コロナ禍で学んだ事(2022年度3月)2023年3月

今月中旬に行った保育参観では、平日のお忙しい中にも関わらずおいでいただきありがとうございました。お子さんが成長された様子やクラスの中での生活ぶりを観ていただく事ができたでしょうか?この数年間は、新型コロナウイルス感染症拡大対策として、お子さんがどのように園生活を送っているのかをじっくりご覧いただく事がなかなかできませんでした。しかし、それでも今年度は、保護者の皆様に年間を通して様々なご協力をいただいたおかげで、参加していただく事ができた行事もありました。少しずつ少しずつ別の道をも探しながら、新しい事を取り入れながら子供達が学ぶ園生活の環境を整えてきたつもりです。わずかな機会でも、お子さんの楽しく頑張っている姿を保護者の皆様と共有できた事は私達も何よりの喜びでした。

さて、この度、新型コロナウイルス感染症法上の位置付けが5月8日から季節性インフルエンザと同じ「5類」にひき下げられる事となりました。それに伴い、政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」も廃止される事となります。いつかはこの時が来る。早くこの時が来ないかと待ち望んでいました。しかし、いざその時が来ると、安全に安心して生活するための“ものさし”が無くなったようで、少々不安や戸惑いも感じます。これまでは、感染拡大状況に応じその度に政府の対策に注視しながら、その“ものさし”をベースに“コロナとの闘い”から“ウイズコロナ”の生活を築くよう努力をして来ました。世の中の人々もたくさんの不満や疑問を持ちながらでも、一生懸命に受け入れながら隣り合わせにある目に見えない物とどう対応しながら生きて行くのがベストかを考えて来ました。


幼稚園でも、この数年間はこれまで経験した事のない対応に翻弄される事となりましたが、子供達の成長を止めないように“ピンチはチャンス!”の気持ちで日々の生活スタイル・行事内容や在り方・人との関係の築き方等をたびたび職員で考え合いながら過ごしてきました。とにかく前に進んで行くためには全てがチャレンジの気持ちでした。振り返れば、大変な事もありましたが、新しい発見や新たな道を見つける事ができた事も多くあり、学んだ事もたくさんありました。そんな中、地域や保護者の皆様からたくさんの応援や協力をいただいた事で、人は人を頼り…また頼られ感謝し合いながら生きて行くものであり、人間関係を構築していく大切さを実感しました。

このコロナ禍で子供達も、様々な事を学んだはずです。それぞれの家庭でも感染拡大対策をとられていたでしょうが、幼稚園という集団生活の中では家とは違うルールもでき、それを実行しようと一生懸命に努力してくれました。それまでは、友達と向き合って楽しく会話しながら食べていた昼食も、「黙食」というスタイルに、また、着けた事のなかったマスクでの生活、夏には熱中症対策として場面に応じた着脱も求められました。密を避けた生活の工夫・手洗いと消毒等々……。窮屈な生活だったと思いますが、子供達はどうしてそうしないといけないかという事を話して行くうちにちゃんと子供達なりに理解できるようになりました。それは、自分だけではなく自分の大好きな友達の元気な身体をも守る事になるという事──それが人を思いやる気持ちだと徐々に学んだと思うのです。できない事をできないと嘆くばかりではなく、できる事を新しく考えてみる事もこれまた楽しい!と感じられる子供達になりました。マスクで表情がわかりづらく相手と気持ちが通いにくいと言われる事もありますが、マスクをしているおかげで会話もできました。音楽や身体で気持ちを表現できる事も覚えました。気持ちを伝え合う方法をみんな手探りで見つけて来たのではないでしょうか?相手の気持ちを一生懸命にわかろうとしながら関わると気持ちは通い合うのです。相手の事を思いやるとはどういう事か?自分達の考え方次第でピンチはチャンスに変えられるんだという事──これは、コロナ禍の大きな学びであり収穫でもあったと思います。

さて、これからは、人が与えてくれる“ものさし”に頼らず、自分で考え自分で判断しながら安全に過ごす事が求められます。今こそ、私達がコロナ禍で学んだ事を活かす時です。自分一人で生きているのではなくいろいろな人と時間と空間を共にする事で自分は生かされているのだという事を感じ、そんな中で、どうふるまう事が自分を…また大好きな人を大切にするという事になるのか自分の行動と考え方が試される時なのかもしれません。

もうすぐこの幼稚園から年長組の子供達62名が巣立って行きます。この子供達は「新型コロナウイルス感染症拡大」の始まりから真っ只中を幼稚園で過し、「5類」への引き下げと状況が変わる中での新生活となります。これまでコロナ禍で学んだ事を十分に活かして、小学校生活をしっかり楽しんで欲しいと思います。友達の大切さや必要性を人一倍感じながら過ごして来た子供達です。誰もした事がない事にもたくさんチャレンジしてきた頼もしい子供達です。小学校に行っても、自分の頭と心で考え行動できるたくましい子供達でいてほしいと願わずにはいられません。

少し前に年長組の保育室に行った時です。担任の先生が「園長先生、これ……見てください。」とある男の子の自由画帳を見せてくれました。知らないうちに先生の机の上にそっと置いてあったのだそうです。そこには表紙の裏面いっぱいにクレパスや鉛筆でカラフルにこう書かれていました。「ありがとう せんせい もうすぐあえなくなるね もっといっしょにあそびたかったよ せんせい ありがとうのきもちだよ だいすきだよ」──そして、先生と自分が笑顔で並んでいる絵とハートがいっぱい描かれていました。心の中の溢れる気持ちを何とか先生に伝えたかったのでしょう。彼が一生懸命に考えた自分の気持ちの伝え方だったのです。それを最初に読んだ先生はどんなに幸せだったか。コロナ禍を共に過ごして来た子供と先生との強くて温かい絆が伺え、こみあげてくる熱いものを押さえきれませんでした。