『お父さんお母さんのお仕事なあに?』(2023年度)8月

あれよあれよと言う間に一学期が終わりました。長い間、悩まされた「新型コロナウイルス」により制限されていた生活も少しずつコロナ前の生活に戻って来ているようですが、ここに来て、また第9波の入り口…というニュースも流れています。あれだけ世界中をおびやかした感染症ですから、なかなか以前の生活に戻る事は考えられません。「コロナ」で学んだ事や得られた事を前向きに活かしつつ、どう、より良く幸せに過ごすか……何に幸せの価値を見出すか……。私達の思い次第だと感じています。

この一学期は、そう思いながら幼稚園の生活を送って来ました。昨年の一学期には叶わなかった事も、ほんの少し取り入れる事ができました。その中でも、幼稚園バスに乗ってクラスや学年みんなで、出かける事が出来た事は、子供達にとっては大きな喜びだったようです。ドライブや園外活動など、園内ではできない経験で園生活にスパイスを加える事ができたようです。

7月7日の七夕の日、年長組の子供達が三次市主催の「交通安全七夕まつり」に参加しました。WBSC女子野球選手のスペシャルゲストと共に、交通安全を願って書いた短冊を飾りつけをしたり、ダンスや歌を披露しました。

その会場には、市役所、警察、地域ボランティア、高速道路パトロール……。様々な仕事をされている方がたくさん参加されていました。白バイやパトカー、高速道路パトロールカーにも乗せてもらい、大喜びの子供達でした。

そんな中で、何人かの子が「アッ!お父さんだ!」と仕事としてその場に来ておられたお父さんの姿を見つけたのです。私は、年長組の子供達だけではなく、他な学年の子供のお父さんやお母さんの事も「○○君のお父さん(お母さん)だよ。」と教えてあげました。「何のお仕事?」と聞いてくる子もいました。一番盛り上がったのは、パトロールカーに乗ってお仕事をされているある女の子のお父さんを見つけた時でした。お父さんはパトロール隊の制服とヘルメット姿だったので、私にはすぐにはわかりませんでしたが、「○○ちゃん、お父さんだよね。」とその子に言うと「うん!私、最初からわかってた!すぐ、見つけたもん!」と自慢そうに答えました。お母さんも、会場に駆けつけてくださっていて、その子がパトロールカーに乗せてもらった時にお父さんとのツーショットを撮っておられました。お母さんに「○○ちゃん、とっても嬉しそうですね~。」と言うと、「父親のこの姿を見せたのは初めてなので……。」と微笑んでおられました。私たちも、いつも、幼稚園に送迎してくださる時のお父さんやお母さんの姿を見る事があっても、お仕事中の姿をみる事はなかなかないので、いつもと違ういで立ちのお父さんは新鮮でした。その姿を見た事がなかったその子にとっても新鮮だった事でしょう。周りの子から「○○ちゃんのお父さん、かっこいいね~。」と言われ、少々照れ気味でしたが、自慢だったに違いありません。

以前、通報避難訓練の時に、来てくださった消防士さんの中に保護者の方がおられ、そのお父さんの姿を見つけたある子は、いつものお父さんを見る目とは違う様子で、消防士のお父さんを見つめて照れ笑いしていました。その子の七夕の短冊には『しょうぼうしになりたい』と書かれていました。将来の夢の選択肢にお父さんの働く姿が入っているのです。

子供達に「あなたのお父さん、お母さんの仕事は何?」と聞くと「会社!」「仕事!」と漠然とした答えが返ってくる事があります。会社の名前やそこでどんな姿でどんな仕事をしているのかを知っている子はあまりいないのかもしれません。見た事がなければ、イメージする事も難しいでしょう。世の中には、いろいろな仕事があって、その仕事に合ったいで立ちや振る舞いがある事、どんな事をする仕事なのかを知る事は、仕事への興味に繋がり、自分の将来の夢にも繋がる事になります。自分が将来やってみたい事への選択肢を増やすきっかけにもなります。何よりも、お父さんお母さんへの感謝の気持ちや尊敬の気持ちに繋がります。一日中お仕事を頑張って、自分達を一生懸命に育ててくれている事を実感するでしょう。

