顔を思い浮かべて(平成29年度2月)

3学期を迎えた途端に寒波が押し寄せ、大雪の対応にあたふたした日本列島でしたが、幼稚園の子供達は園庭に積もった雪で雪合戦をしたり雪だるまを作ったり、アスレチックで雪滑りをしたりして雪と戯れて遊びました。春の訪れまでまだまだ寒さと雪を歓迎しながら子供達とこの冬を満喫したいと思います。

2学期が終わろうとしていた時、ある先生が「葉子先生!これ!見てください。○○君がくれたんです。」と言って首に巻いたマフラーを見せてくれました。“○○君”は、年中組の時にその先生が担任した男の子でした。そのマフラーの両端には色違いのボンボンまで付けてあって、とても可愛く編んでありました。「指編みがクラスで流行っていた頃に、一生懸命作っていたので、先生にも編んでほしいな~って言った事があって、その事を覚えてくれていたんです。私が知らないうちにコツコツと編んでくれていた事に感激です。私も忘れていたくらい前の事なのに…。もぉ~嬉しくて嬉しくて……。」と涙を浮かべながら話してくれました。

「今、編んでるからね」とか「作ってあげるよ」等という事はその間一言も言わずに、きっと、その先生に喜んでもらいたい一心でその男の子は編んでいたのでしょう。その時の先生の顔を思い浮かべながら…。そして先生は、手渡された時、男の子に何度も何度も「ありがとう!嬉しい!すご~い!ありがとう!」とお礼を言いました。そこには“ありがとう”だけではない大きな感動があった事でしょう。そして、男の子もまた、先生が心から喜んでくれている顔を見て先生よりも嬉しそうでした。

お正月には、たくさんの年賀状が家に届きました。30年も前に担任した教え子達や、そのご家族や私の懐かしい友達等、いろいろな立場や環境の中にいる人達が近況を知らせてくれ、私を気にかけてくださっている一言が添えられていました。便りを書く時には、必ず相手の事を思い浮かべて書きます。(どうされているかなぁ~)(懐かしんで読んでくださるかな?)とあれこれと想いを馳せながらしたためます。そして、届いた年賀状を見ても、元気な友達や教え子達の写真で見る姿に安心します。また、幼稚園に届いた子供達からの年賀状では、たどたどしい文字で一生懸命に『しょうがっこうはたのしいです』『ことしもがんばります』と書いてくれているのを読むと顔がほころびます。先生達の事を想い浮かべながら一生懸命に書いてくれた気持ちが嬉しいのです。手紙によって思い合いながら書いたり読んだりする時に心が通うような気がします。

夕食の支度をしながら、「美味しいって言って食べてくれるかな?」「今日は寒いから温かい物を作って食べさせてあげたら喜ぶかな?」「これ、あの子の大好物だからたくさん食べてくれるかな?」等と家族の喜ぶ顔が思い浮かびませんか?そして、そのご馳走を食べる時、子供達は、お母さんの想いを感じながら「お母さんのご飯はおいしいな」と言って嬉しそうに食べてくれるのです。その顔を見るだけで幸せな気持ちになります。

お父さんやお母さんが仕事をする時も、ふと家族の顔を思い「頑張ろう!」と奮起できる事があります。「お帰り!」と迎えてくれる家族の言葉の中には「お仕事ご苦労様」と言う気持ちと同時に、そこにまた仕事を頑張ってくれていたお父さんやお母さんの顔を思い浮かべているのです。

日本の歌に“♪母さんが、夜なべをして手ぶくろ編んでくれた……♪”という『かあさんの歌』があります。これは、文学の道を志し家出をした作者の元に、故郷のお母さんから送られて来た小包の中を見た時の気持ちや思い出を歌った歌だそうです。この切ないメロディーと歌詞に触れると、同じ場所で共に過ごしていなくても、相手を思い思われているという愛情が伝わります。

○○君が、先生のために一生懸命にマフラーを編んでくれたり、相手を思いながら手紙を書いたり、お父さんお母さんが毎日家族のためにご飯を作ったり仕事を頑張ったりする時の相手を思う気持ちと、マフラーや手紙を受け取った時や作ってもらったご飯を食べたり頑張って仕事をしてくれている姿を見たりする時に、(きっと、僕のために…私のためにしてくれたんだろうな)と相手を思う気持ち──する側もしてもらう側もお互いの顔を思い浮かべる。愛情を感じとるこうした経験を育ちの中で繰り返しできたら…相手の気持ちに気づき、人の事を考えられる思いやりのある子に育っていくように思います。相手の顔を思い浮かべる事は、その人の気持ちを探ったり想像したり寄り添ったりする事だと思います。愛情を向ける気持ちです。

「みんなと仲良く過ごしましょう」「人の事も考えましょう」「思いやりの気持ちをもちましょう」と言葉はたくさん並べられますが、その意味やそうするとどんな気持ちになり、どんな良い事があるのかを教えるのは言葉だけではできません。こうした人と人とのやりとりや経験の中で実感しながら、様々な感情が生まれ心が育っていきます。人は皆、誰とでも平和に気持ちよく生きていきたいと思っています。でもそれが、なかなか難しいのです。だからこそ!子供達には、親や家族、先生や友達との心のやりとりをたくさんさせてあげる事が大切です。そうしながら、周りの人達みんなで相思相愛になれる事を幸せだと思える大人になって欲しいと思います。

