ぼくだけみてて!(平成22年度12月)

朝、園庭一面に敷きつめられたイチョウやモミジ、カエデ等の落ち葉に思わず感動します。幼稚園の庭は、春夏秋冬一年を通して季節を感じる事ができるのです。子供達も首や頭に可愛い手づくりアクセサリーをつけてご機嫌で帰っているのではないでしょうか?

保育室の子供達のロッカーの中に、きれいな落ち葉や、小さな木の実が宝物のように入れてあるのも微笑ましい光景です。

その園庭に今、たくさんの歌声や楽器の音が響き渡っています。12月に控えているフロアーコンサートに向けて、今、各クラスや学年での取り組みの真っ最中です。年少組は、保護者有志の方に作っていただいた衣装を身にまといお遊戯を、年中・年長組は、たくさんの楽器を使って合奏をします。毎年、この経験を通して、子供達の力の凄さや子供達の中に見られる成長には大きな感動を与えられます。本番を迎えるまでに、この子達がどんなに頼もしく成長してくれるだろうかと楽しみにしながらその練習を見ています。

今月中旬まで、年中・年長組は各クラスで楽器のパートに分かれて練習をしていました。その後は、ホールに全ての楽器を搬入し合奏の練習をしています。パート練習をしている頃、時々クラスを回ってその様子を見ていました。そんなある日の事、年長組の打楽器の練習を見てみようと部屋に入ったら、子供達が自分の使う楽器を準備している最中でした。ある男の子が「聴きにきたの?」と言うので「そうだよ。職員室にもよく聴こえて来るから、どんな事をしているのかな?と思ってね。」──。その子は、少しぶっきらぼうに、でも嬉しそうに「聴いてていいよ。」と言ってくれました。子供達の前に立っていると、「もう少しこっちに来ないと僕が見れないよ。」と言うのです。意外でした。その子は照れ屋で、ストレートに本音を言ってくれないタイプだと思っていたので、「僕を見るのならここにおいで。」と誘ってくれた事に驚きました。それどころか、その子を見ながらも、他の打楽器を練習している子を見ていると、一曲終わった所で、「さっき、僕じゃあない人を見てたでしょう!!」と少しご機嫌斜めな顔で私に言うのです。「エッ?!ちゃんと見ていたよ。みんなを見ながら見ていたよ。」と言うと、「ダメよ!僕だけ見て!」と怒った顔で言いました。そう言えば、運動会の鼓隊演奏の練習の時にも、練習が終わったら「僕を見てた?音聴いてた?」とよく聞いてきていました。普段は私の前ではクールにしているのに、ぶっきらぼうではあるけれどぽろっと子供らしい本音を言ってくれた事がやけに可愛く思えました。

子供達はいつもこんなふうに、自分を見ていて欲しいと思っているのです。頑張っている姿を見て褒めてもらいたいのです。また、鉄棒で逆上がりができるようになったり、太鼓橋で技ができるようになったりした時にも「先生!!見て!見て!」と何度も声をかけて来ます。「すごい!」と言って認めてもらいたいのです。そんな時に他の場所に行こうものなら「せんせーい!!見てってば!!」ともの凄い声で連呼します。先生にでさえ、こんな風に僕を見ていて!とアピールするのですから、お父さんやお母さんには“凄い自分”を見て欲しいともっともっと思うはずです。見てもらえているという気持ちは、子供にとってはとても大きなエネルギーになっているのだと感じます。いつも、大きな行事の時に感じる事ですが、練習をしている時より、本番の一発勝負の方が子供達の顔つきは自信に満ち溢れていますし、素晴らしい出来栄えだったと子供達自身も満足感でいっぱいになります。本番には、お家の人達が自分を見に来てくださいます。自分のためにあれこれと段取りをして、家族揃って来てもらう。そして、最後には「よく頑張ったね」と誰の事よりも自分を褒めてくれる。それがどんなに励みになり誇らしい事か。

「僕だけを見ていて。」という気持ちは、子供のわがままでも何でもなく心からの正直な当たり前の気持ちなのです。

ただ、「僕だけを…」と言ってくれれば、その子のそう思う気持ちを裏切ったりがっかりさせたりする事はないのですが、そう言えないでいる子もいるはずです。言えないでいたり伝える方法がわからなかったりする子……。それでも、子供達の気持ちはみんな同じだと思います。その気持ちを察知してもらえなかったり、応えてもらえなかったりすると、子供達はお父さんやお母さんの注意を引こうと、わざと困らせるような行動をとったり、赤ちゃんがえりをして手をかけてもらおうとしたりする場合もあります。そうする事で、自分の気持ちをアピールするのです。それは、意識的な場合も無意識的な場合もあると思いますが……。とにかく、お父さんやお母さんの目に自分の姿をいつも映していて欲しいと思っているのです。その気持ちに、どうか、しっかり応えてあげてください。“いつでもあなただけをみているよ”という気持ちを伝えてあげてください。以前にも、書きましたが、愛されている事を実感しながら大きくなる子供達は幸せです。

「今度の参観日にはお母さん仕事だから行かれないわ。ごめんね。」──。「別にいいよ。」と高校生の娘のつれない返事…。「私だけを見に来て!」と言ってくれていた頃が、あぁ懐かしい…。