この夏休みは、働くお父さんやお母さんの姿を見せてあげてはいかがでしょうか?言われるまでもなく、既に、お子さんにその姿も仕事の内容もよく知らせているご家族もいらっしゃると思いますが、『ファミリ―社会見学』と言ったところでしょうか?家では見られないお父さんお母さんの姿を見せる事で、あらためて、お父さんお母さんをもっと応援したくなるでしょう。

私の娘達が小さい頃の事、父親の職場に連れて行った時、「ヘェ~、お父さんの仕事は、こんな物を売る仕事なんだ。」と知り、街のあちらこちらででその物を見かける度に「お父さんが売ったの?」「お父さんが作ったの?」と、何もかもお父さんの手にかかっているかのように興味津々に聞いていました。

そして、母親である私の仕事は“幼稚園の先生”。娘達は私の職場である三次中央幼稚園に通わせていたので、小さい頃からあまりにも近くに居すぎていて、知らない世界で頑張っているお母さんという感覚もないまま大きくなりました(たぶん)。むしろ、卒園後、成長してからの方が徐々に自分の見えない所で毎日お仕事を頑張って帰る母に「お母さん、幼稚園の先生って楽しいけど、その裏にはいろいろ大変な事があるんだね~。」と労ってくれるようになりました。


どんなに小さくても、子供達は、お父さんお母さんがお仕事を頑張ってくれている事は教えてあげてください。どんな所でどんな事をしていて、それが世の中でどんなに必要とされている仕事かを実感させてあげて欲しいのです。幸せな生活ができるのも、自分達を元気に育ててくれているのも、楽しい毎日が過ごせているのも、間違いなくお父さんお母さんのおかげなのです。毎日頑張ってくださっているおかげなのですから……。


お家の仕事をしてくださっている家族について一日手伝いをしてもらう事も、家での仕事を理解する良いチャンスです。お父さんお母さんだけでなく、おじいちゃんやおばあちゃんの仕事もわかり、普段、幼稚園や学校に行っている間に家族がどんな仕事をしてくれているか?実感できると思います。

明日から夏休みです。この機会に、ご家族のお仕事について話したり見たり手伝ったりする経験で、尊敬し合い感謝し合える家族の絆が更に深まるといいですね。

ダンゴムシと子供達(2023年度)7月

プールや園庭や砂場で砂や水と戯れる子供達の歓声が響き渡っています。キャーキャーと賑やかなその様子は見ているだけでも楽しくなります。水びたし、砂だらけになって汚れた着替えを持って帰り驚かれているかもしれませんが、どうか「楽しかったんだね~」と笑って洗濯をしてあげてください。よろしくお願いします。

この時季になると、子供達にとっての人気者がたくさん現れます。小川にはアメンボ、カエル、エビ?ザリガニ?、園庭ではアリ等、子供達はそれをゲットするために必死になります。中でも、満3歳児クラスや年少組の小さな子供達でも捕まえる事のできるダンゴムシの人気は不滅です。きっと、ダンゴムシを知らない子はいないでしょう。子供だけではなく、お父さんお母さん達も、かつて幼少期に捕まえたり触れたりした事があり、よく知っておられる事と思います。

ある日、園庭の隅っこで、年少組の先生と子供達が、数人で頭を付き合せる様にして座り込んでいました。何をしているのだろうと見てみると、私が草取りをして集めたまま捨てるのを忘れていた草をかき分けて何かを集めていたのです。私は「ごめんごめん!そのまま捨てるのを忘れていたわぁ」と、やりっぱなしにしていた事を謝りました。すると、その先生が「違うんです、この草の下にダンゴムシがたくさんいるんですよ~。むしろ嬉しくて……子供達が喜んで集めています。」と言いました。こんな隅っこの場所をよく見つけたもんだと子供達の臭覚(? 笑)に驚きました。

ダンゴムシは、湿った土や枯れ葉の下によく隠れています。大きな石をひっくり返すと現れたりします。その事を知っている子供達は、園庭の隅々にまで目を光らせ、牛乳パックや虫かごに驚くほどたくさん集めています。ダンゴムシは、子供達みんなの人気者です。動きがゆっくりなので捕まえるのが簡単である事や、手のひらにのせても噛みついたりしない事や、何より、触ったらクルッと丸くなる可愛さと動きの愛くるしさが人気の理由ではないかと思います。幼稚園でもたくさん集められますが、家で捕まえて空き箱や虫かごや空容器に入れ得意そうに持って来る子もいます。でも、それを大切にずっと飼い続けたり観察したりしているかと言えば、わりとそうでもなく、結構、持ち遊んでいて逃げたり手放したりして、大事そうに持って来た割には執着していない……いなくなった事は残念だけど、それでも、簡単に見つける事ができるので、また空容器を手に幼稚園でダンゴムシさがしを楽しんでいる。(またさがせばいっか)と思わせてくれるほど身近にいて簡単に見つける事のできる子供達にとってありがたい生き物でもあるのです。

