スキンシップ(平成10年度)12月

最近、「キレル」子供たちが増えていると言われます。感情のコントロールができなくて、すぐに行動を起こしてしまう子供たちです。その代表的な出来事として、中学生が授業中に、先生から何かのことで注意されて、「カァッ」となってナイフで刺してしまった殺傷事件が続けてあったことは記憶に新しいと思います。このような事件は、学校で起こったために大きく報道されましたが、似たような事件は、十数年前から、少年の世界でたびたび起きていました。例えば、道路を車で走っていて,後ろの車に乗っている人が、何かのことでクラクションを鳴らしただけで、前の車に乗っていた少年が、車を止めて、ナイフで刺してしまうのです。誰がどう考えても、ちょっと注意されたりクラクションを鳴らされただけで、ナイフでその相手を刺して人を殺すことなど考えられませんが、実際の事件としてたびたび起こっているのです。


人間、暴力はいけないと分っていても、「カァッ」となって頬っぺたを殴ってしまうことはよくありますが、そのように、手で殴るのではなく、そこで何故、ナイフを使わないといけなかったか、我々には理解のできないことです。恐らく人を刺してしまった少年も、逮捕されて、感情の高ぶりが収まり冷静になったとき、どうして人を刺してしまったのか自分でも理解できないのではないかと思います。


人間、どんな人でも,感情の高ぶりはあります.「カァッ」と腹を立てることもよくあることです。そうなっても、たいていの場合、我慢したり反省したりして、自分の心の中でその感情をコントロールします。それができなくなると、大きな声で怒鳴ったり、相手を殴ったりするということが起こります。その殴る行為も、手のひらやげんこつで殴るにしても、相手にケガがないように、殴る場所や力の入れ具合を手加減しているものです。たいていの場合、けんかをしていても手加減をするという自制の気持が働いているのに、注意されただけで、どうしてナイフで刺してしまうほど感情のコントロールができなくなっているのでしょう。刺してしまったらどんなことになるか、どんなに恐ろしいことで、どんな結末になるか、誰でも考えることが、どうしてできないのかと考えてしまいます。


このような少年に育ってしまう原因はいろいろと言われています。先月の園だよりの、このコーナーの『体験の記憶』でも書いた、子供たちが仮想現実の世界に浸っているということも原因の一つかもしれません。それと関連するかもしれませんが、今回は、身体接触、つまり、スキンシップの不足について考えたいと思います。スキンシップといえば、最初に思い浮かべるのがお母さんのスキンシップです。お母さんに抱かれ心休まる様子は誰もが想像します。それほど、暖かい愛情を感じます。ところが、このスキンシップが不足すると、怒りや暴力の爆発といった情緒障害を起こすといわれています。


このことについての詳しい説明は省略しますが、子供たちが幼稚園から帰ってきた時、しっかりと抱きしめてやって欲しいのです。どんなに幼稚園で楽しく過ごしてきたとしても、生まれてわずか4,5年しか経っていない幼い子供なのです。親から離れて、自分なりに一生懸命頑張っているのです。必ずストレスを感じているはずです。そのストレスが、お母さんが抱きしめてやると不思議なくらい解消するのです。何か悲しいことや辛いことがあった時も同じです。我が子がかわいくても、叱らなければいけないことも度々あります。叱ることは仕方ないとしても、その後に、「もうしないよね」と言うように、抱きしめてやることです。その抱きしめる行為が、親の愛情を感じ、子供を良い方向に育てていくのです。


このように抱きしめるだけがスキンシップではありません。日常生活の中で、両親や兄弟姉妹ともぐれ合って遊ぶという身体的接触の経験もすごく大切なのです。心と体は密接な関係があるのです。これらのことは、情緒障害を起こしてしまった子供の治療に効果的であると言われていますが、そのことでも分かるように、心の病と思っていたことが、実は、運動や身体的接触の不足といった体の側に原因がある場合もたくさんあるのです。


これらは日ごろ家族や友達と体が触れ合ったり、「おしくらまんじゅう」のような押したり押されたり、「相撲」のような取っ組み合いをしたりすることが圧迫刺激を生み、適度な身体的接触となるのです。子供たちが小学校高学年や中学生になっていろいろな問題行動を起こすのも、もしかしたら、このような、幼い時のスキンシップの不足も原因しているかも知れないのです。
先に書いた、少年のナイフによりる殺傷事件の根源も、幼い時のスキンシップの不足が一つの要因となっているかも知れません。