心の安全地帯(2024年7月19日)

明日から夏休み。1学期を共に楽しく過ごした先生や友達とはしばらく会えませんが、夏休みの間に普段とは違う経験ができる事を子供達は楽しみにしているようです。「ヤッホッホ♪なつやすみ♫ヤッホッホ♪なつやすみ♫~~まいにちたのしい♪なつやすみ~♪」と夏休みを心待ちにしている子供達の歌声が聴こえて来ます。

「ほら、あそこで先生が待ってるよ」
始業式でスタートした1学期。例年、4月頃は中門当たりで、お家の人から離れられない新入園児達の涙の大合唱が繰り広げられるのですが、振り返ってみると、今年は割と穏やかだったような気がします。それでも、保育室を回ると、未知の世界に飛び込んだ事に戸惑い、不安気な子供達がたくさんいて落ち着かない日々がしばらく続いていました。いろいろな先生達でサポートしながら、1学期の集団生活を構築してきました。
そんな中、3歳の誕生日を迎えて入園して来る満3歳児(さつき組)のクラスでは、落ち着いたかな?と思えば、次の月には、涙しながらニューフェイスが入園して……その子がどうにか慣れたかな?と思えば、また次のニューフェイスが涙……それにつられてまた涙……。まだまだ小さくて幼いクラスですから、当然の光景です。
そんなさつき組の担任の先生は、登園時、様子をみて慣れない子を中門まで迎えに出てくれます。お家の人と車から降りて来て少し躊躇していても「おはよう!」と先生が笑顔で迎えると、お家の人の手を固く握りしめていた力をフ~っと緩めて、担任の先生と手をつなぎ保育室に向かうのです。少し慣れてくると、先生は、保育室の前で迎えます。「ほら、(担任の)美智子先生が、お部屋の前のテラスで待ってくれてるよ」と中門で私が声をかけると、一人で、美智子先生の待ってくれている保育室に歩いて行きます。遠くても先生の顔が見えるだけで安心するのです。こうして少しずつ少しずつ自立する姿を見せてくれるようになります。小さな身体には大きすぎるほどのたくさんの荷物を「よいしょ!よいしょ!」と両手に持って行くその後ろ姿が、何とも健気で可愛くてたまりません。幼稚園では、自分の先生が一番安心できる人なのです。

「先生はどこ?」
クラス毎の活動が始まると、子供達はみんな保育室に入ります。そうした時間のある日、さつき組だけ園庭で過ごしていました。子供達は、それぞれに自分の好きな事をみつけて遊び、先生は、花壇の花や野菜に水やりをしながら、そんな子供達の様子を見ていました。少し離れた所では、美智子先生を真似たのか、はたまた便乗したというのか、何人かの子がじょうろを使って水やりという名の水あそびをしていました。あちこちのプランターに存分にお水をあげていました。時々土を掘ったり、花をむしったり(笑)して「コラコラ!」と注意されながらでも、楽しそうに遊んでいました。なかよし動物園のヒツジのくりーむちゃんや、ヤギのきなこちゃんに野菜をあげる子もいました。広~い園庭を貸し切り状態で遊びます。砂場を通りかかると、そこで遊んでいたある男の子が「みちこせんせいは?」と私に聞いてきました。見失ったのでしょう。「あそこにいるよ」と教えると、「いた!いた!」と安心した顔をして、再びしゃがんで砂あそびを続けました。先生が居る事がわかっただけでそこは安全地帯になるのです。

「パパやママの気配」
家で子供が一人遊んでいて、時々「ママ~」「パパ~」と呼んだり、顔を見に来たりする事がありませんか?夢中になって遊んでいても、ふと、気配を感じなくなって不安になるのです。居てくれる事がわかるだけで安心するのです。一番安心できる人の気配を感じながら心を安定させています。世界が広がりさまざまな経験を積んでいく事で、安全地帯は徐々に広がっていきます。広い園庭の中で、先生と手を繋いだり抱っこしてもらっていなければ安心できなかった子供が、ずっと遠くに見える先生の顔を見たり、声を聞いたりするだけで安心するようになるのです。気配を感じながら、子供達は安心して“いたずら”という名の“チャレンジ”や“力だめし”をしたり“ケンカ”という名の“人とのコミュニケーション”を図ったりできるようになるのです。

幼い子供達は、先生をどこからでも目で追って、安心して過ごしています。先生もまた、子供達一人ひとりを広い目で見守ります。
時には、先生のお手伝いで各クラスの洗濯物を集めて回ったり、頼んでもいないのに(言葉が悪いですね~)先生の真似をして物をあっちからこっちにせっせと運んだりして、依存しながらの生活から、あの子達なりに自立に向かって歩んでいるのです。ほめられたり抱きしめられたり、また時に「コリャッ」と叱られたりして、先生の気配を感じながら、心の安全地帯でのびのびと過ごすのです。

「どうぞ“我が家流”の夏休みを!」
さあ!子供達は夏休みです。(どこかへ連れて行ってやらなきゃ)とか(何かをしてやらなきゃ)とか、思っておられるかもしれませんが、特別な事を考えて頑張り過ぎなくてもいいのです。“家族”という安全地帯の中で、一緒に早起きして花に水やりをしたり、洗濯を干したり畳んだり、ごはん支度をしたり、また、お仕事があって忙しくしておられても、ただ、家の中で一緒にいられる時間に大好きな家族の人がいてくれて、ふっと目が合うだけで、子供達は幸せに過ごせるのです。
ん???「あ~ぁ、夏休みかぁ~。やれやれ」と呟く声が聞こえるような……聞こえないような……(笑)家庭から幼稚園に安全地帯を広げた子供達の1学期間の成長を垣間見る事ができるかもしれませんよ~。