小さな子供達にとって虫との出会いは、驚きや不思議等、興味の始まりで、それを飼育したいとか観察したいとかまでまだ考えが及ばない。捕まえたり集めたりする事そのものが楽しいのです。こんな言い方は少し乱暴かもしれませんが、それは、自分達の思い通りにはならない動きをする“おもちゃ感覚”で遊んでいるのです。地面を忙しそうに歩き回っているたくさんのアリを見つけて捕まえようとするけれど、結構動きが速いのでつまむしかなく、力加減によっては潰してしまう事もあります。捕まえられなくてつい踏んで捕まえようとする子もいます。残酷なようですが、殺そう潰そうと思ってそうしているのではなく、子供達は逃げようとするアリと追い掛けようとする自分とどっちが凄いかと競って遊んでいるのです。

子供達は、夜、外灯の下に集まって朝までたかっているカゲロウでも見つけたら捕まえようとします。強烈な臭いを発するカメムシでさえ牛乳パックに入れて見せてくれる事もあります。こうして、子供達は虫との出会いを楽しんでいくのです。「虫にも命がある」「死なせてはいけない」───。その通りです。しかし、その事ばかり思ってしまったら、虫やその他の生き物との出会いに慎重になり過ぎて「かわいそうだから、逃がしてあげなさい」とか「あまり触らないで見るだけよ」とか言ってしまいがちです。子供達が虫と出会い触れ合う事は、その後、子供達の成長と共に命を大切に思う事に繋がって行く大切な経験です。子供の関わりは、一見酷く薄情とも思えるような扱い方かもしれませんが、経験なくして感情は生まれませんし、心動かされません。たくさん触れて遊んでみる事から、生き物に対する愛情が生まれ命の事を考えられるようになるのではないかと思うのです。

もう少しすると、幼稚園はセミの鳴き声で賑やかになり、ダンゴムシ集めからちょっぴり卒業したお兄さんお姉さん達のセミ採りを楽しむ姿も見られるでしょう。子供達は何でも触って観て嗅いでその物の事や成り立ちを知って行きます。虫かごの昆虫でも何度も何度も出して触って遊びます。そうしているうちに時には足がとれてしまったり羽を痛めてしまったりする事もあります。そんな姿を見て、何となく可哀そうな気持ちや虚しい気持ちになる事も大切な経験なのではないかと思います。それから、命を意識する事が始まるのです。十分に触って遊んだ子供達は大きくなるにつれて、“なんとなく”だった“可哀そう”と思える感情が段々と理解できるようになります。そのタイミングで初めて「死んだらかわいそうだから、どうしてあげようかな」と大人が一緒に考えてあげたらいいのだと思います。幼少期は、身の回りにある(いる)物に、関心をもち十分に関わらせてあげる事が大切なのです。私達大人も、子供達と同じようにダンゴムシをおもちゃのように触って遊んでいました。そして、大きくなるにつれて虫以外に動物や人と関わる事で命の尊さを知ってきたのではないでしょうか?

三次中央幼稚園には、「なかよしどうぶつえん」があります。そこでは、エサをあげる子供達と先生達の微笑ましい姿が見られます。自分の手にかなうダンゴムシやアリ等との出会いをたくさんした子供達は、幼稚園にいる大きな動物ヒツジ・ヤギ・クジャク・ウサギの命を余計リアルに感じる事ができるのではないかと思っています。

今日も、あちらこちらでダンゴムシさがしに精を出す子供達です。ダンゴムシくん、いつも子供達の遊び相手になってくれてどうもありがとうね。

田植え(2023年)6月

今年は、例年より早い梅雨入り。お気に入りの傘と長靴でウキウキ登園して来る子供達の可愛いこと♡ 雨降りの日でも、楽しめる子供達は素敵です。雨上がりには、園庭にできた水たまりも格好のあそび場になります。梅雨から夏にかけ、お家から持って来たプレイパンツとプレイTシャツ、そしてこれから準備していただく水着の出番も多くなりそうです。子供達の大好きな季節がやって来ます。


