おばあちゃんの知恵袋(平成25年度8月)

1学期が終わりました。4月、子供達は新しい世界を歩き始め、あれから3ヶ月……。私たち大人にとっての3ヶ月は、ほんの一瞬のような時間かもしれませんが、わずか3歳から5歳の幼い子供達にとっては、長く、その一分一秒が大きな成長に繋がる時間だったはずです。きっとそれは、ご家族の皆さんが一番よく感じておられるのではないでしょうか?できなかった事ができるようになった…こんな事を言うようになったんだ、思うようになったんだ──。色々な場面でその成長に気付かれている事と思います。幼稚園でも、この1学期の間に先生達は、集団の中の個を見ながら、子供達一人ひとりの成長をたくさん見つける事ができました。きっと子供達のこの成長の勢いは2学期にも続くことでしょう。

さて、明日から夏休みです。どんな夏休みを過ごされるのでしょうか?色々と計画を立てておられる事でしょう。遠出をするも良し!遠出はしなくても近場に家族で出かけるも良し!夏休みには、日頃できない事をしっかり経験させてやって欲しいと思います。その一つとして、家族でしっかり会話をする時間をつくってみましょう。お父さんお母さん、そして、おじいちゃんやおばあちゃんとも、近くにいてたくさん関わり合ってみるのです。

先日、あるお母さんからの“れんらくちょう”にこんな微笑ましい事が書いてありました。お兄ちゃんの学校の先生が家に来られた時の事、弟である年長組の男の子が、先生とお話しされているお母さんに、「ねえねえ、お茶飲んでいい?」とか「お水しかないんだけど」と言って来たそうです。お母さんは自分が飲みたいから聞きに来ているのだろうと思っていたら、しばらくして、その男の子は子供用のコップに水を入れ、お盆にのせて「どうぞ!」と先生に出してくれたのだそうです。お母さんは、お客様にお茶を出す事など特に教えたことがなかったのに……とお盆にのせて来てくれた姿に涙が出そうになったそうです。きっと、我が子の成長や気をきかせたそのけなげな気持ちが嬉しかったのだと思います。小学校の先生も、氷も入っていない水道水を喜んで飲みほしてくださったそうです。お母さんが教えていない事でも、子供達は、そばにいるだけで、いろんな事を学びます。このお母さんは、お客様が来られたら、こうして、お茶を出しておられるのでしょう。それをそばでちゃんと見ていたのです。

また、こんなこともありました。年長組のお茶のお稽古の時の事です。その日の掛け軸は『滝』でした。お茶の先生が、「昔の人はクーラーや扇風機がなくても、こんな涼し気なお軸を見て涼しい気持ちになっていたんだよ。」と言われると、その男の子が、「涼しくするために、道に水をまいたりもしよったんよ」と言ったのです。わたしは、驚いて「えーっ、よく知っているね」と言うと「おばあちゃんに教えてもらった」と言うのです。その子のおばあちゃんは、お店をされていて、暑い時には店先に打ち水をされているのでしょう。その男の子は、おばあちゃんのそんな姿を見ていたのだと思います。こんなふうに、何でもない家族の関わりや時間が、子供達の心に印象深く残り、知識となり自分の生活を潤わせる力になるのです。


子供達は、いつも興味津々で世の中を見ています。どんな事にでも(なぜ?)(どうして?)(なるほど!)(すごい!)と眼を輝かせています。この興味に応えてあげたり、刺激を与えたりするには、この夏休みは持って来い!の時だと思います。スペシャルな事を計画しなくても、ただ、そばにいて色んな話をしてやったり一緒に良い時間を過ごすだけで、普段は感じる事が出来ない事を子供達は感じます。おじいちゃんやおばあちゃんと花や野菜を一緒に育てたり、夏の空を見上げて雲を見たり、夕食の支度をお母さんと一緒にしたり、お父さんの日曜大工を手伝ったりする……それだけの事だけれど、そこで、色んな体験や会話の中から…あるいは、見ているだけでも学べる事や感動する事にたくさん出会わせてやれるはずなのです。

小学校の先生に、水道水を運んだ男の子は、お母さんのそばでお客様をもてなす気持ちや方法を見て学びました。お母さんのする事は、絶対的に正しいと信じているからです。おばあちゃんが、道路に打ち水をされる姿を見て、なるほど!と感動しました。おばあちゃんを尊敬しているからです。この夏休みは、お母さんやお父さん、おじいちゃんやおばあちゃんのものしりの引き出しに触れるいいチャンスだと思います。

「日本に住んでいるからには、日にちも、いちにち・ににち・さんにち・よんにち…ではなくて、一日(ついたち)・二日(ふつか)・三日(みっか)・四日(よっか)・五日(いつか)・六日(むいか)・七日(なのか)・八日(ようか)・九日(ここのか)・十日(とおか)と言ってほしいな。」と、お茶の先生が言われました。その言い方を知っている子と知らない子といましたが、言えない子のほうが多かったようです。そんな中、十日(とおか)まで、全部言えた女の子がいました。その子に、「すごいね、どうして知ってたの?」と聞いてみると、「おばあちゃんはそんなふうに言うよ」と答えてくれました。一緒に過ごすだけでたくさんの知恵を分けてくれる家族の存在は素敵ですよね。私もそんなおばあちゃんになりた…い……アッ…まだ少し早いか…。ん?そうでもないか…(苦笑)