さんの「未来予測 After2040」にもこれまでとは違った能力が未来の社会では必要とされることを示唆する内容が書かれていました。

 

これからの時代の変化は間違いなくAIが業務にかなり多くの割合で使われるようになります。そして、今現在ある仕事が無くなってしまうものも多くあり、それは簡単な単純作業の代替だけではなく、業務によってAIに置き換わるようにもなってくるといわれています。たとえば、裁判の判決を行う裁判官や検察官、弁護士が判決を出す際、判例によってある程度結果が決まりますが、過去の判例のデータを効率よく出すのはまさにAIの得意とするところです。なので、弁護士の補助的な業務をするパラリーガルのような仕事は減ることになるだろうと言っています。また、会社の経理もAIと相性のいい仕事です。記者の仕事も、結果を伝えるような記事やデータをまとめるような「コタツ記事」のようなものはAIが得意とするところです。驚くことに生成AIは日本経済新聞が主催する文学賞「星新一賞ており、2022年AIと人間が共同で作った作品が初めて入選しました。最近ではNHKの番組でのニュースの読み上げがAIをしていることもすでに行われています。このようにすでにAIが社会の中で少しづつ浸透している現状があります。もうすでに無くなってきているものもあります。レストランではタッチパネルでの注文になっていたり、コンビニやスーパーのセルフレジなど、こういったものはすでに代替が始まっており、スタッフがいなくてもよくなっている現状があります。

 

しかし、一方で、AIをうまく使いこなす人は確実に生き残るといっています。現在アメリカでは生成AIに対して優れた指示(プロンプト)を出し高品質な答えを引き出す「プロンプトエンジニア」という仕事が需要や年俸も高くなっているそうです。しかし、この職業も2040年には消えるとみられており、今後需要として増えるのは「企業ごとの専門知識や個性を身に着けた『最適な』な生成AIを作っていく『AIトレーナー』という仕事」だそうです。このように新しく需要のある仕事を生み出すのは「困っている誰かのために」などと仕事の目的や意義を常に考えられる人でないと不可能であり、やはり人間力が大事になると池上氏は言います。「だれのためにAIを使って作るか」といったクリエイティブな能力と思いやりを持った人を予測する力が必要な世の中になるのだと思います。

 

このように仕事の価値がこれまでと大きく変わると思うと不安になってきます。しかし、池上さんは「2040年は暗い未来が待っていると思えるかもしれません。しかしそういう時は思い切って好奇心をもって、新しい仕事に挑戦するしかありません」と言っています。ここに教育の一つ目の重要点が隠れています。それは「好奇心を持てる人材を育てる」点です。新しい社会が待っていており、それに対して悲観的にしていても、しかたありません。その時代にどう生きていけるかといったときに、そこに柔軟に対応する力が必要になります。そのために「好奇心」は非常に重要なスキルになります。

 

特に乳幼児教育は学校教育とは違い「できること」を目的としていません。「楽しむ」や「味わう」「豊かにする」という言葉が教育要領にも多く語尾として出てきます。私はそういった意味で乳幼児教育は「好奇心や探求心」を育むことができる一番の時期であると考えています。そして、社会で一番重要なことを得る時期において、乳幼児教育の影響はかなり大きいように思います。