ツバメの巣立ち(平成11年度)7月

動物を飼育していると、いろいろな出来事に出会います。前号では飛べないアヒルについて書きましたが、そのアヒルの池に、新たに、つがいのカルガモをもらって飼育していました。なかよし夫婦で、間なしに7個の卵を生み、一生懸命温めていました。そして、カラスがその卵をねらって毎日のようにやってくるので、タフロープでネットを作り、池を覆って、カラスよけにしていました。これでカルガモも安心して卵を抱けるだろうと思っていました。

ところが、タフロープのネットを張って1週間もたたないある朝、その池に行ってみると、なんと無残にもそのネットがカラスにメチャクチャに食いちぎられているのです。カモの卵は無事残っていて、安心したのもつかの間、母親のカモが水の中から上がれないほど、すっかり弱って、クタクタになっているのです。直ぐに、網ですくってやって巣箱に戻してやりましたが、クチバシを床の上に投げ出し、顔も持ち上げれられないほどの衰弱ぶりです。卵を襲いに来たカラスと必死に戦ったことが容易に推察できました。

ところが、父親のカルガモは元気いっぱいなのです。「おまえ、なにやっていたんだ!」と思うほど、元気なのです。カラスと戦ってはいない風なのです。やはり、命をかけて子供を守ろうとする母親はすごいと、感心すると同時に、父親の知らん顔をしている姿に腹が立つやら、同じ男として情けないやら、複雑な心境でした。そして、次の朝、悲しいことに、母親は水の中に浮いて死んでいました。残念ながら、その間、冷え切ってしまった卵も救ってやることが出来ませんでした。


そのことがあってしばらくして、カルガモを襲ったそのカラスが、今度は、ツバメの巣にねらいを定めています。ツバメの巣も、毎年のように襲われていました。今度こそ、カラスから守ってやらなければと、カラスが襲ってくるのを追い払うために、毎朝、4時半に起きて、5時頃から近くの電柱にきているカラスを追い払っていました。たいてい、朝早くと夕方やってくるので、その頃には気が抜けません。そして、卵を抱き始めて2週間が経過して、4羽の雛が生まれました。カラスが近くにくるのも頻繁になってきました。そのたびにカラスを追い払いました。


そして、雛もだいぶ大きくなったある日曜日の朝、4時頃からカラスの鳴き声がするので、飛び起きて、外に出てみました。すると、近くにきているカラスをめがけて、2羽の親ツバメが低空飛行や急降下しながらカラスに向かって果敢に戦っているのです。それでもカラスは動じることなく、ツバメの巣に近づこうとしています。そこで私は、木の棒を投げて、何回も近づこうとするカラスを追いやりました。あきらめて飛び立って行ったカラスを見届けて、日曜日なので、久しぶりにゆっくり寝ようと、また、ベットに入りました。


朝、10時頃までゆっくりして、遅い朝食をとった後、幼稚園の動物たちに餌をやらなければと外に出て、ツバメの巣を見上げると、なんと、1羽もいないのです。「やられた!」と、悔しいやら、腹が立つやらで、何とかカラスを退治する方法はないものかと、1日中、思案ばかりしていました。

そして、夕方になって、動物の飼育と小屋の掃除をしなければと、また、外に出ました。すると、ツバメの餌をもらう泣き声が、激しく聞こえるのです。見上げると、2階のテラスの手すりに4羽の雛が止まっているでは有りませんか。「助かってる!」。そして、空をスイスイと飛び回るのです。涙が出そうなほど嬉しく感じました。

その日の朝に、4羽とも無事育って、巣立っていたのです。その日の夜は、巣の近くに止まって寝ていましたが、次の日からは、どこかに飛び立って行ってしまいました。その後は、電線に時々止まっているツバメを見かけますが、そのツバメかどうか分かりません。そしてまた、2回目の巣作りをはじめています。その巣も間もなく出来あがりそうです。また、カラスを追い払うため、早起きが始まります。

お子さんが小動物を飼育していると、その動物の誕生の感動や死の悲しみに出会います。一生懸命飼育するほど、その誕生の感動や死の悲しみの深さが一層大きなものとなります。そして、その現実をしっかりと受け止めることが出来ます。思いやりや命を大切にする気持ちも大きく育まれ、お子さんの成長過程の中で大切な経験となるのです