さて、先日、年長組の子供達が田植えを経験しました。これは、平成16年(2004年)から毎年行ってきました。ここ3年間は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け自粛していましたが、久しぶりに経験させる事ができました。この田植えは、20年ほど前に、田んぼの泥の感触と手植えの面白さ(農家の方にとっては大変な作業ですが……)を幼稚園の子供達に体験させてやれないだろうかと義父に相談したのがきっかけでした。内心ダメ元でしたが、義父は直ぐに「子供達に植えさせるなら、一番広くて、友達が植える様子がしっかり見えて、足を洗う場所があるこの田んぼを使ったらいいよ。いい経験になるだろう。」と快く場所を提供してくれました。それから、毎年主人と義父は幼稚園の田植えに協力してくれました。いつもは静寂な我が家にとって、その日は、一年の中で最もたくさんの人が集まる賑やかな日にもなっています。


さあ!いよいよ子供達がやって来ました。子供達にとっては、田植えはもとより、幼稚園バスに乗って園外に出かける事も初めてでしたから、楽しみや喜びは倍増だったに違いありません。田んぼ目指してあぜ道を歩いてやって来る子供達は、みんな笑顔いっぱいでした。遠くから「えんちょうせんせ~い!来たよ~」と手を振る子供達が可愛くてたまりませんでした。「私、わくわくしてうきうき!」とか「ドキドキする~」等、いろいろな事を言いながらやって来ました。楽しみにしていた気持ちがわかりました。準備が整い、いざ!田んぼへ!先ず、協力者である私の主人からお米の苗の事や、植え方を教えてもらい10人ずつ順番に田んぼに入って行きます。子供達は、最初ヌメヌメした田んぼの中に入るのは恐る恐るでした。砂場あそびとは違う感触です。ゆっくりゆっくり入る子供達の表情は緊張気味でしたが、一歩踏み入れるとその緊張も緩みキャーキャー言いながら自分が植える場所まで歩きます。

それから、教えてもらったように一株一株を6箇所に慎重に植えて行きました。子供達は真剣です。渡してもらった一握りの苗を丁度良い本数(3本)に根っこから取り分けるのが難しそうでした。中には、そのままごっそり植えようとする子もいました。土のついた根っこ近くを持ち、泥の中にそのまま手の甲が埋まる位に差して植えて行きます。この時、手のひらが汚れる事はそれほどでもないのですが、手の甲が汚れるという事には少し抵抗があるようで、そのような子には「ズボズボズボ~」と言いながらその子の手を持ち一緒に植えました。徐々に抵抗もなくなり慣れて来ます。一人で植える事ができた子は、苗がピンと立ち嬉しそうでした。教えてもらったようにできた事で得意顔です。コツを覚えてからは面白くなって来て、みんな上手に植えていました。

足も手も泥んこになって大仕事(?)をした後は、もう一つのお楽しみ♥まだ植えていない場所で泥んこ競争です。「では、クルっと後ろを向いて!田んぼの端まで行ってここまで帰っておいで!競争だよ!」と言うと大騒ぎ。「服もズボンも汚れていいんだよ~。転んだっていいんだよ~。」と言うのですが、初めは汚れないように転ばないように走ろうとするので、その後ろ姿は…言ってはなんですが…こっけいでした。それを何人かずつ繰り返していくうちに、どんどん度胸がつき、しゃがんでおしりを泥につけたり、わざと何度も転んでみたり、座り込んだりする子もいました。自分の順番が待ちきれず田植えをする前からすでに田んぼの端の方で泥んこになっている子もいました。顔も身体も泥まみれになった後は、洗うのもそこそこにして着替え、虫やサワガニを求めて探索している子もいました。子供達の目はキラキラ!!自然の匂いに誘われて、いろいろな楽しみ方をしていました。さすが!三次中央幼稚園の子供達!

