わんぱくチャレンジ(2022年度)10月

暑さ指数を気にしながら過ごした夏が終わり、その頃とは違う空の青さに秋の雲が見られるようになりました。夜、庭に出てみると虫の声が楽しませてくれます。思わず「あれマツムシが鳴いている~♪」と口ずさみます。先日は、年長組のふたりの女の子が小川に架っている橋に腰をかけ、「う~さぎうさぎ何見て跳ねる 十五夜お月さんみては~ねる♪」と可愛い声で歌っていました。お月見の頃に、年長組の子供達は、自分達で作ったお月見団子と、秋に収穫された果物や野菜をお供えし、この歌を先生に教えてもらったようでした。季節を感じながら思わず口ずさみたくなったのでしょう。子供達の心の中にそんな歌をたくさん残してあげたいものです。穏やかで豊かな心に触れたような気がして温かい気持ちになりました。

さて、幼稚園では今、来月予定している『わんぱくチャレンジデー』に向けて各学年それぞれの種目に取り組んでいます。数年前は『運動会』と称して行っていました。3年前から「新型コロナウイルス感染症」の影響を受け、何もかもを新しい様式に変えざるを得なくなりました。それを良いきっかけと捉え、今までの運動会で何を育てたいと思って行ってきたかを先生達とあらためて確認しました。その上で新たな形で取り組もうと考えました。この経験を通して子供達の中に育てたいと思っている事は、“いろいろな事に挑戦する力・一つの事を最後までやり遂げようとする力”です。

三次中央幼稚園には、ゴツゴツした小山や急なアスレチックを駆け上ったり、木や綱にぶら下がったり、小川の向こう岸に飛び越えたり、広い園庭を走り回ったりして、身体を動かし遊べる環境があります。子供達はその普段の外あそびの中でいろいろな事を学んでいます。

でも、その中だけでは育てられない事もあります。自分のやりたい事には夢中になれるけれど、好きではない事や苦手な事を避ける事もできます。例えば、鬼ごっこをしようと誘っても、クラスの全員がそこに参加しているかと言えば、走るのが苦手だったり、鬼になるのが嫌だったりする子は、その気持ちを超えてまで参加しないでしょう。「よーいドンしよう」とみんなで走っても、自分が出遅れたら途中で走るのをやめて歩いたり、そのあそびの輪から離れたりする子もいるでしょう。苦手な子は苦手なまま、新しい事に出会えたり興味が広がりにくかったりします。

私達は、日常のあそびの上に積み上げたい学びを「わんぱくチャレンジ」に込めています。友達と一緒に一つの事をがんばり抜こうとする努力や粘る力は、クラスや幼稚園の子供達と先生達全員でとりくむ事でこそ育つと思うのです。興味がない好きではない事にでも、みんなと一緒やってみる事で、新たな“自分発見”が出来るでしょう。

ルールを理解し、そのルールの中でいかに自分の力を発揮できるかを考えながら競う競技や、最終ゴールを目指してクラスみんなで力を合わせ友達をカバーしたりされたりしてバトンを繫ぐリレーやクラス対抗競技、そして、音楽に合わせて気持ち良く踊ったり……年長組は堂々と鼓隊演奏をしたりします。どの種目もがんばってみるチャンスへの挑戦です。日頃、身体をいっぱい使って遊びながら身につけている技や根性と、友達と築いている仲間意識とその信頼関係が、どのような力を生み出すかを試す力だめしなのです。

そして、そこには、「頑張る楽しさ」「達成感」「自信」「力を認め合う気持ち」が得られるはずです。それらを得るためへのチャレンジの場であり、子供達に潜在している成長の可能性を引き出すチャンスなのです。得意な事をもっと深め…苦手であってもそこから目を逸らさず挑む気持ちや力の育ち、……友達や先生達からそのがんばる姿を認められながら、その先にある「頑張って良かった」「僕ってすごいんだ」「私って頑張れるんだ」という喜びや楽しさに出会わせてあげられると思っています。それは、長い人生のうちにいつかはきっと出会うであろう「苦難」「挫折」「失敗」をも逞しく乗り越え、自分の目標や夢に向かおうとする力の根っことなるはずです。

三次中央幼稚園では、10月の一週間を『わんぱくチャレンジ週間』として、学年別に保護者の皆様にご覧いただく予定です。ご覧いただくのは、一日だけですが、実は、子供達のチャレンジはこれまでも…これからもずっと続いているのです。日々園庭を走り回ってあそぶ事から、健全な心と身体を育てるまでの延長線上にこの『わんぱくチャレンジ』があるのです。この経験で得られた様々な力は、この先いろいろな育ちに繋がって行くと考えています。点が線になって行くように……。そんな思いで取り組んでいる事に保護者の皆様にも共通な思いを持ってご覧いただきたいと思います。子供達は、きっと、それぞれにそれまでの自分を超えようと頑張ります。

子供達による子供達のための『わんぱくチャレンジ』です。

一本歯下駄に挑戦している子供達が、「園長先生!見て見て!」と友達と手を繫いで、ゆっくりゆっくり下駄を履いて歩いて見せてくれました。一人は歯の高さが10cm程もある下駄、もう一人は一番低い数センチの下駄──難易度の差は一目瞭然。でも、子供達の中ではどっちが凄くてどっちが凄くないかなんていう視点ではなく、一本歯下駄を履いて歩ける事が共通の喜びと達成感のようでした。でも、友達と一緒に挑戦する事で、「私ももう少し高い下駄を履いて歩けるようになりたい」と思えたり「前は履けなかったのに履けるようになった○○ちゃんは凄い!頑張って偉いな」と思えたりするのです。それが自分を超えたいと思うチャンスになるのです。子供達ひとり一人の成長と集団で取り組む事で獲得できる成長──それらへのチャンスを逃さないようにこのチャレンジャー達を応援したいと思っています。