あそびは学び(平成29年度11月)

 「せんせーい!見て!」と、広げた小さな手の平からかわいいドングリが。「せんせーい!あげる。」と、差し出してくれた手には赤く色づいたアメリカンフーの木の葉。──子供達は毎年この時季になると、園庭で秋の宝物を探して遊びます。これから秋が深まるにつれて、これらの宝物が園庭中に落ちて来ます。子供達にとって魅力いっぱいの季節がやってきました。

 土曜日のプレイルームでの出来事です。幼稚園の小川の周りには実のなる木が幾つか植えてあります。今は、かりんが実をつけ、時々熟して落ちています。子供達は、いい香りのするこの実に興味津々で、これをめぐって取り合いになる程です。その日も、ある男の子が木に登ったり枝を引っ張ったりして、この実を採ろうとしていました。一人がそうすると、それを見ていた子供達が真似をして無茶苦茶な事をし始めます。そこにいた先生が「木に登らなくても、あの実を採る方法があるんだよ。」と声をかけました。そして、その先生は幼稚園にあった廃材の壁クロスの巻き芯を持って来ました。120㎝程ある長さの芯の先を5㎝程カッターナイフで切り込みを入れてくれていました。それを差し出された男の子は、初めて見たので“こんなものでどうやって?”と先生がやって見せてくれる様子を真剣に見つめます。カッターナイフで切り込んだ所に実のついた枝を刺し込み、棒をグルっとひねってもぎ取るのです。「本当はもっと長い竹でするんだけどね。これでも採れるんだよ。やってごらん。」と男の子に渡しました。長いといっても120㎝位の物ですから、高い所に生っている実には届きません。そこで、棒を持って高さ1m程の添え木に登り、先生から教えてもらったようにその実を採り始めました。切り込みになかなか上手く枝が差し込めませんでしたが、何度も何度もやっていくうちにコツを覚え何個かをもぎ取ったり落としたりする事ができました。それでも、そう簡単にはいかなくて真剣でした。真剣になる程、男の子は無口になり、登った添え木を踏ん張る靴の先にも力が入っていました。長い棒を持って高い所でもっと高い所の実を採るのはなかなかのものです。先生が「バランスをとるのが上手だね。難しいでしょ。」と声をかけると、男の子は棒を横に持ち、「バランスって簡単よ。あのね、こっちに物がある時には棒の真ん中よりこっちを短く持つんだよ。そうしたらバランスがとれるよ。」と言うのです。先生はその言葉にびっくりしていました。「葉子先生、これって、まさしく天秤の理屈ですよね。」と。男の子は、物理学として学んだ事を活用しているのではなくて、遊びながら上手くバランスをとる方法を模索しているうちに感覚的にあみ出した学びなのです。学ぶつもりだったわけではなく、あそびの中から発見した事が学びになっただけなのです。

 その男の子は、普段から身体をいっぱい使って遊びます。そして、いつも真剣です。遊ぶ時も、頑張る時も、そして……喧嘩をする時も…常に一生懸命です。身体をいっぱい使って遊ぶので、擦り傷もたくさんあります。だけど、大怪我にはなりません。真剣だからです。そんな彼を見ている先生も「危ないよ。」とか「気を付けて。」とブレーキになる言葉をかけず、真剣に見守ります。きっと、彼ならできると信じているからです。その見守りが彼を真剣なあそびに向かわせる安心感となっているのです。この見守ってくれる先生や、目の前にある木々がこの男の子にとって恵まれた環境だったのです。

 三次中央幼稚園の理事長は語ります、『子供達はあそびの天才だ』と。『子供達はあそびを通して色々な事を学び身につけていく。これを直接体験と言い、この直接体験の豊富さが子供の発達に大きく関わって来る。友達と仲良く遊びながら仲良くする楽しさを知ったり、喧嘩をしながら相手の気持ちを考え、怪我をしながら安全に生活する方法を身につけて行く。子供が興味を持って遊んでいる時に子供自ら知らず知らずのうちに学ぶのだ。』…と。私達は、この理事長の理念が幼稚園の環境に映し出されている事を子供達を通して実感するのです。

 最近言わなくなりましたが、“ガキ大将”こそ、たくさんの実体験の中から学びの元となる物を学んでいるのです。それは、机上で学んだものより心と頭に残る確実な学びになっています。そして、その学びは更なる学びに応用を効かせて深めていく事が出来るはずです。テキストを与えるのではなく、幼児期には『あそび』を…『あそびの環境』を与えてあげてください。幼稚園の環境には、理事長のこれからの時代を生きて行く子供達を想う “願い”があるのです。

 好奇心をくすぐられる環境の中で夢中で遊びながら、チャレンジする勇気と試行錯誤を繰り返し工夫する力と探求心が育ちます。そして、なるほど!そうだったのか!と発見したり確認したりし、考える事やわかる事が楽しくなってきます。こうして学ぶためのベースが出来ます。子供達にとってはただ遊んでいるだけでも、その中に“学び”がたくさんあるのです。ここで、“あそび”が“学び”になるかどうかは、そこに素敵な環境が用意されているかどうかとそれを見守る大人達がどのような意識でいるかが大きな決め手になります。

 先日、来年度用の幼稚園案内のパンフレットをお渡ししました。ここには、私達が三次中央幼稚園で育つ子供達への想いが書かれています。ぜひ、あらためてページをめくってみてください。