私達は子供達には、自然に触れる事により、自然の不思議さや美しさ面白さに気付き、それを尊び大切にしようとする心を育てたいと思っています。三次中央幼稚園の教育理念でもあります。身体中を泥んこにして心を開放できた時の楽しさは格別です。

子供達はそれからも、「僕達が植えた苗は、今日はどうなってた?」「大きくなった?」「イノシシに食べられてない?」(笑)「夜、雨がいっぱい降ったけど、苗は抜けてない?」等とよく私に聞いてきます。「オタマジャクシやアメンボは出てきた?サワガニは?」「僕の家のそばにも田んぼがあって、同じように田植えがしてあったよ。」といろいろ気になるのです。こういう気持ちになる事が大切だと思います。毎日食べているご飯は、この田植えから始まるという事、そして、上手に植えないと育たない事、どんな所でどんな時(季節)に、どのようにして育っていくのかという事に関心を持ちながら生活する事で、興味が深まり知識が広がります。自らの経験がいろいろな学びに紐づいていくのです。秋には稲刈りをする予定です。その日までに、どんどん変わって行く田んぼの様子を時々観察しながら、泥の匂いや草や水の匂い、田んぼ一面の色……これからは、田植えの時季と稲刈りの時季の生き物が様変わりする事にも気付くでしょう。

田植えの翌日、年長組の子供達は田植えの絵を描いていました。どの子の絵も生き生きとしていて楽しい絵でした。子供達のあの日の歓声が聞こえてくるようでした。

個人的な話になりますが、一番の協力者であった義父が今年亡くなり、その年に再開できた幼稚園の田植え──自然のありがたみと大切さを何より知っているその義父も、可愛い子供達にそれを感じさせてあげられる事を天国で喜んでくれている事でしょう。

中門の助っ人達(2023年度)5月

2023年度を迎え1カ月が経とうとしています。新しい環境に胸躍らせたり戸惑ったりしながらも、今在る状況を受け入れようと、どの子もどの子も一生懸命なのには違いありません。幼稚園の楽しさを少しずつ見つけ、緊張気味の顔がこれからどんどん緩んでくる事でしょう。

入園式の日、新入園児達は、お家の人と嬉しい楽しい気持ちで半日過せたようでした。先生達も、笑顔いっぱいで迎え、各クラスでは楽しい歌あそびやお話で先生と子供達との出会いの一日を盛り上げていました。入園式の後は、ご家族で園舎内や園庭を自由に見て回りながら三次中央幼稚園の環境に触れていただきました。新入園児達は、目をきらきらさせながら園庭のあちらこちらを散歩してくれていたようでした。

そんな一日を過ごし、さあ!翌週から始まった新生活……。次々に登園して来る子供達を中門で待っていると、いろいろな様子でやって来てくれました。お母さんにしがみついて泣きながらの子もいました。その前の日はあんなに楽しかったのに……。中門でお家の人と別れ、ひとりで行く事になるなんて想像していなかったかもしれません。今日もお母さんやお父さんと一緒に行けるものだと思っていたかもしれません。そんな子にとっては、不安でいっぱいの一日の始まりだったはずです。今でもまだお部屋の中では、先生におんぶや抱っこされて、何とか気持ちを落ち着かせている子もいます。大泣きはしなくても、涙をこらえている子もいます。そんな姿のどれをとっても頑張っている事を愛おしく思います。そんな子もいれば、ニコニコ笑顔で、「おはようございます!」と張り切って挨拶をしてくれる子、小さな身体で大きな荷物を一生懸命に持って自分のお部屋にまっすぐ行こうとする子もいます。お家の人に抱っこされて来ても、中門からお部屋までの数十メートルの間に気持ちを切り替えて、安心できる場所を求めて自分の先生の所へ行こうとするその健気な様子にもまた愛おしさを覚えます。どんな様子で登園して来ても、「よく来たね。」と迎えてあげたいと思っています。

そんな中、中門に頼もしい助っ人達ができました。今年度の新しい環境にもすっかり慣れて心に余裕さえ出てきた年長組の子供達です。年長組の先生が「着替えたら、年少組さんを連れて行ってあげてね。」と声をかけてくれると、我先に!と部屋で着替えて中門に集まって来てくれます。そこで、次々とやって来る新入園児達を迎えてくれるのです。ちゃんと腰を低く目線を合わせて話しかけてくれます。「連れて行ってあげようか?」「荷物を持ってあげよう。」「何組?」と優しく声を掛けてくれます。ちょうど2年前のこの頃は、この子達がこうしてお兄ちゃんお姉ちゃんに同じように声をかけてもらっていました。自分達がしてもらっていた事を今年はしてあげる立場になったのです。素直に自分に甘えてくれて、手をつないでちゃんとお部屋まで連れて行ってあげられた時には、誇らしげにまた中門まで走って戻って来てくれます。それを何度も繰り返してくれるのです。新入園児がポツリポツリと登園する時には、丁寧に対応できているのですが、一度に何人もやって来る時には、焦りながら「え~っと、どの子を連れて行ったらいい?」「私、この子を連れて行くから、あっちの子をよろしく!」と何人かで担当を決めながら声をかけていました。声をかけてもそれに応じてくれなかったり、年長組さんには手に負えない程泣いていたり、助けを求めて来ない子もいたりします。そんな時には、「園長先生!この子、無理~!何とかしてあげて~」と困り果てている姿もまた頼もしいです。時には「お兄ちゃん達に連れて行ってもらいたい人!手あげて~!」と呼び掛けたりもしていました。手をあげる事ができるくらいならきっとひとりで行くでしょうが(笑)。

