前頭葉と運動

海馬のようにストレス反応を抑制するブレーキはほかにも存在します。それが「前頭葉」です。「前頭葉」は脳の話になると特によく出てくる部位ですし、保育においても無縁ではいられない部位です。この前頭葉の前の部分、「前頭前皮質」は、人間が生物の中でも非常に大きく発達している部位でもあり、判断や意思決定、計画、抑制(衝動のコントロール)、社会的行動、自己意識や将来の予測、ワーキングメモリ(短期記憶的な働き)をつかさどる、高次認知機能をつかさどる部位です。たとえば、ストレス下に置かれたとき、抽象的思考(仮説を立てる)や分析的思考(状況を把握する)といったことを通して、感情が暴走しないように思考を通して、理性を失わせないような働きをします。かなり重要な部位です。しかし、この前頭葉、海馬のようにストレスを受け続けると委縮するようです。実際、極度の心配性の人は前頭葉の各部位が小さいことがわかりました。

 

前頭葉の委縮が起きた場合、ストレスが長引くと、脳は自らを蝕み、歯止めが利かなくなります。つまり、心配が心配を呼び、次に次に悪い方向へ考えてしまい、それは歯止めの利かないストレスが波状攻撃状態になってきます。結果、このストレスが悪循環に陥り、海馬も前頭葉も正常に機能しなくなります。もし、前頭葉が正常に働いていれば、持ち前の分析的な思考や抽象的な思考を通して、今の状態を分析し、改善策をたてるようにポジティブの考えることができるでしょう。前頭葉が活発に動くと気持ちが穏やかになり、ストレスは減るというのです。

 

運動は前頭葉・海馬といった脳の領域を強化するのは言うまでもないのですが、これは体を動かすことにより、脳に大量の血液が流れるからではないかと思われます。運動を長期に続けることで、前頭葉に新しい血管が作られ、血液や酸素の供給量が増え、老廃物をしっかり取り除くからです。そのほかにも定期的な運動は前頭葉と偏桃体との連携を強化することがわかっています。そうなると偏桃体はさらに効率よく前頭葉が制御できるようになってきます。これは運動が物理的に前頭葉を成長することになるということが言えます。1時間程度の散歩を習慣化している健康な成人の前頭葉を定期的に測定した結果、前頭葉を含む大脳皮質が成長していたようです。問題は、一時的な運動ではなく、定期的に続ける必要があるということです。何か月かは運動を習慣化することで、これまで紹介した効果が見られるようになるのです。

 

また、この運動について、基本的にここで言われる運動はウォーキングやランニングといった有酸素運動です。ただ、脳に大量の血液を流すように息が上がるくらいの運動ということで、ウォーキングよりもランニングやサイクリングのほうが効果があるといわれています。では、筋トレはどうでしょうか?実は筋肉を増強したマウスもストレスの影響を受けないことが分かったそうです。マウスの筋肉中にはストレスによって代謝される「キヌレニン」という物質を無害化する物質が含まれていたそうです。この物質があることによって、キヌレインといった代謝物が筋肉中の成分によって無害化され、脳に到達できないように作用するそうです。この対応物質は人間の筋肉にも含まれているそうです。

 

とはいえ、筋力トレーニングだけでストレスの解消にいたるのかというと最新の研究知見では十分ではないようで、ランニングやウォーキングといった有酸素運動との両方を取り入れていく方が適切だといえるそうです。