お誕生日(平成29年度10月)

先日の運動会では、子供達の一生懸命頑張る姿を応援いただきありがとうございました。初めて運動会を経験する満3歳児や年少組の子供達にとっては、たくさんのお客様を目の前に戸惑いながらも観てもらっているという事が嬉しそうでした。年中組や年長組の子供達にとっては、頑張る中にも“こんな自分を観てもらいたい!”という意志が感じられた頼もしい姿でした。特に年長組の子供達を見ていると、幼稚園に入園してわずか3~4年の間なのに、年を重ねる事や経験を積む事の意味の大きさをあらためて感じました。この運動会は、頑張った結果ではありますが、今後に繋がって行くものだと思っています。これからの子供達がこの経験で自分の中に芽生えた力をいろいろな場面で発揮してくれる事を期待していたいと思います。

幼稚園の行事は、子供達の心や身体を成長させるきっかけの一つでもあります。成長のきっかけ……と言えば、少し前に耳鼻科を受診した時の事、待合室で待っていると、隣に4歳くらいの男の子を連れたお母さんが座って話をされていました。どうやらその男の子は何度か通院しているようで、耳の治療が痛くて受診を拒んでいたようでした。「痛くない、痛くない。大丈夫だから頑張ろうね。ママが抱っこしていてあげるから。」と言いなだめておられました。男の子は泣き声で「でも嫌だ!我慢できない!」とぐずっていました。

そのうち、「○○さん!中へどうぞ!」と呼ばれ、診察室に入って行かれました。私は、待合室でも泣いていたのだから、きっとこれから更に大きな泣き声が聞こえるはずだとかわいそうに思っていました。先ずお医者さんの声が聞こえました。「○○君、お誕生日だったね。おめでとう!4歳おめでとう!お兄ちゃんになったんだね。かっこいいねぇ。」と……。お医者さんの大きな声に看護師さんの「えーっ!そうなの?おめでとう!!」という声が重なりました。すると男の子の声は聞こえませんでしたが、お母さんが「よかったね。先生がおめでとうだって。ありがとうって言わなきゃね。」と男の子に語り掛けておられたようでした。それから「ちょっと、お耳を見せてね。お耳もお兄ちゃんになってるかな?」というお医者さんの声が聞こえてから治療が始まったようでした。大泣きするだろうと思っていた男の子は全く泣かずに、しばらくして、お母さんに手を引かれながら診察室から出てきました。そして、お母さんを見上げて、「ぼく、お兄ちゃんだった?泣かなかったよ。」と誇らしげに言いました。お母さんは、「そうだね。強かったよ。4歳になったもんね。」と母子共々安心した顔で嬉しそうに帰って行かれました。

 その男の子にとって「お誕生日おめでとう!」と言ってもらった事は、痛いから嫌だ!という気持ちを振り切るきっかけになったのです。そうだ!僕はもう4歳のお兄ちゃんになったんだ!と思って不思議な力が湧いて来たのです。

子供にとっての一年は目覚ましい変化があります。目に見えて心身共に大きくなった事を実感します。だからお誕生日は、とっても重要な記念日なのです。4歳になったから…5歳、6歳になったから…と、それを区切りにいろいろな事に挑戦しようとしたり、自信を持ったりしてグッと成長します。そして、それを認めてくれたり一緒に喜んでくれる人がいれば尚更その気になるものです。「おめでとう」の言葉と一緒に「大きくなったね。あなたが大きくなってくれている事が嬉しいよ。」と言ってあげてください。

幼稚園では、全園児のお誕生日を先生達皆が知って、その日には「おめでとう!」と声をかけています。皆の喜びでもあるからです。“今日からの僕、私は昨日までの自分とは少し違うぞ!”と大きくなる事に張り切ってくれるようにと願っているからです。

お誕生日を迎え、満3歳児クラスに入園したある女の子が、「あのね、私、お誕生日になったから幼稚園に入ったの。ママがお姉ちゃんだよっていったの。」と嬉しそうに話してくれました。3歳のお誕生日をきっかけに、幼稚園に入園して初めてママと離れた時間を友達や先生と過ごすという大きな変化があった事をわずか3歳にして喜んでいるのです。それが大きくなったという自信になっているのです。毎年迎えるお誕生日を大切に祝ってあげてください。

お誕生日だから何か好きな物を買ってあげる。どこかへ連れて行ってあげる──それも良いですが、お誕生日をきっかけに自分が生まれて来た事がどんなに周りの人達を幸せにしているか、何故これからも元気で大きくならなくちゃいけないのかを感じさせてあげてください。そして、「生まれて来てくれてありがとう……」の気持ちを伝えてあげてください。

 ……と書いている私も今月誕生日を迎えました。若かりし頃の私も、おめでとうと言ってもらって大人になっていく喜びを感じていましたが、最近は、自分の年齢に自分で驚いてしまう…というため息が出そうな気持ちになってしまいます。こうなったら!この年齢にならないとできない事や感じられない事を 子供達を見習って、前向きに自分の喜びや成長に結び付けて行きたいと思います。(これは決して、あきらめや開き直りではありませんよ。純粋に……笑.)

