幼稚園での経験が確かな学びに(平成26年度11月)

園庭に、落ち葉がだんだん増えてきました。早い時間に登園して来た子供達が、先生を真似て長い竹ぼうきを難しそうに使い毎朝の掃き掃除を手伝ってくれます。先生達と一緒に掃除をしながら、きれいな落ち葉を見つけたりかわいいドングリを集めたり…。こんな時間も子供達にとっては、楽しい時間のようです。

先日、三次市内のある小学校1年生の2クラスが、動物との触れ合いを求め『生活』の時間を使って、三次中央幼稚園の“なかよし動物園”を見学に来ました。ご存知の通り、三次中央幼稚園では生命の輪廻(りんね)を身近に感じながらその尊さに気付いたり、生き物を慈しむ経験を通し優しく豊かな心が育ったりする事を願い、たくさんの動物を飼っています。ヒツジ・ヤギ・ウサギ・クジャク・カモ・カメ・コイ等、子供達にはどれも大人気の動物達です。その小学校1年生の児童の中には、何人かの卒園児がいて、他の児童達がエサやりに苦労していると「こうやってあげればクジャクは食べるよ」とか、カモが野菜をあまり食べてくれない事を残念そうにしている友達に向けて「カモは、この小川の苔が大好物だからこれをあげたらいいよ」とせっせと小川の石に生えている苔を木の枝でこすり取って集めてはカモにあげていました。友達に教えてあげているその姿は、ひいき目か、頼もしく思えました。何人かの児童も同じようにやり始めました。

1年生達が一番感心を示していたのはヒツジでした。こんなに間近に見ることはあまりなく、自分でエサをあげて食べてくれる大きな動物に触れる機会もないでしょうから…。ヒツジの周りは児童達が持って来て与えた野菜だらけになっていました。そんな時、一人の女の子が「フワフワの毛だね」とヒツジの頭を触りました。それをきっかけにたくさんの子供達が触り始めました。私は、これは良いチャンスだと思い、昔から幼稚園で大切に保管してあるヒツジの毛を刈って紡いだ毛糸を出してその子達に見せてあげました。「これは何でしょう!」と問いかけると「毛糸!!」と答えてくれました。「そう!これは、ヒツジの毛を刈って紡いだ物で、この毛糸が寒くなったらみんながよく着るセーターや手袋やマフラーになるんだよ」と話をすると、「アッそうかぁ」と歓声をあげました。セーターやマフラーが毛糸でできている事は知っていても、また、毛糸がヒツジの毛からできている事は知っていても、全てが結びついていなかったようでした。実際にそのヒツジを目の前にし、フワフワの毛を触ってみて、自分たちが着るセーターとヒツジの関係が頭の知識の中でピタッと結びつき感動したのだと思います。

また、3羽のクジャクを見て、「どれが雄でどれが雌かわかる?」と問うと「白いのが(三次中央幼稚園には突然変異で生まれた白いクジャクがいます)雌!」と言ったり「綺麗なのが雌!」と言ったりする児童がいました。すると、卒園児の女の子が「違うよ!しっぽの羽が長いのが雄よ。」更に「あの羽を大きく広げて、雌に好きです?って告白するんよ」と説明してくれていました。「うん!ブルブルって雌に近づくところを見た事あるもん」と、またもう一人の卒園児が付け加えました。幼稚園にいた時に経験した事が記憶に残り知識になっていたのです。「雄は雌にプロポーズするために、きれいな羽や姿を持っているんだよ。そう思って向うの池にいるカモたちを見てごらん。雄と雌がわかるよ」と言うと、皆がカモの池に向かって走って行きました。そちらの池では「アッ!わかった!こっちが雄だ!!」という声がたくさん聞こえて来ました。

それまでに実際その経験をしていた子供とそうでない子供の知識はこんな風に違ってくるのだと実感しました。多分、この子達は、いずれ学校の授業の中で、動物や植物の雌と雄の区別の仕方を習うでしょう。そこで初めて知る子もいると思います。あるいは、もうすでに何かでその知識を得ているかもしれません。しかし、その前に実際にその成り立ちや姿や様子を目の当たりにしてその時に得た知識は、リアルに子供達の頭の中に刻み込まれます。その上に教科的に学べば、(あぁ、そうそう!!そうだった!)(なるほど、そう言えば、見た事あるぞ)と学んだ事と経験した事が一致して、確かな知識となるのです。

この秋も幼稚園の子供達は色々な経験をしています。年長組は、春に植えたお米の苗が生長し、本物の鎌を手に稲刈りをしました。収穫したお米を炊いておにぎりを作って食べました。また、6月に苗を植え、全園児でサツマイモの芋掘りを経験しました。芋畑で食べたふかし芋の味は格別でした。このように、自分の口に入るまでの様々な過程に携わる事で、興味や関心の深さが増してくるのです。おにぎりやふかし芋の元々の正体やそれになるまでの一過程一過程に感動したり感心したりしながら、本物の知識を自分のものにしていくのです。

こんな経験ができたり、本物の動物や生き物に直に触れることができたりするこの環境の中にいる事を…、それを提供できる事を幸せだと思います。私達は、このありがたい環境を十分に生かして、未来ある子供達の学びに結び付けていく責任を感じています。

子供達が経験する一つひとつを一緒に感動して“生きた学び”に繋げていきたいと思っています。確かな学びの第一歩は、もう始まっているのです。