子は鎹(かすがい)(平成29年度1月)平成30年1月

あけましておめでとうございます。皆様におかれましては、良き新年をお迎えになられた事とお慶び申し上げます。毎年、新年を迎える度に“今年はどんな年にしようかな?”と考えます。自分自身の事もですが、きっと皆さん、一番に思われる事はご家族の幸せではないでしょうか?初詣でも、“家族みんなが元気で仲良く過ごせますように…”と手を合わされた事でしょう。どうかこの一年が皆様にとって希望に満ちた良い年になりますように……。

さて、もう昨年の事になってしまいましたが、12月に行われた『音楽発表会』では、たくさんの温かい視線を子供達に向けてくださりありがとうございました。子供達は、お家の方に観てもらい家に帰ってからいっぱい褒めてもらえた事で大きな自信を得た事と思います。きっと、3学期の勢いに繋がって行く事でしょう。その後、たくさんの感想をいただきました。お母さんだけではなくお父さんからの感想もあり、どんな気持ちでお家の方々が子供達を応援してくださっていたか、その姿を見て、子供達にどんな思いを馳せてくださっていたかが伺えました。

そんな中、一人の先生が、あるお母さんと話した事を教えてくれました。そのお母さんは、本番まで、我が子が一つの楽器を任されて本当にちゃんとできるのだろうかと心配で心配でたまらない気持ちでおられたようでした。私の方からも「○○君、毎日練習を頑張っておられるんですよ。とってもカッコいいんですよ。」と伝えても「ちゃんとやってくれるんでしょうかね~。想像がつかないんです。」と本番まで楽しみなような不安なような…そんな表情でした。その気持ちも凄くわかりました。親ってそうですよね。この目で見るまでは…と。きっと、本番では、ステージの我が子を祈るような気持ちで観てくださっていたと思います。音楽発表会が終わって、会場から帰られるそのお母さんの目は潤んでいたように見えました。そして、家に帰ってから発表会のビデオをご夫婦で何度も観られたそうです。今回の発表会だけではなく、これまでのお兄ちゃんの頃から今年の分まで全てのビデオを観られたそうです。そして、我が子達がどんなに成長したかをご夫婦で感じられたそうです。

こんな風に、子供の色々な生活や経験を通して、夫婦が、家族が、一つの同じ気持ちになれる事は、とても素敵な事だと思います。きっと、お兄ちゃんからの何年分もの音楽発表会のビデオを観ながら、「私達夫婦で、子供達に向けてきた気持ちや子育ては、いまの所順調だよね。本当に成長してくれて嬉しいね。」と、これまでの子育てを振り返る事ができたのではないかと思います。そして、「これからも、成長していく子供達を私達夫婦で見守って行こうね」と気持ちを再確認されたと思います。

『子は鎹(かすがい)』ということわざがあります。鎹というのは、木材と木材を繋ぎ合わせるために打ち付ける大きな釘です。この鎹があれば、二つの木材は繋がれて丈夫な建物をつくる事が出来ます。

この木材は“夫婦”であったり“家族”であったり、“親戚”であったり……それはいろいろです。とにかく鎹となる子供はそれらの関係を強く深く繋ぎ合わせてくれるのです。『絆』をつくってくれるのです。不仲である物を繋ぐというのではなく、子供達が経験する様々な事を夫婦や家族や親戚で喜んだり悲しみを分かち合ったり悩んだりする気持ちを共有しながら、あらためて家族の在り方や幸せを確認でき、子供がそこにいる事で家族の気持ちが一つになる幸せを感じる事ができるのです。

これから子供達は、大きくなるにつれてどんどん新しい事を経験し、違う環境の中に飛び込んで行きます。実際に我が子が入園した事によって、お父さんお母さんの世界は広がり、子供がいなかった頃と今現在では、生活や環境や人との付き合い等に違いがあると思います。大変な事もあるかもしれませんが、子供達のおかげで、喜んだり怒ったり哀しんだり楽しんだりする事も増えて、その度に親として色々と考え学びます。実は、成長しているのは子供だけではなく、親も一緒に成長させてもらえているのです。子供を介して…子供の生活を介して…幸せをかみしめる事ができるのはこの上ない喜びだと思います。いろいろな事があって、人生は彩られるのだと思いますが、私達の人生を潤いある人生にしてくれている要因の一つは子供の存在そのものだと私は思っています。忙しい子育ての中ではなかなかその事を実感できないかもしれませんが、 そう考えると子供に感謝しないといけませんね。そして、これからも そんな子供達を大切にみんなで育てて行こう。──そういう気持ちになれる事が『子は鎹』の意味でもあるのではないかと思うのです。

参観日や行事の度に先生達は「お子さんの成長を観ていただけたのではないでしょうか?」と聞く事があります。成長を観るだけではなく、その成長をご家族みなさんで共有し、その子供の成長の積み重ねが、 その子を一人の人として確立させていく事と、家族の幸せを紡いでいくという事を感じて欲しいと思っています。

さて、三学期が始まりました。一年の最終学期、締めくくりです。 これまでの成長を保護者の皆様と信頼の下に共に喜び合い、次に繋げて行く努力をして参ります。『子は鎹』──たくさんの子供達は、幼稚園と保護者の皆様をも繋ぎ合わせてくれています。