魔法の言葉(平成19年度3月)平成20年3月

1年って本当にアッという間のような気がします。年をとったせいでしょうか?毎日の忙しさのせいでしょうか。だけど、不思議な事に子供達の進級や卒園を目の前にするこの3月は急に時がゆっくり流れていくように感じます。

特に朝、子供達が登園して体操服に着替え、園庭で先生や友達と走り回って遊ぶ姿や、友達と何やら内緒話をしていたり、少し陽が差して暖かいお昼には給食を食べて小川にかかる橋に座り話し込む…そんな様子を少し遠目から心の中の言葉を想像しながらながめている時間は、とても緩やかな時の流れで心地よく感じるられるのです。この1年間は、子供達と先生達にとってどんな時間だったのでしょうか。手を握り、言葉を交わしながら心を結んできました。この繋がりは、担任のない私にとっては妬けるほど深いものです。どうか、この繋がりをいつまでも大切にしてほしいと思います。先生からかけてもらった言葉や手の温もりを忘れないでいてほしいと思います。


子供達は、大好きな人の言葉はスーッと心に入ってくるようです。
1月に来年度入園児の用品・制服注文の日を設け、たくさんの親子が幼稚園にやって来てくれました。まだまだ、集団生活を知らない幼すぎる子供達です。サイズを合わせようとママが一生懸命に制服のブレザーを持ってお子さんに近づくと、「いやだー!」と逃げ回ります。いやなものはいや!なのです。今まではみんな、いやだったらそれで済まされる生活を送っていたのですから…それは、極々当たり前の事。おまけに、おもちゃの入っているクローゼットを「開けて!開けて!僕は遊びたいんだよ!!」と、そのドアを叩きながら泣いてママを困らせていました。

一向にサイズ合わせははかどりません。そこへ、園長先生が近づきその子の目線に合わせ、膝まづき、「アラッ!ちょっとちょっと、僕、ここを持ってごらん。開かないねぇ。今日は、おもちゃはお休みかな?カギが開いてないね。あーぁごめんごめん、今度カギを持ってきておくね。ねっ、葉子先生、今度は開けておいてあげてね。」とすかさず私に振ってきました。私も「あーぁ、ごめんなさい。園長先生、今度おもちゃがお休みじゃあない日には、カギを持って来ておきますね。」と演技をします。
その子は、呆気にとられたのが半分、納得したのが半分のような顔で、諦めてママの「制服を着てみようか。」の言葉にやっと耳を傾けてくれました。


これもよく目にする光景ですが、スーパーのお菓子のコーナーで、「これ買って!これ買って!」とママにせがみ、ママがヒステリックに叱り諦めさせようとしていたり、子供の言葉を聞かぬふりして買い物をし続け、言っている事を聞いてもらえないその子が、歩き続けるママを大泣きしながら後を追っている…。私は、思わず抱っこしてやりたくなります。少しゆっくり話してあげれば落ち着くだろうに…おんぶしてやれば、素直にこちらの言う事に耳を傾けてくれるだろうに…と思うのです。

少し前に同じようにママにキャラクターの箱に入ったクッキーをせがむ男の子がいました。そのママは、その箱を手に取りじっくり見ています。男の子はもう買ってもらえる気になっているようでした。その後、ママはしゃがんで男の子に話し始めました。「かっこいいねーこれ。でも、ここに書いてあるよ“お菓子は少ししか入っていません。たくさん食べたい人はやめた方がいいです。”って。」その次に「ママが、このクッキーならもっとおいしいのをいーっぱい作ってあげるよ。そうしようよ。いっぱい食べたいもんねー。」と続けました。男の子は、ママの言葉に乗せられて「そうしよう!そうしよう!いっぱい!いっぱい!」と飛び跳ねながらママと一緒に行ってしまいました。


それはそれは、アッパレ!!でした。ただただ、ダメダメと否定するのではなくて、少し子供の気持ちを汲み取りながらゆっくりと話してやるのです。制服のサイズ合わせの時の園長先生の言葉も、スーパーでのママの言葉も、正に“魔法の言葉”です。“ウソも方便”だって“魔法の言葉”になるのです。子供達は自分でも、きっとこれ以上わがまま言うとママに叱られちゃうな…っていう事はわかっているのです。でも、ママにはねのけられるともう後に引けなくなるのでしょう。最後には、ママとの意地の張り合いです。傷つけ合いに発展しかねません。子供の気持ちに寄り添う気持ちで、話を聞いてやって欲しいと思います。

でも、いけない事はいけないとはっきり伝えてやってください。自分に寄り添ってくれているのを感じていれば、それもスーッと心に響くと思います。そんなの理想よ。なんて思わないで、もしこんな場面がやって来たら、子供の話を聞いてやりながら、汲み取ってやれる事には共感した上でさとしてみてください。魔法をかけるつもりで…。ママの言葉は愛情いっぱいで子供達にとって一番耳に入るはずですから。


頭ごなしのダメ!や注意には、子供達は自分から耳をふさぎ、シャットアウトしてしまいますよ。幼稚園の先生は“魔法の言葉”をかけるのがとても上手です。魔術話術でこの一年間何度魔法をかけた事か…。アッ!!毒リンゴは食べさせてないですよ。ご安心を。