食生活(平成10年度)5月

近年の物質文明の豊かさは、子育て意識やその方法にも大きな変化をもたらしているような気がしてなりません。食生活もそうです。インスタント食品(カップ麺等)や缶ジュ-ス(炭酸飲料等)を毎日のように食べたり飲んだりしている中学生や高校生たちの心身をむしばんでいるという研究報告等をみる度に身の毛がよだつ思いがします。


すぐにイライラしたり、親や他人に「むかつく」と言ったり、友達をいじめたり、すぐに暴力をふるうのも、食生活に大きな原因があるという報告です。それのみならず、体力もなく、疲れやすく、すぐに倒れたり、朝なかなか起きれない状態が続くのです。このことは集中力や意欲も欠如し、脳の発達にも大きく影響しているものと思えます。また、炭酸飲料のとりすぎは、骨からカルシウムが放出され、骨折しやすくなっており、子供ですら骨そしょう症の状態にあるというのです。


このような子供が増えているということはどこから来ているのでしょう。成長過程の生活の中で様々な要因が考えられますが、そのもっとも根底となる原因は、幼児期からの家庭での食生活にあるように思われます。それは、いとも簡単に親が子供に買い与えているという現実です。お腹が空いたといえばカップ麺やスナック菓子で間に合わせたり、のどが渇けば缶ジュ-スを飲ますということが日常生活の中で頻繁に見られるのではないかと思います。
食生活の在り様は、発達途中にある子供たちには、その成長に様々な影響を与えます。このことに注意を払って子育てされている家庭では、簡単にインスタント食品や炭酸飲料の缶ジュ-ス、スナック菓子等を出来るだけ控えたり与えないようにされていますが、安易に手に入り、便利なだけに、強く意識していないとついつい与えやすいものなのです。
これとは逆に、きちんとした食生活の中で育った子供は、心身ともに健全に育つであろうということにもなります。


今の若い子の中に、味噌汁が嫌いだという人がかなりいるような気がします。味噌汁が体によいとか悪いとかいうのではなく、嫌いな子は、幼少の時から口にすることが少なかったのです。逆に、朝食は、ごはんと味噌汁がないと食べた気がしないという人もいます。それぞれ、家での食生活の影響です。


子供の食べ物の好き嫌いは、離乳食が始まった頃から始まります。1、2歳頃に口にしていたものやその味は、将来の味覚を決定づけると思われます。偏食する子供がたくさんいますが、好きなものだけ与えていて、食べさせる工夫や努力が足りなかったのかもしれません。


家庭での食生活の在り様は、子供が健全に育つために、とても重要な役割を果たしているのです。ぜいたくなものでなくても、1品ひと品、心のこもった料理は、つくった人の愛を感じさせ、おいしく食べることが出来て、家族の団らんもはずみ、絆も深まります。


「料理は愛である。」という言葉をたびたび耳にします。まさにその通りで、料理をしている方の気持ちは、相手側に「いかにおいしくたべさせようか」、「栄養になるものを」、「元気に育つように」とか、常に考えてつくっています。家庭では、お母さんがつくるにしても、お父さんがつくるにしても、あるいは、おばあちゃんにつくってもらっているとしても、家族みんなに対しての愛なのです。愛があるからこそ、つくる方も料理が楽しいのです。


そのような家庭では、「おいしい」という言葉も素直に出るし、「いただきます。」、「ごちそうさま。」も、ごく自然に出ているのではないでしょうか。
このように、愛情一杯の食生活のある家庭では、安易に、インスタント食品や、買ってきた惣菜をそのまま食卓に出すようなことはなく、たとえ忙しいときでも、なにかの心配りがあるはずです。子供のおやつにしても、買ってきたものを袋ごと渡すのと、お皿に盛ってやるのとでは子供の親への愛の感じ方はずいぶんと違うはずです。


親や家族の愛をしっかり受けて育った子供は、相手に対する思いやりやいたわりの気持ちもしっかりと育まれ、健全な子供にと成長してくれます。このような愛をしっかりと受けて育つことは、情緒の安定につながり、意欲や知能の発達にも大きな役割を果たすのです。
食生活が子育ての基本でもあるのです