ものは言い様 捉え様(2019年度5月)

 新年度が始まりました。暖かい春の日差しに誘われて早咲きだったチューリップが、新入園児達を明るく迎えてくれました。進級児達も新しい保育室で先生に迎えられ、少し緊張しながらも新鮮なスタートを切る事ができました。

 そんな中、年長組と年中組は、進級して間もなく桜がたくさん咲いている公園や土手に園外保育に出かけました。きれいに咲く桜を見たり匂いを嗅いだり、風に舞った花びらを集めたりして春を感じていたようでした。年長組の引率をした時の事です。その日の朝、お母さんとの離れ際に、必死で涙をこらえながら保育室に向かって行った年長組の男の子が、友達と手をつないで、公園の桜を楽しそうに見て回っているのを見つけ「○○君、今日、幼稚園に来て良かったね。楽しい?」と聞くと「うん。楽しい!」と笑って答えました。「朝、幼稚園に行くか行かないかを迷ってたら時間がもったいないよね。楽しい事をする時間が少なくなるから、さ~っとおいで。楽しい時間がもったいない。もったいない。」と笑いながらさり気なく…を装いその子に言うと「うん!わかった!もったいないね。」と言って笑ってくれました。「時間がもったいない」と言われ、楽しい事に気持ちを向ける事ができたようでした。

 また、年中組の引率をした時の事、走って転んでしまった女の子が、みんなに注目をされた事と痛かった事で、泣きそうになっていたところ「わぁ~、○○ちゃん、今のは早かったねぇ~。○○ちゃんは走るの早いんだね。そりゃ、転んじゃうよね。でも、転び方もカッコよかったよ。」と言うと、泣きそうだった顔が得意顔に変わり、ムクッと起きあがったのです。痛かった!恥ずかしかった!という気持ちが、ほめられた事でヒーロー気分に一転したのです。

そして園庭では、砂場のスコップを使って小川の傍の水たまりで「工事だ!工事だ!」と遊んでいた年中組の男の子、それを見ていた新入園児の男の子がスコップが欲しくなって「それ欲しい!」と、もぎ取ろうとしました。年中組の男の子は、平気で横取りしようとする新入園児さんに驚き、思わず「だめよ!これ僕が使ってたんだから!取らないで!」と怖い顔をして大声で言いました。新入園児の男の子は泣き出してしまいました。私は、年中組の子に、「○○君、ごめんね。この子、そのスコップだったら、○○君のように上手に工事ができる気がしたんだと思うよ。同じように上手にできるスコップがある場所を教えてあげてくれる?どれがいいか選んであげてくれる?」と言うと、「うん!わかった!おいで!」と砂場の道具入れに連れて行ってくれたのです。それからは、先輩気分でいろいろと教えてあげながら先輩後輩でふたりが仲良く遊びました。「そんなに言わないで、貸してあげてよ。」と言うより、優越感を与えられた事で逆に優しい気持ちになれたでしょうし、「それは、人が使っている物だから我慢しなさい」と言うより、優しくしてもらえた事で、先輩を尊敬したでしょう。NOの気持ちで言うのではなく、YESの目で子供達を捉えてあげる事が子供の心を救ってあげる事になるのではないかと思います。

 我が家では、二人の娘が就職をしたのをきっかけに、家族皆で携帯電話の機種変更をしました。私はよくわからないので何でも良かったのですが、娘達はそれぞれに欲しい機種があったらしく、これからは自分で支払うのだから…と高いスマートフォンにしました。特に下の娘はずっと前から研究して決めていたようで、家族の中で一番高い物を選びました。「そんなに高くなくていいんじゃないの?本当に払っていけるの?」とグチグチ言う私の言葉も聞き流し決めてしまいました。その日の夕食時の事です。下の娘が祖父に「おじいちゃん写真を撮ろう!新しい携帯電話を買ったんだよ」と言ってみんなで写真を撮ってくれました。祖父が「自分で買ったのかい?」と娘に聞くと「そうよ。前からこれに決めてたの。家族の中で一番高いのを買っちゃった。」と話していました。それを聞いて祖父は苦言を呈すどころか、娘の頭を何度もなでながら「でかした。でかした。」とほめてくれていました。これまで頑張って勉強をして就職をし、やっと高価なものでも自分で買えるようになったという事を娘と一緒に喜んでくれたのです。グチグチ言っていた私とは違う見方で娘を認めてくれたのです。娘は、「これから頑張って働くね。おじいちゃん、ずっと元気で応援していてよ。」と、意欲満々に語っていました。ものは捉え様です。子供達の突っ込まれたくない部分をNOの捉え方や言い方をすると、気持ちが前に向かなくなってしまうのです。ほんの少し角度をずらしてYESに近づいた捉え方や言い方をしたら、子供は違う角度から前向きになる力を出せるのです。

 子供達のやる気をどう引き出してあげるか、どういう言葉を選びどのタイミングでその言葉をかけてあげるかで、子供達の前向きになる気持ちが大きく変わってくるような気がします。“ものは言い様捉え様”──いい意味で、ちょっと焦点をずらして見てあげる…物事を正当化して捉えてみる……これも一つの大人の作戦?かもしれませんね(笑)。失礼、『手腕』と言わせていただきましょう。

さて、今年度も子供達とのバラエティーに富んだ生活を私も楽しみながら、子供達の世界の素晴らしさをここでお伝えできればと思っています。今年度も『葉子せんせいの部屋』にお付き合いいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。