同窓会(平成25年度5月)

幼稚園の庭の木々にハナミズキやリキュウウメ、ヤエザクラの花がきれいに咲いています。冬の間、寂しくなっていた枝先には、それぞれに新芽が芽吹き、幼稚園の生活の始まりと同時に新しい命の始まりや自然の逞しさを感じます。

幼稚園に入園したばかりの可愛い新入園児達は、自分の部屋や先生がわかり、少しずつ緊張もほぐれてきているのがよくわかります。進級児達は、お兄さんお姉さんになった事が嬉しいようで、小さいお友達のお世話を一生懸命しようとしてくれています。この子達も少し前までは、不安そうに先生にくっついていたのに…と思い出し苦笑してしまいます。新しい事の始まりにはいつもウキウキします。こんな新年度の様子をもう何年見てきたでしょう。

新年度を迎える少し前に、三次中央幼稚園の先生達にとって、とても嬉しい事がありました。三次中央幼稚園の歴史の中で初めての同窓会が行われたのです。発起人は昨年度の『葉子せんせいの部屋』10月号に登場している17年前に幼稚園を卒園した男の子です。彼は、何年経っても幼稚園の事が忘れられなくて、事あるごとに連絡をくれたり顔を見せに来てくれたりします。私達先生にとっても大切な可愛い子供ですが、彼にとっての幼稚園は今だに居心地の良い場所なのだと思います。いつの頃からか、幼稚園に来る度に「先生!幼稚園の同窓会をしようや。」と、言ってくれるようになりました。「招待してよ。」と言うと、初めは、「俺、そんな事できないし…」「数人でもいいからしようか。」と連絡をいつもとっている友達を呼んでささやかな同窓会をするつもりでいたようでした。しかし、その気持ちを知って彼の同級生である鳥谷芽似先生やもう一人男の子も手伝ってくれ、それぞれに連絡をとり合い結局20名くらいの卒園児が出席してくれる事になったと嬉しそうに報告に来てくれました。その年の子供達の事を知っている先生にもできるだけ声をかけてくれました。理事長先生や奥様も招待し、同窓会当日を楽しみにしていました。企画した彼は、随分責任感と使命感に重圧を感じていたようでしたが、楽しかったあの頃の仲間達に会いたい!先生達に会いたい!会わせたい!…その一心で一生懸命準備をしてくれました。その甲斐あって、当日は、懐かしい教え子達の顔を見ることができました。先生達は当時のクラスだよりやアルバム等を持ち寄り、みんなで見てその頃の事を思い出しました。また、一人ずつ近況報告もしてくれました。同級生同士で結婚している子もいました。産まれた子供の写真を見せてくれて、まるで、孫(?)を見るような気持ちでした。

色んな話の中で、「先生!本当に楽しい幼稚園だった。先生のあの歌が懐かしい!」「段ボール箱をいっぱい使っていつも何かを作っていたのを思い出す!」「はだかん坊になって、絵の具を身体に塗りまくったのがすごく楽しかったなぁ」「音楽発表会…した!した!バチで叩くシンバルだった!」と、次から次へと蘇る思い出話で、盛り上がりました。もう随分時が経った今でも幼稚園の事を覚えていてくれる事に私は感動しましたし、それを「そうそう、そんな事あったよねぇ」と言い合える仲間との付き合いが、今でも続いている事を嬉しく思いました。幼稚園の出会いが、人生の単なる通過点に終わらないで、その出会いを大切にするきっかけができた事も嬉しい事でした。

幼い頃は、大人が間に入ってこその繋がりだったのが、いつの間にか、子供達だけのいい関係ができ、その繋がりを深めていたんだなと思うと、感慨深いものがあります。理事長先生も、そんな卒園児達の様子を目を細めて見てくださっていました。同窓会の締めは、理事長先生のお得意のマジックでした。理事長先生は、昔から、子供達にたくさんのマジックを見せてくださっていました。中でも、頭のてっぺんから入れたコインがお腹の中を通ってお尻から出てくるマジックが、子供達の一番のお気に入りのマジックです。今でも子供達に時々見せてくださいます。そのマジックを久しぶりに見た卒園児達は、食い入るように理事長先生を見ていました。お尻から出た瞬間に拍手と大爆笑でした。「覚えてる!覚えてる!懐かしい!」と教え子たちが騒ぎます。大人のはずなのに、その一瞬は5歳児の顔になっていて、とても可愛かったです。

同窓会が終わって、帰宅してすぐ、お世話役をしてくれた子に「ありがとう。」の気持ちをメールで伝えました。「安心したのとみんなが楽しそうなのを見て本当に俺も涙出そうだった。」と返してくれました。芽似先生も「先生達がたくさんの事を覚えていてくださっている事と今でも大切に思ってくださっている事が嬉しかったです。」と……。また、手紙を書いて、感謝を伝えた先生もいました。本当にこの同窓会を企画してくれて、また、あの頃の事を思い出させてくれた事、幸せな気持ちにさせてくれた事への感謝の気持ちを伝えずにはいられなかったのでしょう。私達の仕事は、子供達が卒園するまでの間だけでは終わらないと思っています。その子達がこの幼稚園から巣立って行ってその後どんな人生を歩み、どんな状況の中で生きているかをいつまでも気にかけ、見守り、いつでも応援し、必要であれば、出来る限り手を差し伸べたいと思っています。それが、私達の“仕事”だと思っています。同窓会で笑う子供達は、私達の大切な大切な教え子で、その子達を育てながら私達もまた育てられたのです。あらためて、私達の“先生”という仕事の意味や、役割、責任そして、その素晴らしさを痛感しました。

今、幼稚園では、彼らより数段小さな子供達を迎え、あの頃と同じ様に新しい生活を送っています。この子達に、将来、また「先生!同窓会しようよ」と言ってもらえる時がくる事を楽しみにしながら、そう思ってくれる関係が築けるよう、一日一日を大切に過ごしていきたいと思っています。