思いやりと社会力

昨今でも、色々な事件が起きています。あおり運転、無差別な殺人、衝動的な事件など、これまでなかったかのような問題がたびたびニュースに取り上げられ、ずいぶんと物騒な時代だなと感じることが多くあります。その中で、門脇氏はアメリカのハーバード大学のある研究を紹介していました。

 

ハーバード大学のパットナム教授はアメリカ50州全部について、その週の社会関係資本の豊かさによって、それぞれの州の地区の福祉水準や子どもたちの教育レベルや非行や犯罪率に大きな差があることを示しました。(「孤独なボウリング」柴内康文訳 柏書房)これは、社会関係資本つまりは住民の人的ネットワークが強いと ①福祉水準が高く ②子どもの成績もよく ③犯罪や非行は少ない ということが言えるというのです。地域の中で生活する住民のつながりがしっかりしているほど、子どもだけでなく、大人たちにとっても住みやすい地域になるということが言えるようです。そして、つながりが強いということはその地域に住む住民一人ひとりの社会力が高いということが言えるのです。住民の社会力がしっかり育っているからこそ、地域の人間関係が濃密になるのです。

 

このことをはじめの今起きているニュースの話題に戻すと社会力というものが関係しているのかもしれません。社会力が育っていないと様々なところで不都合が起きると門脇氏は言っています。まず、個人的には他の人といい人間関係が作れなくなります。つまりは仲良くなれないということです。会話が無くなり、共に活動することが出来なくなります。他の人を深く理解することもできなくなりますし、自分のことを理解してもらうことも難しくなります。当然、相手への愛着や信頼感を持つことも困難になってきます。これは現在起きている引きこもりの原因でもあると門脇氏は言います。引きこもりは現在社会において非常に大きな問題です。

また、社会力が乏しい人が多くなると、他の人に無関心になり、他の人を疎ましく感じるようになります。さらに、お互い相手を疑ったり、警戒したり、危害を加えてもなんとも思わなくなるといいます。これが冒頭で話していた内容です。今起きている事件やニュースであったり、ひいては世界で起きているポピュリズムであったり、無差別テロや貧富の格差などもこの社会力が影響しているといっています。そのため、門脇氏は個人と個人の間の関係を良くし、他の人の事であっても自分の事のように思ったり考えたりできるような社会力のある人を育てていかなければいけないといっています。

 

いくら時代は進み、様々なものが開発されて便利な世の中になったとしても、人が生きていく社会において、この社会力といった力は重要になってきます。保育においても、この「相手を思ったり考える」ということを「思いやり」といい、その力を育てることを大切にしていることが多くあります。その力は門脇氏の言葉を借りると「社会力」言えるのですね。