親子でクッキング(平成23年度9月)

年々夏の暑さが増し、ついに「地球温暖化」にとどまらず「地球沸騰化」という言葉が聞かれるようになりました。地球に異常事態が起こっている事を感じます。暑さ指数を気にしながらの夏はまだもう少し続きそうです。

そんな暑さの中の夏休みは、皆さん、どのように過ごされたでしょうか?普段よりは、家族で過ごす時間も多くあり、楽しい夏の思い出ができたのではないでしょうか? 2学期が始まり、子供達から夏の思い出話が聞ける事が楽しみです。


何年か前の事になりますが、お盆休みに入る少し前に、広島市内に住む娘から電話がかかってきました。「肉じゃがを作ったんだけど、何だかお母さんの味とは違うんだよね~。美味しくない訳じゃあないよ!それはそれで、前にお母さんから教えてもらったように作ったから、美味しいのができたんだけど、何か違うんだよね~。」「調味料の分量をもう一回教えて欲しい。」と言うのです。ありがたい事に、娘は、昔からいつも私が作る料理を「やったー!お母さんの定番の味!」と言って喜んで食べてくれます。大学生から一人暮らしを始め、社会人になって自分で料理をして食べたり人に食べてもらったりする機会が増えたのでしょう。何を作ろうかと考える時にお母さんの料理を思い出して作るのだと言ってくれます。しかし、「調味料の分量は?」と聞かれても、計りながら作っているわけではないのでなかなか電話では伝えられず、お盆に帰って来た時に一緒に作ろうという事になりました。

それから、お盆になり、娘達と一緒にお盆のご馳走を作りました。我が家はお盆やお正月にはお客様が来られるので、そういう時は一日中台所に立って何種類かのおかずを作ります。それを娘達が手伝ってくれるようになったのは、やはり一人暮らしを始めた頃からだと思います。それまで食べる専門だった娘達が、お母さんの味を自分でも作ってみたいと思うようになってからは本気で手伝ってくれるようになりました。

一緒に作りながら、娘達は、私の手元を見て野菜の切り方を知ったり、美味しくなるためのひと手間を知ったり、効率よく作るための順序等にも関心を持って見たり、よくわからない事には「どうして?そうするの?」と聞いて来たりもしました。味付けの調味料を入れる時は一段と興味津々です。でも、私が、計量カップやスプーンを使わず、おおざっぱにボトルや調味料ケースから適当に入れるのを見て、娘達は「どのくらいかちゃんと教えてよ~」と聞いてきます。「どのくらいって、このくらい。見て覚えて!お母さんも計って作った事ないんだよね~。」と言うと、笑いながら「じゃあ、調味料を合わせた煮汁の味見をしてみよう。」と鍋からすくってなめたり飲んだりしていました。そして「うんうん、これこれ!」と目指す“お母さんの味”を色具合や味や香りで確かめていたようでした。そうしてできた料理が美味しいかどうかはさておき、親子で料理をするという経験の中では、いろいろな事が育つような気がします。

例えば、料理をする時、キッチンが親子でのちょっとしたコミュニケーションの場になります。料理についてだけではなく、「あのね、お母さん、この前こんな事があったよ。」とか、「アパートの近くのスーパーに面白いレジのおばさんがいて、仲良くなったんだよ。」等、同じ時間を過ごしながら会話が弾みます。たまに、恋バナ等聞く事があり、それはそれは楽しいひと時です。

次に、一緒に料理をしていると、自然と役割分担ができます。具材を切る人、調理する人、使った鍋や容器を洗う人……と段取りを考えながら自分は今何をしたら良いか、次に何が必要かを見極め動こうとします。初めは、「これして。あれして。」と指示しないと動けなかったのが、自分で考えてその時の状況に対応しようとアンテナを張る事ができるようになるのです。我が家の娘達はいまだに指示を要しますが……(笑)

また、美味しくいただくまでの、具材の色、手触り、グツグツ煮える音、香り、味等を五感で覚えて行きます。自分で作る時にその時の事を思い出しながら、あの味に近づこうと試みるのです。私も、子供だった頃、夕飯支度をする母親の隣で手元を見たり味見をさせてもらったりしながら、母の味を受け継いできたような気がします。

そして、それを食卓に並べ家族でいただく時、「どうやって作ったの?」「おいしいね」「大変だった」「楽しかった」「難しかった」等と家族の会話が広がるのです。家族皆のコミュニケーションが深まります。

