自立の一歩(平成21年度8月)

今日で、1学期が終わりました。子供達にとってはもちろんの事、保護者の皆様にとっても、新しい環境の中での生活はどうだったでしょうか?


子供達にとっては、新しい環境を受け入れ、そこに楽しさをたくさん見出せるようになった1学期だった事でしょう。さあ!明日から夏休みです。幼稚園とはまた違った夏の経験が子供達を待ってくれているはずです。


さて、年長組にとっては、1学期最後を締めくくる大きな行事が待っています。合宿保育です。毎年、三次中央幼稚園では、島根県の三瓶山に1泊2日のお泊り保育をします。毎年の事ながら、先生達はその日を迎えるために、随分前からその準備をしています。子供達にとってはもちろんの事、お家の人達にとっても心配でたまらない事でしょう。毎年、不安が大きくて、「うちの子が行きたくないと言っているんです。どうしたらいいのでしょう?」と言われるお母さん方が何人かおられます。また、先生達は、子供達にその日を心待ちにできるように、いろいろな話術で一生懸命に合宿保育の話をするのですが、不安そうな顔でそれを聞いている子も何人かいます。お家の人から離れて生活した経験が少ない子にとっては、その不安は当たり前のことでしょう。その2日間にどんな事があって、どんな生活をするのか全く想像がつかないのですから……。


合宿保育の目的は、大自然の中に身をおき、自然に関心をもったり、友達と生活を共にする事によって、人間関係や仲間意識を深める等があげられますが、もう一つ、“親元から離れて集団生活をする事により自立心と主体性を養う”という事があります。合宿保育の2日間は自分でできる事はできるだけ自分で…、困った時は友達と助け合う、自分で考えて行動する等、その目的を果たすための材料やチャンスがたくさんあるのです。
何年か前に、現地の宿泊所につき、子供達に荷物の整理をさせようとリュックサックを持って座らせました。「歯ブラシとタオルを出して、ここに並べておきましょう。」と声をかけると、何人かの子供達が、「ないない!」と慌てていました。焦って、リュックの中をぐちゃぐちゃとひっかきまわして探すのです。「どうしたの?どこに入れていたの?」と聞くと「知らない。」というのです。自分が入れたのではなくて、お母さんが入れたからどこにあるのかわからないというのです。その子達はそれからも、「下着がない。」「ビニール袋がみつからない。」と度々手伝って探すような事になりました。きっと、お母さんが、わが子が行った先で困らないように、一つ一つ新しいものを揃え、それまでに念入りにチェックしながら準備をされたのに違いありません。しかし、その子達は荷造りできたリュックを「はい、これが荷物よ。行ってらっしゃい。」と渡されただけですから、何がどこに入っていて、何のためにそれが必要かという事を確認していなかったのです。それから、次の年の保護者用の案内のプリントには、親子で一緒に確認しながら準備をしてくださいという文章を加えました。忘れ物がないか、どこに入っているかという事はお父さんやお母さんだけではなく、子供自身が気にして、確認する事なのです。それは、現地で、困る事なく必要な時に必要なものが自分で用意できるようにするためですが、自分の手で準備をする事によって、未知の時間や経験を自分なりに予測することができ、漠然とでも分かったらこの未知なる経験を楽しみにも思えるようになるでしょう。そのための心の準備でもあるからです。これからいったいどんな事があって、そこで自分がどんな事をするのかが、わからないから、いろんな事が不安に思えるのです。“合宿保育”という経験の中で自立させるための“初めの一歩”は準備からもう始まっているのです。


年長組の子供達は、この合宿保育から一気に自分に自信を持ち始めます。“できることは自分で頑張る”“自分達で使った物や部屋をきれいに片づける”“友達と助けあう”“楽しく過ごすルールを知り守る”…これらのいろいろな事が、家庭ではできない経験の中で子供達を自立へと導いてくれるのです。心配だったり困っている顔を見るのがかわいそうでつい先まわりしたり手を貸してしまう──、それは、純粋な親心ですが、見て見ぬふり…ではないけれど、目や手の届かないところでこそ、子供達はグッと成長してくれるはずです。どんなささいな事でも自分でできた!という思いは、子供の心に大きな自信となって残ります。自信は次のチャレンジ精神にも関わってきます。自分の中の隠れていた力に気付き、次なる目標へ向かうエネルギー源となるのです


毎日の生活の中でも、大人が先回りをして、予防線をはってしまっているような事はありませんか?「自分ひとりでできる!」「やってみる!」という気持ちの邪魔をしないように、任せてみたり、一緒に取り組んでみてください。長い夏休みを終え、子供達がどんな顔に変って登園してくるかを楽しみにしています。自立への第一歩だと思って、静かに見ていてやってください。家族への依存の世界からほんの少しだけ自立の世界へと導くために……。