生きるために遊ぶ(2022年度)8月

いよいよ明日から夏休み。今年は早い梅雨明けだったため、例年の同じ時期に比べて雨のために外で遊べないといった日があまりなかったような気がします。ただ、これからは、ますます厳しい暑さが訪れ、熱中症警戒アラートや暑さ指数とにらめっこしながら過ごす必要に迫られる日が多くなって来ます。私が子供だった頃、暑ければ暑い程喜んで汗いっぱいかいて遊んでいたし、夏休み明けにはどれだけ日に焼けたかを友達同士で競っていたものです。大人達も今ほど熱中症の事に気分を使っていなかったと思います。環境の変化を受け止めながら、上手に夏を楽しみたいものです。

夏になると、子供達は小川やプールで水あそびをしっかり楽しみます。ホースで水を引っ張って来て園庭にダムや水たまりを作って、身体いっぱい汚し動かしながら遊びます。心も身体も開放されます。特に幼稚園では「どんどん汚していいよ」「やりたい事を存分にどうぞ」という先生の眼差しの中で遊べるのですから、初めは躊躇していても徐々に自分の中で心溶きほぐしそんなあそびもそれぞれに考えて楽しめるようになります。

朝から園庭がカラッカラに乾いていたある日、私がホースで園庭に水まきをしていた時の事。しっかり湿らせた後、年中組のある女の子ふたりが「園長先生!それ貸して!」とホースを指差しました。「どうするの?」と聞くと「ここに水がなくなってるの。ここにお水をいれたいの。」と、いつも水たまりができている小川の横のくぼみの事を言いました。「あらっ!お水はどこに行ったのかねぇ」と言うと、ひとりの女の子が「蜂が全部ぜーんぶ飲んじゃったのかなぁ。」と答えました。そう言えば、少し前にその水たまりに一匹の蜂が来て騒いでいたので「触ったらだめだよ。蜂は水を飲みに来てるだけだから。そっとしていたら何もしないからね。」と、一緒にじっとその様子を見ながら話した事がありました。その時の事を覚えていたのでしょう。それを聞いた、もうひとりの女の子が「そんなわけない!それじゃあ飲みすぎでしょ。土の下に行った(染み込んだ)んじゃない?」と言いました。「そっかあ、いったいどこに行ったんだろうね」と返すと、そのやり取りを聞いていた別の女の子が「暑いから乾いたんだよ。」とあっさり言いました。「乾くって、消えるの?」「いつどうやって消えたんだろう」と私がわざとつぶやくと、その女の子は「………。」少し考えたようでしたが、「知らない。」と言って向こうに行きました。残ったふたりの女の子達は、納得できる答えが出ないまま「どうしてかねぇ」と、首をかしげながらホースでそのくぼみに水を溜めて「園長先生!また蜂が来るかな?」言いました。

何でもない数分間のやりとりでしたが、“どうしてだろう?”“こうなのかも、ああなのかも”とか“知りたい”“また観てみよう”という興味や関心が子供の中に生まれたのです。

ある年長組の男の子が、プレイルーム担任の先生の所にやって来て「先生!今日は、昨日まであまり鳴いていなかったのに、暑くなって急にセミが賑やかに鳴いてる!」と言っているのを聞きました。その言葉を聞いて、昨日と今日のセミの鳴き声の大きさや多さに、思わず耳を傾けました。「ホント、すごい!昨日と今日は何が違うんだろう」と聞くと「昨日は少し雨が降ったでしょ。雨がやんで急に暑くなったから、セミがどんどん成長したんだと思う!」と自信満々に答えてくれました。

私達大人は、当たり前に季節の動きを感じていますが、昨日と今日のセミの鳴き声が違うとかそれがどうしてかとか、気付かなかったり興味を示し探求心を持つ事があまりないのかもしれません。きっとそれが当たり前になっているからです。

子供達は、たくさんの“~したい”という欲求を本能的に持っています。その欲求を身体と心と知恵で向き合いながら満たしていきます。子供達にとっては、周りの環境の一つひとつが新鮮で、それらに関わろうとする事で、見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触る経験をし、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を刺激します。そしてそれは、好奇心や想像力や意欲、また自ら問題に取り組もうとする力を育みます。これは、将来、子供達が人として生きるために必要な能力となります。これをたくさん繰り返しながら、生きる方法や生きる力の基盤づくりができるのだと思います。それができるのが『幼児期のあそび』です。特に、戸外で友達と一緒に自然と関わりながらのあそびには、子供達が生きるための学びがたくさんあると思っています。自然は生きています。季節が動けば、木も花も生き物も変化します。空も空気も違います。生きているものを相手にすると、その時その時にできる体験とそこで生まれる“なぜ?”の答えが違ってきます。自然は多様だからです。それが子供達にとっては無性に面白い事なのです。遊びながら子供達はいろいろな発見に出会い、いろいろな感情や感性を生みます。知恵を働かせて考え自分達なりに答えを見出し、何回も試して確信や納得できるものを追及しようとします。そして、生きているものを相手にして試すうちには、危険な事に出くわす事もあるでしょう。怪我や共に遊ぶ仲間とのトラブルも生じるでしょう。でも、それは、危険やトラブルを自ら回避したり解決したりする力を身に付けるためには必要な事で、生きて行くために身を守る技を学んでいるという事なのです。まさに『生きるために遊んでいる』のです。幼稚園には、たくさんの木、水、草花と自然を見立てた小山や遊具があります。1学期、そんな中で遊んで学んだ子供達が2学期にはどんな成長を見せてくれるかが楽しみです。

子供達の“なぜ?”“なに?”“どうする?”“ほんとだ!”“なるほど”の経験が親子でたくさんできる夏休みの始まりです。ぜひ、時間を作って、自然と向き合って過ごしてみてください。何かを教えよう、育てようという気持ちではなく、先ずは一緒に楽しんでください。かつて自分もこんな事をして楽しかったなぁと思えていた事を……。しっかり遊んで五感を磨き育てる事は『生きる』に繋がって行くのだと思います。その学びを親子で実感出来たら、楽しいじゃあないですか。子供達と過ごして、もしその瞬間に出会えたらまた教えてくださいね。小さい間だけですよ。「お父さん一緒に遊ぼう!」「お母さん一緒にしよう!」って言ってくれるのは(笑)