日々坦々(ひびたんたん)(平成8年度)平成9年1月

12月8日の発表会の前日、プレイルームに行くと、先生が「ね、園長先生、明日、文化会館にサンタクロースがくるんだよね。」と、相槌を求めます。子供たちに本物のサンタクロースが来ることを信じさせようと話している最中だったのです。
「えっ、ほんとう。知らなかったなぁ」と言うと、すかさず、3歳の女の子が「園長先生、知らんかったん。じゃけぇ、教えてあげようおもっとったんよ!」と、得意そうに言います。
発表会当日、うめ組の舞台にサンタさんがやってきました。サンタはその子の頭をそっと撫でてやりましたが、真剣なまなざしで、サンタの顔を見つめていました。


20日は、幼稚園でのクリスマス会です。19日の餅つきが終って、自分たちの作ったお餅を入れたおしるこを、みんなで食べながら、やはり、本物のサンタさんがやって来ることを信じさせようと、先生たちは、いろいろな楽しい話を聞かせています。
当日は、先生たちの凝った演出のもとで、クリスマス会が催されましたが、3、4才児は信じきっています。5才児の多くの子供たちも信じていますが、何人かの子供たちは半信半疑です。園長先生がサンタになると言い切っていた子は、園長の姿を見て、「じゃ、運転手のおじちゃんだ」と振り向くと、運転手の姿を発見し、困った様子です。そこへ、演出たっぷりで、サンタの登場です。「ほら、本物のサンタさんでしょ。中央幼稚園には本物のサンタさんが来てくれるんだよ」と言うと、「うん」と、もう、すっかり信じています。


子供たちには夢があります。昔話を聞いたり絵本を読んでもらうと、その話の中に入り込んでいきます。言葉や絵からイメージを膨らませ、現実と空想との区別がなくなり、心の中で一体化してきます。
7年度の園だよりの「園長の絵本講座」でも書きましたが、サンタクロース(に限らず、魔法使い、妖精、鬼、龍、仙人等々)の存在を信じることは、そのこと自体が子供の心に働きかけて、信じるという能力を養い、成長につれていつかその子の心の外に出て行ってしまいますが、サンタクロースが占めていた空間は、新しい住人、つまり、目に見えない一番崇高なものを宿すかも知れない、サンタクロースの部屋、つまり、「心の箱」を育んでいるのです。目に見えないものを信じるという心の働きが人間の精神生活のあらゆる面で、とても重要なのです。


皆さんは、お正月はいかがお過ごしでしたか。それぞれに心を新たにして輝かしい新年をお迎えになられたことと存じます。
子供たちにとっても楽しいお正月になりましたでしょうか。
私事ですが、年末に、杵と臼を使って家族で餅つきをしました。もちろん、機械でついたお餅よりも美味しいお餅ができるのですが、そのことよりも、餅米を蒸して、杵でつくことの時間の流れ、家族と共に過ごす時間の流れの心地良さを久しぶりに感じることができました。田舎で育った私は、高校を卒業するまで、お正月用に限らず、めでたいことがある度に餅つきの手伝いをしていましたが、その頃の、日々坦々と過ごしていた思い出と重なり、改めて昨今の慌ただしさの中に埋没しそうな自分に気付き、もっともっと心豊かに過ごすことに心がけなければと思いながら新年を迎えました。


日本には世界に誇ることのできる永い歴史と文化が有り、その中に様々な伝統行事が有ります。そのことが、その年その年の、あるいは、季節季節の節目であり、生きていることの節目となり、自然の摂理の中で活かされていることの感謝の念も抱きます。今年も元気に過ごせるようにと、昨日7日も「七草がゆ」を戴きました。
いろいろな行事が消えて行く中で、子供たちの伝承的な遊びの文化も無くなってきました。そんな中で、伝統的な行事や伝承遊びを少しでも経験させてやりながら、子供たちを心豊かに育んでいきたいと、職員一同、心新たにしているところです。
1、2学期と様々な経験をして過ごした子供たちは、物事に自発的に取組み、友達関係も深まって、幼稚園生活が楽しくて仕方がないという様子です。三学期は、今までの園生活の中で育まれたことを土台として、進級・進学を楽しみにしながら、一層、充実した日々を過ごさせてやりたいと思います。保護者の皆様のご支援をお願いいたします。