さようなら園舎(平成13年度7月)

6月14日にマガモ15羽が生まれ、結局は11羽が残って順調に成長しています。子供たちは登園するなり、カモのいる池をのぞき込んでは声をかけています。幼稚園に来られた保護者の方やお客さんからも「かわいい!」と歓声があがります。カモの親子を小川に離すとひなが列を作って泳いでいます。子供たちは赤ちゃん誕生の感動をしっかりと感じ取ってくれたものと思います。抱卵の期間は22日か23日間でした。中国新聞とTSSテレビの取材もありました(中国新聞にはアイガモと紹介しましたがマガモの誤りでした)。やはり「生命の誕生」は見る人の心を慰めてくれます。


話は変わって、先日の参観日での年長組の活動は、「思い出の園舎にお別れのらくがきをしよう」というものでした。その計画を年長組の担任から相談を受けたとき、すでに解体工事契約が済み、参観日の前日には園舎の解体の予定でした。そこで急きょ、解体の日を延期してもらい、参観日の翌日からにしてもらうことにしました。


この園舎は、女学校の校舎を解体して、昭和45年度に建築、昭和46年4月に開園した三次中央幼稚園の歴史の始まった場所なのです。私が24歳で東京から三次に帰ってくるときには、すでに、幼稚園をしたいという思いに駆られていました。その3年後の27歳の時に幼稚園を開園したのです。その1年後には、大水害(昭和47年豪雨)に遭い、天井近くまで浸水し大変な目に遭いましたが、子供たちとの楽しい思い出や頑張った思い出のいっぱいある園舎なのです。


参観日には、落書きの企画を聞きつけてやって来てくれた中学生や小学生もいました。中には、参観日前日の土曜日に描きに来た中学生や、後から知って駆けつけてきた卒園児の親子もありました。あちらこちらに、「楽しい思い出をありがとう」「大切な思い出をありがとう」「三次中央幼稚園で大きくなりました。ありがとう」「頑張っているよ。いっぱい遊んだホールよ、バイバイ」等々、いっぱい描いてくれていました。予想すらしていなかったので、卒園児まで駆けつけて描いてくれたことは感動でした。


当日は、「落書きと聞いただけでワクワクしてスプレー缶を何本も買い込んでしまいました」、「今日は、ステージの壁のど真ん中に、思いっきり描くことができて大満足でした」、「うちの子(男の子)が絵を描いているところなんか見たことなかったけーおもしろいよ。けっこう上手く描くのぅ。感心したよ」と、お父さんたちも興奮気味。お母さんたちも負けじと、「私なんて、9年間もこの幼稚園に来ているでしょう(三姉妹の三番目が只今年長組)。だから子供以上に思い出があって、すごくすごく淋しいよ」そういって、先生一人ひとりにメッセージを残してくれています。「家でこれやられたら私鬼になっちゃう!でも今、私も思いっきり楽しんでいます。ストレス解消になってるよ」と、楽しそうです。
そして、参観終了後、何人もの保護者の方がホールに来られ、みなさん「淋しいね…」と、慈しみながら見てまわられていました。卒園児である保護者の方が、「私もこの幼稚園で育ちました。今、息子が通っています」と、自分がうめ組だったときの部屋で親子で描いている姿や、当時の担任だった先生と、子供の時の思い出を語りながら見てまわり、最後にしっかりメッセージを描いて帰られた姿は印象的でした。


私たちはもちろんのこと、もしかすると私たち以上に、保護者の方、そして卒園児を含む子供たちは、この移り変わる様をいろいろな想い、複雑な想いで見守っておられるのかもしれません。
落書き大会は、ただ大胆に描く事を楽しむのみならず、心を表すメッセージ大会でもあったような気がしました。


参観日の前日、前々日と、子供たちがホールのそうじをしてくれました。ピアノも音響設備もロッカーもすべてなくなっていることにとても驚き、「淋しいねー」「広くなったみたい」と子供たちなりに何か感じている様子でした。そうじにもいつも以上に力が入っていました。普段なら嫌がるであろう、ほこりだらけの所も、進んでそうじをしてくれている姿には私もびっくりしました。「もうみんなで集まれんのんかね~」、「あ~、ここ、うめ組の時の部屋、懐かしい」、「この部屋におるとき、いつも涙が出よったんよ」、「僕もうめ組の時は指チュパチュパしよったよ」等と、1、2年前のことなのに、本当に懐かしそうに語りあっている子供たちをとてもかわいく感じました。懐かしいと思う気持ちを味わいながら子供たちなりに自らの成長も感じていたようでした。その園舎を解体される様子を目の当たりにした子供たちには、強烈な印象として-心の中の思い出として-いつまでも残っていくことでしょう。


そして、新しく立ち上がっていく園舎を見ながら過ごしていくことになります。2月上旬の完成予定で、こけら落としとなるよう、幼稚園の発表会を3階にできる大ホールで行いたいと思っています。
このことも、大きな思い出となってくれることを願っています。