更に、いろいろな食材を作ってくださっている方々への感謝、肉や魚など命ある物を食する事に対し手を合わせて「いただきます。ごちそうさま。」の気持ちを持つ大切さも味わいます。

娘達は、「おいしい」と言ってくれますが、私は決して料理が得意なわけではないし、家族の者の口に合っているだけで、自慢できるものでもありません。でも、“お母さんの味”を目標にしてくれているのは嬉しい事です。一緒に料理をする時間そのものも貴重な時間である事をすごく実感します。料理を覚えるという事以外に、その時間を通したくさんの事が得られる気がします。親は皆、子供達には自立した大人になってもらいたいと思っています。自立して生きて行くためには、生活力を身に付けて欲しいと思うでしょう。ご飯支度でもお菓子作りでもいいのです。親子でのクッキングを通し、ぜひ楽しみながら家庭でないとできない学びの場を作ってみてください。

料理をするという事は、とても頭を使う事だと言われます。“何を作ろうか”と考えそれに合わせて買い物をしたり、何がどれだけ必要かと考え準備したり、手先を使って調理する……。何品かの料理が出来上がるまでには様々な工程を効率良くこなし、五感を働かせながら完成させていく……。頭はフル回転です。これを毎日毎日繰り返しているのですから凄いものです。

しかし最近、我が家の冷蔵庫の中に時々あるべきものではない物が入っている事があります。先日は食品包装用ラップが入っていました。きっと無意識にした私の仕業です。「これはまずい!」と少し焦りました(汗)。今や、この年になると、娘達と一緒に台所へ立つ事は子供のためだけではなくなって来ました。私自身の脳トレのためにも、家族が喜んでくれる手料理を頑張って作りたいと……そうしなくっちゃいけない!と思っています(苦笑)。

えんちょうせんせいの部屋とは

2020年度から三次中央幼稚園の園長を務める 田房葉子のことです。
自分の保育実践や主任教諭としての経験をもとに、様々な観点から保育と子供の育ちを見つめた所感をまとめ、三次中央幼稚園が園児・保護者対象に月一度発行する園だよりに連載しています。子育ての参考にしていただければと思います。

『お父さんお母さんのお仕事なあに?』(2023年度)8月

あれよあれよと言う間に一学期が終わりました。長い間、悩まされた「新型コロナウイルス」により制限されていた生活も少しずつコロナ前の生活に戻って来ているようですが、ここに来て、また第9波の入り口…というニュースも流れています。あれだけ世界中をおびやかした感染症ですから、なかなか以前の生活に戻る事は考えられません。「コロナ」で学んだ事や得られた事を前向きに活かしつつ、どう、より良く幸せに過ごすか……何に幸せの価値を見出すか……。私達の思い次第だと感じています。

この一学期は、そう思いながら幼稚園の生活を送って来ました。昨年の一学期には叶わなかった事も、ほんの少し取り入れる事ができました。その中でも、幼稚園バスに乗ってクラスや学年みんなで、出かける事が出来た事は、子供達にとっては大きな喜びだったようです。ドライブや園外活動など、園内ではできない経験で園生活にスパイスを加える事ができたようです。

7月7日の七夕の日、年長組の子供達が三次市主催の「交通安全七夕まつり」に参加しました。WBSC女子野球選手のスペシャルゲストと共に、交通安全を願って書いた短冊を飾りつけをしたり、ダンスや歌を披露しました。

その会場には、市役所、警察、地域ボランティア、高速道路パトロール……。様々な仕事をされている方がたくさん参加されていました。白バイやパトカー、高速道路パトロールカーにも乗せてもらい、大喜びの子供達でした。