ある朝、小さな女の子がお母さんに抱かれて登園して来ました。お母さんから私が受け入れそのまま地面に降ろしてあげるとすぐに年長組の女の子が「荷物を持ってあげる!行こう!」と手を?ごうとしてくれました。すると、それまで泣いていなかったのに泣き出してしまいました。「連れて行ってあげるよ。おいで。」と声をかけてくれているのに泣き止まず私の周りをグルグル逃げてしまうのです。私は「ありがとうね。この子は園長先生が連れて行ってあげるから大丈夫よ。」とその女の子を抱いて部屋まで連れて行きました。すると、年長組の子が「どうして泣いてなかったのに泣き出したんだろう?園長先生じゃないといやだったのかな。」と、聞くので「そうじゃあなくて、あの子はきっと泣きたい気持ちをグッと我慢して来たところだったから、そんな時はゆ~っくりゆ~くり、そ~っと話しかけてあげた方がいいのかもしれないね。今度そうしてみて。」と言うと「はぁはぁ」と納得したようにまた、次にやって来る子を待ってくれていました。誰かの役にたちたい。助けてあげたい。と一生懸命になり過ぎて、その勢いに逆に泣かれてしまう事もある事を知り、場面やタイプによって声のかけ方やサポートの仕方を変えたほうが良い事も何となくわかってくれたようでした。何でもないちょっとした時間の出来事でも、子供なりに人との関わり方をこうして少しずつ学んでいく事を感じました。それからは、やってくる子の顔と様子を見て声をかけてくれている様子が伝わり、ますます頼もしく思えました。

今年度も、子供達の園生活の様子から見られる心の育ちや子供達をとりまく世の中を通して思う事、また既に終わった(?)私の子育て奮闘記を織り交ぜながら、『葉子えんちょうせんせいの部屋』を書かせていただきます。保護者の皆様に読んでいただき、子育ての大変さと楽しさを共有出来たらと思っています。今年一年間も、どうぞよろしくお願いいたします。

田房葉子

コロナ禍で学んだ事(2022年度3月)2023年3月

今月中旬に行った保育参観では、平日のお忙しい中にも関わらずおいでいただきありがとうございました。お子さんが成長された様子やクラスの中での生活ぶりを観ていただく事ができたでしょうか?この数年間は、新型コロナウイルス感染症拡大対策として、お子さんがどのように園生活を送っているのかをじっくりご覧いただく事がなかなかできませんでした。しかし、それでも今年度は、保護者の皆様に年間を通して様々なご協力をいただいたおかげで、参加していただく事ができた行事もありました。少しずつ少しずつ別の道をも探しながら、新しい事を取り入れながら子供達が学ぶ園生活の環境を整えてきたつもりです。わずかな機会でも、お子さんの楽しく頑張っている姿を保護者の皆様と共有できた事は私達も何よりの喜びでした。

さて、この度、新型コロナウイルス感染症法上の位置付けが5月8日から季節性インフルエンザと同じ「5類」にひき下げられる事となりました。それに伴い、政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」も廃止される事となります。いつかはこの時が来る。早くこの時が来ないかと待ち望んでいました。しかし、いざその時が来ると、安全に安心して生活するための“ものさし”が無くなったようで、少々不安や戸惑いも感じます。これまでは、感染拡大状況に応じその度に政府の対策に注視しながら、その“ものさし”をベースに“コロナとの闘い”から“ウイズコロナ”の生活を築くよう努力をして来ました。世の中の人々もたくさんの不満や疑問を持ちながらでも、一生懸命に受け入れながら隣り合わせにある目に見えない物とどう対応しながら生きて行くのがベストかを考えて来ました。


