ありがとう(2024年2月29日)

三寒四温とはよく言ったものです。寒い日が続いたかと思えば、数日温かい日が続く───こうして寒さと温かさを行ったり来たりしながら、じわじわと春がやって来るのです。早い地域では、2月の中旬には早咲きの桜が話題になっていました。もう春です。春は、何だか寂しさと喜びの入り混じる季節……三寂四喜?──寂しさと喜びを行ったり来たりしながら着実に希望の春を迎えるのです。

「“ありがとう”は “有り難し” 」
 あるテレビ番組で“ありがとう”の語源について語っていました。その番組を本気で観ていたわけではなく、夕食の片づけをしながら耳にしただけでしたが、なんだか合点のいく話でした。「ありがとう」を漢字にすると「有難う」───“有る事が難しい”それは “貴重な事” その貴重な出来事に感謝する言葉になったという事でした。残念ながら、私には、ここで、語れる程の知識や語彙力がないので説得力がありませんが、「ありがとう」の言葉の大切さを考えさせられるワンシーンでした。「ありがとう」と言われて、気分を害する人はいないと思います。言った人も言われた人もとても嬉しい気持ちになります。優しい気持ちになります。当たり前の言葉だけれどこの言葉のチカラを思うと実に不思議で実に大切な言葉だとあらためて思うのです。

 「お弁当屋さん、ありがとう!」
 ある日の昼、職員室にいる私に事務所の先生から内線電話がかかってきました。デリバリーのお弁当屋さんが、食べ終えたお弁当箱を引き取りに来られた時、わざわざ事務所に寄って言われた事を伝えてくれました。
空のお弁当箱を滑車に乗せて運んでいるところに、子供達がやって来て「おじちゃん、お弁当ありがとう!美味しかった!」「私、前は、食べられなかった緑の豆が食べられるようになったんだよ!」「ありがとう」って言ってくれたという事でした。お弁当屋さんは、とても嬉しかったそうで、わざわざ帰りに事務所に寄ってその事を話してくださったという事でした。私は、それを聞いて、とても嬉しくなりました。事務所の先生も嬉しくなってすぐに教えてくれたのです。
 「ありがとう」と言った子供達は、“当たり前の事ではない貴重な事(いつも美味しいお弁当を届けてくださる事)”に感謝したい思いを言葉にしたのです。お仕事として当たり前にしている事に対して「ありがとう」と言ってもらったお弁当屋さんは、また美味しいお弁当を気持ちよく子供達に届けてくださるでしょう。お弁当屋さんと子供達の間に何かが生まれました。
 「“ありがとう”で生まれる事」
 園庭で遊んでいた子供のポケットから、ハンカチが落ちました。「○○ちゃん!落ちたよ~」と私が遠くから呼ぶと、近くにいた子がそのハンカチを拾って渡してあげました。ハンカチを落とした子が「あっ!ありがとう!」と言ってポケットに入れ直しました。何でもないような場面ですが、ふたりは目を合わせて笑っていました。その間には笑顔と良い関係性が生まれたのです。
 喜んでもらえた事で、自分がした行動が間違っていなかったと自信を持つ事ができます。自己肯定感が生まれます。

また、言う方も「ありがとう」の気持ちを言葉にする事で、相手に対して優しい気持ちになり、いつか自分もそんな場面に出くわしたら喜んでもらえる人になろうと考えます。
“ありがとう”の言葉には、人の心や行動に影響する大きな力があるのです。言う側にも言われる側にも、幸せな生き方の基盤のひとつが生まれます。

素直に「ありがとう」と自分から言える子供達を見ると、感謝に溢れた生活をしているのがわかります。「ありがとうは?」と子供達に言わせようとするのではなく、「ありがとう」の気持ちを持てる言葉をいつも投げかけてあげてください。「嬉しいね」「よかったね」「助かったね」……そして、感謝をいろいろな方法で相手に伝える姿を子供達に見せてあげてください。大人が、その事によって嬉しそうに…幸せそうにしている事で、それが“当たり前”ではなく“貴重な事”である事に子供も気づかされ、心から「ありがとう」と思える気持ちが生まれます。

「新しいステージに向かう子供達に……」
年度末を迎え、これまでの日々を振り返っています。3歳から5歳の子供達にとってのこの一年はとても大きな時間です。この幼稚園で仲間と出会い過ごしてきた事はある意味奇跡であって、貴重な時間である事に私達も感謝して次のステージに送り出したいと思っています。
今月には、年長組の子供達はここ…三次中央幼稚園から巣立ちます。入園して奇跡的に出会った友達や先生達と、この数年間でたくさんの経験をしながら、人との関係の築き方や自己の人間形成を培って来ました。その生活の中には、上手くいかない事や悩む事も経験しました。でも、そんな時の潤滑油やクッションまたは接着剤になってくれたもの、そして、気持ちを前向きにしてくれるチカラのもとになってくれたのは「ありがとう」という言葉(気持ち)だったような気がします。これから、また、新しい場所で新しい友達と新しい生活を送る子供達には、良い仲間に巡り合い、山あり谷ありの人生をも愉快に幸せに生きて行って欲しいと心から願っています。「ありがとう」────この言葉の持つチカラを味方に……。
今まで、この三次中央幼稚園でたくさんの笑顔を見せてくれて
───────ありがとう。