だだをこねる(平成10年度)平成11年2月

先日の講演会の後、あるお母さんから「わが子と一緒に買い物に行くと、泣いてだだをこねて困る。しかも、ダメだと言うとそこに座り込んで泣き叫ぶのですがどうしたらよいか」と言う趣旨の質問がありました。今月はこのことに触れてみたいと思います。


「だだをこねる(駄々を捏ねる)」と言う意味は、
「子供があまえてわがままを言うこと すねること」(広辞苑)です。おそらく、駄賃を貰うため無理なことを言って困らせたことから出来た言葉だと思います。
お母さんお父さんは、子供たちが、自分の欲しいものや して欲しいことを要求して、だだをこねる場面に出会ったり、わが子にもだだをこねられたということもあるのではないかと思います。


ではどうしてそのようにだだをこねる子供になるのでしょう。それは、一口で言うと、親の子供に対する対応に一貫性がないからということになるのですが、そうは言っても、日常生活の中で一貫性を持って子育てをするということは、非常に困難なことなのです。親の方に忙しいこともあれば、疲れていてイライラしているときもあるからです。
一貫性がないということは、子供が同じことを要求しても、以前には「いいよ」と言って許されたのに、今回は「ダメ」と言われて拒否されたり、その逆の、前には「ダメ」と言われたのに、今度は「いいよ」ということなのです。このようなことは、日常生活の中で度々あることなのですが、子供にとっては、前には良かったのにどうした今はダメなのかが理解できません。理解できていませんから、泣いてでも要求します。


例えば、2歳前後の子供によく見かける光景ですが、歩けるようになった喜びも伴いますから、買い物に一緒に行くとき、最初は自分も歩いて行くことをとても喜んでどんどんお店に向かって行きます。ところが、買い物が済む頃には、子供は疲れてしまい、帰り道では、「だっこ」をして欲しいと要求します。その子が、1歳半か2歳ぐらいでしたら、お母さんも、もう歩くのが無理だと思って抱いてやります。ところが、同じことを3歳ぐらいの子が要求すると、「もう、お兄(姉)ちゃんなんだから、ちゃんと歩きなさい」と言われてしまいます。子供にとっては、この前までは、疲れてきて、「だっこして」と言うと、直ぐに抱いてくれていたのに、今日は「ちゃんと歩きなさい」と言われると、例え、お兄(姉)ちゃんになったからと言われても、自分ではすごく疲れていると感じているのにどうして抱いてくれないのか理解できません。そこでだだをこねるのです。


では、このような場合、どのような対応の仕方をしたらよいのかを考えてみましょう。まず、最初の1歳半か2歳ぐらいの事例の場合の対応にも問題点があります。それは、「だっこ」と要求したときに、ただ黙って抱いてやっている場合が多いのです。そのことで、「だっこ」と言えば何時でも抱いてもらえるのだと思ってしまいます。でも、実際には子供が小さいですから抱いてやらなければなりません。抱いてやるときにかける言葉が重要なポイントとなります。そういうとき、例えば、「そう、もう疲れたのね。でも、すごく頑張ったね。お母さんはあなたがいっぱい歩けるようになったので、すごく嬉しいの」と言って抱いてやると、子供の方も、自分が頑張って歩いた喜びを感じるし、お母さんも喜んでくれていると言うことも感じます。

そういう対応の仕方で育てていると、後の事例も対応の仕方が違ってきます。3歳の子が、「だっこ」と言ってきたとき、「もう、大きいんだから自分で歩きなさい」と言わないで、「ごめんね。お母さん両手に買い物袋を持っているでしょ。もう少し頑張って歩いてくれたらお母さんとっても助かるし、嬉しいんだけどね」と言うと、子供の方は、「そうか。ぼくがもうちょっと我慢して歩けばお母さんは嬉しいんだ。」と自分で判断して、最後まで歩いてくれます。


買い物をするときも同じです。前のときは、「これが欲しい」と言ったときには直ぐに買ってくれたのに、今日は、「ダメ」だと言われると、どうして今日はダメなのか理解できません。子供は、「どうしてお母さんばっかり買って、どうしてわたしのはダメなのよ」と言うことになります。子供が買って欲しいというとき、必ずしも、自分の欲しいものとは限りません。お母さんが楽しそうに買い物をしているから自分もそうしたいと思っていることが多いようです。


では、どのような対応の仕方があるのでしょう。買い物に行く前の会話がポイントとなります。「今からお店に行くんだけど、夕食のおかずを作るのに、ダイコンとキャベツとお魚とお肉がいるの。お母さんはお魚とお肉を買うから、○○ちゃんは、ダイコンとキャベツを買ってくれると、お母さんすごく助かるんだけどな」と言うように、前もって話し合っていると、「お母さんだ何時も楽しそうにしているお買い物が自分にも出来るんだ。」「私がお野菜を買って上げると、お母さんは嬉しいんだ。」と、子供は自分も買い物が出来る喜びで、だだをこねたりはしません。


このような子供との応答関係にあると、自分で考え、自分で判断する力が付いてきますから、むやみやたらに、自分だけの要求を求めないで、お母さんの気持ちも考えることが出来るようになります。こうして育った子供は、成長と共に、相手の気持ちも汲み取り、わがままを言わない、相手の立場になって考える子になってくれるのではないでしょうか。