幼稚園でも、この数年間はこれまで経験した事のない対応に翻弄される事となりましたが、子供達の成長を止めないように“ピンチはチャンス!”の気持ちで日々の生活スタイル・行事内容や在り方・人との関係の築き方等をたびたび職員で考え合いながら過ごしてきました。とにかく前に進んで行くためには全てがチャレンジの気持ちでした。振り返れば、大変な事もありましたが、新しい発見や新たな道を見つける事ができた事も多くあり、学んだ事もたくさんありました。そんな中、地域や保護者の皆様からたくさんの応援や協力をいただいた事で、人は人を頼り…また頼られ感謝し合いながら生きて行くものであり、人間関係を構築していく大切さを実感しました。

このコロナ禍で子供達も、様々な事を学んだはずです。それぞれの家庭でも感染拡大対策をとられていたでしょうが、幼稚園という集団生活の中では家とは違うルールもでき、それを実行しようと一生懸命に努力してくれました。それまでは、友達と向き合って楽しく会話しながら食べていた昼食も、「黙食」というスタイルに、また、着けた事のなかったマスクでの生活、夏には熱中症対策として場面に応じた着脱も求められました。密を避けた生活の工夫・手洗いと消毒等々……。窮屈な生活だったと思いますが、子供達はどうしてそうしないといけないかという事を話して行くうちにちゃんと子供達なりに理解できるようになりました。それは、自分だけではなく自分の大好きな友達の元気な身体をも守る事になるという事──それが人を思いやる気持ちだと徐々に学んだと思うのです。できない事をできないと嘆くばかりではなく、できる事を新しく考えてみる事もこれまた楽しい!と感じられる子供達になりました。マスクで表情がわかりづらく相手と気持ちが通いにくいと言われる事もありますが、マスクをしているおかげで会話もできました。音楽や身体で気持ちを表現できる事も覚えました。気持ちを伝え合う方法をみんな手探りで見つけて来たのではないでしょうか?相手の気持ちを一生懸命にわかろうとしながら関わると気持ちは通い合うのです。相手の事を思いやるとはどういう事か?自分達の考え方次第でピンチはチャンスに変えられるんだという事──これは、コロナ禍の大きな学びであり収穫でもあったと思います。

さて、これからは、人が与えてくれる“ものさし”に頼らず、自分で考え自分で判断しながら安全に過ごす事が求められます。今こそ、私達がコロナ禍で学んだ事を活かす時です。自分一人で生きているのではなくいろいろな人と時間と空間を共にする事で自分は生かされているのだという事を感じ、そんな中で、どうふるまう事が自分を…また大好きな人を大切にするという事になるのか自分の行動と考え方が試される時なのかもしれません。

もうすぐこの幼稚園から年長組の子供達62名が巣立って行きます。この子供達は「新型コロナウイルス感染症拡大」の始まりから真っ只中を幼稚園で過し、「5類」への引き下げと状況が変わる中での新生活となります。これまでコロナ禍で学んだ事を十分に活かして、小学校生活をしっかり楽しんで欲しいと思います。友達の大切さや必要性を人一倍感じながら過ごして来た子供達です。誰もした事がない事にもたくさんチャレンジしてきた頼もしい子供達です。小学校に行っても、自分の頭と心で考え行動できるたくましい子供達でいてほしいと願わずにはいられません。

少し前に年長組の保育室に行った時です。担任の先生が「園長先生、これ……見てください。」とある男の子の自由画帳を見せてくれました。知らないうちに先生の机の上にそっと置いてあったのだそうです。そこには表紙の裏面いっぱいにクレパスや鉛筆でカラフルにこう書かれていました。「ありがとう せんせい もうすぐあえなくなるね もっといっしょにあそびたかったよ せんせい ありがとうのきもちだよ だいすきだよ」──そして、先生と自分が笑顔で並んでいる絵とハートがいっぱい描かれていました。心の中の溢れる気持ちを何とか先生に伝えたかったのでしょう。彼が一生懸命に考えた自分の気持ちの伝え方だったのです。それを最初に読んだ先生はどんなに幸せだったか。コロナ禍を共に過ごして来た子供と先生との強くて温かい絆が伺え、こみあげてくる熱いものを押さえきれませんでした。