そんな中で、何人かの子が「アッ!お父さんだ!」と仕事としてその場に来ておられたお父さんの姿を見つけたのです。私は、年長組の子供達だけではなく、他な学年の子供のお父さんやお母さんの事も「○○君のお父さん(お母さん)だよ。」と教えてあげました。「何のお仕事?」と聞いてくる子もいました。一番盛り上がったのは、パトロールカーに乗ってお仕事をされているある女の子のお父さんを見つけた時でした。お父さんはパトロール隊の制服とヘルメット姿だったので、私にはすぐにはわかりませんでしたが、「○○ちゃん、お父さんだよね。」とその子に言うと「うん!私、最初からわかってた!すぐ、見つけたもん!」と自慢そうに答えました。お母さんも、会場に駆けつけてくださっていて、その子がパトロールカーに乗せてもらった時にお父さんとのツーショットを撮っておられました。お母さんに「○○ちゃん、とっても嬉しそうですね~。」と言うと、「父親のこの姿を見せたのは初めてなので……。」と微笑んでおられました。私たちも、いつも、幼稚園に送迎してくださる時のお父さんやお母さんの姿を見る事があっても、お仕事中の姿をみる事はなかなかないので、いつもと違ういで立ちのお父さんは新鮮でした。その姿を見た事がなかったその子にとっても新鮮だった事でしょう。周りの子から「○○ちゃんのお父さん、かっこいいね~。」と言われ、少々照れ気味でしたが、自慢だったに違いありません。

以前、通報避難訓練の時に、来てくださった消防士さんの中に保護者の方がおられ、そのお父さんの姿を見つけたある子は、いつものお父さんを見る目とは違う様子で、消防士のお父さんを見つめて照れ笑いしていました。その子の七夕の短冊には『しょうぼうしになりたい』と書かれていました。将来の夢の選択肢にお父さんの働く姿が入っているのです。

子供達に「あなたのお父さん、お母さんの仕事は何?」と聞くと「会社!」「仕事!」と漠然とした答えが返ってくる事があります。会社の名前やそこでどんな姿でどんな仕事をしているのかを知っている子はあまりいないのかもしれません。見た事がなければ、イメージする事も難しいでしょう。世の中には、いろいろな仕事があって、その仕事に合ったいで立ちや振る舞いがある事、どんな事をする仕事なのかを知る事は、仕事への興味に繋がり、自分の将来の夢にも繋がる事になります。自分が将来やってみたい事への選択肢を増やすきっかけにもなります。何よりも、お父さんお母さんへの感謝の気持ちや尊敬の気持ちに繋がります。一日中お仕事を頑張って、自分達を一生懸命に育ててくれている事を実感するでしょう。

この夏休みは、働くお父さんやお母さんの姿を見せてあげてはいかがでしょうか?言われるまでもなく、既に、お子さんにその姿も仕事の内容もよく知らせているご家族もいらっしゃると思いますが、『ファミリ―社会見学』と言ったところでしょうか?家では見られないお父さんお母さんの姿を見せる事で、あらためて、お父さんお母さんをもっと応援したくなるでしょう。

私の娘達が小さい頃の事、父親の職場に連れて行った時、「ヘェ~、お父さんの仕事は、こんな物を売る仕事なんだ。」と知り、街のあちらこちらででその物を見かける度に「お父さんが売ったの?」「お父さんが作ったの?」と、何もかもお父さんの手にかかっているかのように興味津々に聞いていました。

そして、母親である私の仕事は“幼稚園の先生”。娘達は私の職場である三次中央幼稚園に通わせていたので、小さい頃からあまりにも近くに居すぎていて、知らない世界で頑張っているお母さんという感覚もないまま大きくなりました(たぶん)。むしろ、卒園後、成長してからの方が徐々に自分の見えない所で毎日お仕事を頑張って帰る母に「お母さん、幼稚園の先生って楽しいけど、その裏にはいろいろ大変な事があるんだね~。」と労ってくれるようになりました。


どんなに小さくても、子供達は、お父さんお母さんがお仕事を頑張ってくれている事は教えてあげてください。どんな所でどんな事をしていて、それが世の中でどんなに必要とされている仕事かを実感させてあげて欲しいのです。幸せな生活ができるのも、自分達を元気に育ててくれているのも、楽しい毎日が過ごせているのも、間違いなくお父さんお母さんのおかげなのです。毎日頑張ってくださっているおかげなのですから……。


お家の仕事をしてくださっている家族について一日手伝いをしてもらう事も、家での仕事を理解する良いチャンスです。お父さんお母さんだけでなく、おじいちゃんやおばあちゃんの仕事もわかり、普段、幼稚園や学校に行っている間に家族がどんな仕事をしてくれているか?実感できると思います。

明日から夏休みです。この機会に、ご家族のお仕事について話したり見たり手伝ったりする経験で、尊敬し合い感謝し合える家族の絆が更に深まるといいですね。