そのエネルギーが能力になる(平成30年度7月)

雨の日、さつき組のテラスを通りがかると、ポッタンカラン ポッタンコロン カラン コロン ポッタンカラン と不思議な音?可愛い音?おもしろい音?が聞こえて来ます。雨の日にだけ聞こえる音色です。さつき組の子供達が先生と一緒に軒に落ちて来る雨だれの真下に大きめな空き缶を置いたのです。雨だれを受けて響くその音を聞きながら、梅雨の季節を楽しく感じています。

幼稚園では、6月に入ってプールあそびが始まりました。プールだけでなく、水道からホースを引っ張って来たり、水たまりでドロドロになって遊んだりしながら水と戯れています。幼稚園の小川は朝から子供達の絶好のあそび場になります。小川の中にいるザリガニ、鯉、アメンボ採りに必死になり、必ず何人かの子が「小川に落ちた~」とビショビショになっています。

そんな中、年長組の男の子S君が「葉子先生!来て!来て!あのね、A君ってね、小川のここを跳び越えられるんだよ!すごいんだよ!」と言って私を呼んでくれました。そこは、小川でも幅の広い部分です。S君にとっては飛び越えるには、勇気を要する幅だったのでしょう。「そうなの?すごいね!見てみたいなあ。ちょっと呼んで来てよ。」と言うと、S君は「うん!わかった!」と言ってその勇者A君を探しに行きました。しばらくして「呼んで来たよ。ほらA君、葉子先生に跳び越えて見せてあげてよ。」とふたりがやり取りをしていました。「見ててよ!見ててよ!」と勇者が跳ぶのを私に見せてくれました。A君にとってはどうってことない技だったようで、軽く跳び越えて見せてくれました。私を呼んでくれた男の子は「ねっ、ねっ、A君ってすごいでしょ。」と勇者を自慢していました。「すごいね!カッコいい!」「じゃあ、S君の得意技は何かな?」と聞くと、「僕はできないんだよ。」と笑いながらそう答えました。すると、A君がアスレチックを指差しました。きみは、アスレチックの高い所によじ登れるじゃないか!やってみろよ──と言わんばかりに、S君の背中を押しながらアスレチックに誘いました。少し照れながらS君は「葉子先生!見ててよ!」と言いながら、走って登る姿を見せてくれました。それを見守るA君は、どう?S君も凄いでしょと自慢そうに私を見ました。「凄いね!A君もS君も凄い!真剣な顔もカッコよかったよ!」と拍手をすると、ふたりはニコニコしながら向うへ走って行きました。

ふたりの中では、お互いにその力を認め合えているのでしょう。「キミってすごいね!」「きみだって凄いじゃん!」というお互いの力を知った上で認め合っている事を感じました。そして、それはお互いに自信が持てる事として各々を支えていく力となっているのです。

大人はつい、“凄い”と言える物差しを勝手に設定して、その子にとっての“凄い”を見落としてしまう事があります。他の子と比べて、“劣る劣らない”“出来る出来ない”を決めて“凄い凄くない”と評価してしまいがちです。純粋な子供達は、お互いに遊びながらその子の力を理解します。そして、周りにいる大人達が「○○君って凄いよね。」「○○ちゃんって○○よね。」等といつも、一人ひとりに個々の物差しをあてて見てあげていれば、自然に子供同士で認め合えるようになります。

20年以上も前に卒園したある男の子達の事を思い出します。とってもやんちゃですぐにカッとなっていつも喧嘩勃発の元をつくってしまうような男の子でした。でも、スポーツ万能で足も速く運動会やサッカー大会をしたら一目置かれる存在でした。私は、その力をクラスのみんなで認め合える雰囲気づくりに努めました。すると、その子を取り巻く子供達の関係に変化が現れました。少しずつその男の子はやんちゃなエネルギーを“友達を守る力”に変えて行きました。「○○くんのできない所は俺に任せて!俺が助けてやるから!」と、いい意味のリーダーになってくれてクラスの仲間達から頼られる存在になっていったのです。また、おとなしくてあまり外で遊ぶのが好きではなくて、何をしても自信なさそうに毎日を過ごしている男の子がいました。でも、その子には特技がありました。迷路を描けば抜群な力を発揮していました。すごく大きな紙にスタートからゴールまでを細かく細かく描いて友達を驚かせていました。その巧妙ぶりでは誰も彼には敵いませんでした。鉄道も好きで、日本中の駅や路線を知っていて、それを描かせれば大人顔負けでした。その子のために大きな紙を用意してあげると友達と一緒に何日もかけて迷路を完成させるあそびをしていました。クラスで迷路ブームになり、その事もクラスの仲間の中では認められて、描き方を教えてあげながら尊敬される存在となったのです。彼は、今、高速道路を守る仕事に就いて頑張っているらしいです。

子供達は皆それぞれにエネルギーを持っています。性格、特性、経験……その子持ち前のエネルギーです。周りの人達から、「あなたのそんな所が凄いと思うよ。素敵だと思うよ。」と光を当ててその力を認めてもらえたら、自信を持って“持ち前の力”を磨きます。それはいずれその子の“能力”になっていきます。小さなエネルギーでもその子にとっての大きな“能力”にしていくためには、個々に合った物差しをあててお互いに認め合える雰囲気が大切です。その雰囲気をつくる事も大人の大切な仕事ではないかと思うのです。