「だいすき」がいっぱい(2024年5月31日)

こいのぼりが元気よく泳いだ青空の色が、だんだんと濃くなってきました。夏の始まりを思わせるような汗ばむ日もありますが、その前にもう間もなく訪れる「梅雨」……春から夏へ季節の移り変わりを感じる時期です。大人にとっては鬱陶しく思われるこの時期も、きっと子供達は、梅雨にしかできないあそびを見つけ楽しむ事でしょう。

先日、年長組の子供達が田植えを経験しました。その準備のために、田んぼに水を入れる水路や池を整備していると、3匹のサワガニをみつけました。幼稚園の子供達に見せてあげようと、バケツに入れ、翌日、「子供達に見せてあげて」とうめ組の先生に渡しました。魚肉ソーセージを小さく切って入れておくと、ちゃんとハサミで口に運んで食べるので面白く、「わぁ!サワガニ!食べてる食べてる!サワガニがいるって、水がきれいな所なんですね。」と、先生も興味を持ってくれて、全クラスの子供達に見せてくれたのでしょう。その日、何人もの子供達が「園長先生!サワガニを持ってきてくれてありがとう!」と言ってくれました。

そんな中、「園長先生!あのね、サワガニってね……」と、何度も何度も私に話してくれる年長組の男の子がいました。「右のハサミと左のハサミの大きさが違うのはオスなんだよ」「水の中にもいるけど、泥の中に住んでるサワガニもいるよ」と、サワガニについて自分の知っている事を一生懸命教えてくれるのです。周りで聞いていた子供達も「〇〇くんは、虫や生き物の事なら何でも知ってるんだよ」と、その男の子の事を尊敬しながら自慢していました。その男の子は、子供達も先生も認める虫博士なのです。

「子供は経験するほとんどの事が“はじめまして”」
子供達には、大好きな事がいっぱいあります。虫、動物、車や電車のおもちゃ、運動、食べる事、おままごと、絵を描く事、絵本を読む事……、子供達はまだこの世に生まれて数年しか経っておらず、物事との出会いのほとんどが“はじめまして”の感覚です。だからその都度、新鮮で刺激的だったり衝撃的だったりして心を動かされるのです。心動かされた中に「アッ!これ、おもしろい!」「もっとやってみたい!」と“だいすき”になります。それは、物事だけではなく、人との出会いもそうです。それまで、家庭という限られた人とだけの生活から、幼稚園という世界を知り、そこで“はじめまして”の先生や友達と出会うのです。「だいすき」と思える人がひとり…またひとりと増えていきます。

大好きなものと出会うと、それに夢中になってそれを深めようと研究したり繰り返しやってみようと努力をします。それが楽しいのです。
大好きな人ができると、いつでも一緒に遊びたいと思い、毎日が楽しみになります。
「だいすき」は子供達の毎日を楽しく嬉しくして幸福感を与えてくれます。
時には、心を支えてくれる大きな力にもなります。

「気移りは子供の特権」
本当に大好きな事が見つかるとそれを極めたくなるでしょう。それがいずれ大人になって仕事に繋がったり、生き方の道しるべの如く自分の人生の柱となればこの上なく幸せです。しかし、子供が、一つの事を長期的に「すき」でい続けられるかというと、そうでない事も少なくありません。熱しやすく冷めやすい、飽きっぽい、三日坊主、気移りしやすい、などなど……。

でも、幼児期の子供達に必要なのは、いろいろな事に出会い、知り、それに関わってみる事、経験を豊富にしてあげる事だと思います。たくさんの“だいすき”に出会えます。そして、その中から、心をときめかせてくれる最も好きな物を自分でチョイスします。幼い時期には、浅くても広~くたくさんの物に出会えた方が良いと思います。子供達は、気移りしながら、品定めをしているのです。一度冷めた事でも、その時々に熱した経験は、その子のどこかに残り、再び出会った時に前の経験を引っ張り出して再燃できたら良いと思うのです。

「共感は応援になる」
「だいすき」と思える事を子供達の中にたくさん作ってあげる事が大切で、そのためには、たくさんの事を経験したり、いろいろな人に出会える環境の中に身を置くこと、またそのきっかけをつくってあげる事が必要なのではないかと思います。

虫が大好きな子供達がたくさんいます。いつも、観察ケースを片手に観察したり、採集したりしています。ある日、年長組の保育室に行ってみると、観察コーナーらしき場所を先生に用意してもらい、新聞紙に採集して来た生き物を触ったりその身体を観察したりして、数人の子供達が「これが口で目はこれ、今からどんどんはっきりわかるようになるんだよ」と頭を突き合わせてうんちくを述べ合っていました。用意されたそのコーナーには、子供達が見つけた興味に先生が共感して応援している気持ちがうかがえます。その中で、子供達は安心して虫と関わります。

子供達が、心ときめかせて夢中になっている間は、大人の私達も共感して一緒に楽しむ事が子供達の「だいすき」を深める事に繋がっていきます。
その「だいすき」がいつか、子供達の人生を支える何かの力に繋がっていくでしょう。