『孫は来て良し、来て良し……』(平成29年度9月)

今日から2学期。今年は、猛暑と長雨のニュースが毎日繰り返し流れてきた夏休みでした。そんな夏休みを子供達はどのように過ごしたのでしょうか?しばらくの間、楽しかった夏の思い出を嬉しそうに話してくれる事でしょう。

さて、夏休みには、お父さんやお母さんの故郷に行って過ごされたご家族もたくさんおられるのではないでしょうか?夏休みの間も元気に通っていた預かり保育(プレイルーム)の子供達も、お盆前には「今日からおじいちゃんとおばあちゃん家に行くんだよ~。」「泊まるんだよ。」と言う子がたくさんいました。「そうなの?じゃあ、おじいちゃんもおばあちゃんも楽しみに待ってくださっているだろうね。」と言うと、ある子は「うん!大ご馳走作ってくれるって。花火もするよ。」と、嬉しそうに話してくれました。その話を聞いただけで、子供達が大好きなおじいちゃんやおばあちゃんに会う事を……また、おじいちゃんおばあちゃんも、あれこれ迎える支度をしながら可愛い孫に久々に会えるのを楽しみにされている事が分かりました。

私の義姉夫婦には孫がいます。普段はふたりきりの家ですが、今年のお盆は次男の家族がその孫達を連れて帰って来ました。孫は2歳と5歳の男の子です。お盆前に、義兄が「これから竹を切りに行って、お盆にはそうめん流しをしてやろうと思っているんだ。」と話していました。次男家族が帰省する日には、料理の買い出しに行ったり、切って来た竹を割って節を削ったりして……。猛暑の中、考えただけでも大変そうに思えました。しかし、義姉も義兄も、大変!と言いながらもあれこれと楽しませる準備をして嬉しそうでした。きっと、孫達は大喜びでお盆の数日をおじいちゃんとおばあちゃんと過ごしたでしょう。次の日、その次男家族が、我が家にも来てくれました。義父にとってその家族は孫とひ孫になります。87歳の義父は、できる限りの事をして迎えてやろうと孫夫婦とひ孫用のジュースやお菓子やコップ等を年老いた身体をゆっくり動かしながら準備していました。

「こんにちは~!!」とやって来た孫夫婦とひ孫を迎える義父は、いつもより元気で嬉しそうで、ゴクゴクとジュースを飲むひ孫を見ているその目は、とても柔らかく優しい目でした。庭に出ていろいろな物を触って洋服を汚したり濡らしたりしているのを気にかけながらも、ひ孫が遊ぶ姿を喜んで見ていました。帰る時には車が見えなくなるまで手を振って見送っていました。

孫というものは本当に可愛いのでしょう。自分の子供とは違う可愛さがあるとよく言います。育てる責任がないから……とも言われますが、おじいちゃんやおばあちゃんは、育てる責任はなくても“見守る責任”を感じておられるように思います。ただ可愛いだけではなく、孫の幸せに直接口を出したり手を出したりできない分、見守る気持ちはもしかすると親より大きいかもしれません。“育てる責任”を持つ親と“見守る責任”を感じながら接してくださるおじいちゃんおばあちゃんが子供達についていれば、子育ても百人力です。子供達はどちらの愛情もちゃんと感じています。子供達にはどちらの愛情も必要なのです。厳しさも優しさも、叱られる事も甘える事も、心と身体を抱きしめてもらう事も……。これを全部誰かひとりが担うのは大変です。時々おじいちゃんおばあちゃんの温かさに触れさせてあげる時間をもつ事は、誰にとっても良い事だと思います。お父さんお母さんとおじいちゃんおばあちゃんの愛情をバランスよく受けた子供は幸せです。おじいちゃんやおばあちゃんでないとできない事がきっとあるのです。

次男家族が帰った後、義兄が「あの子達がこっちに帰って来たら、まぁ大変!そこら中走り回ってひっちゃかめっちゃか。いろんな事をしてくれるからねぇ。」と笑いながら言っていました。『孫は来て良し帰って良し』と言いますが、その大変さでさえ嬉しくて可愛くてたまらなさそうでした。むしろ寂し気に見えました。

うちの娘達も、お盆には帰省して数日間一緒に過ごしました。義父に「子供達がお盆には帰って来ますよ。」と教えてあげると、高齢のせいか、病院通いが多くなり気弱になっていた義父が笑って、「そうか、じゃあ、トマトはギリギリまで採らずに置いといてやろう。よく熟れるまで…。」とすぐ言っていました。孫達に美味しいトマトを食べさせてやりたかったからでしょう。おじいちゃんにできる最高のご馳走です。娘達を駅まで迎えに行き、家に帰ると玄関先に真っ赤に熟れたトマトがたくさん置いてありました。おじいちゃんの「おかえり」の気持ちが娘達にも伝わりました。おじいちゃんとたっぷり過ごした数日後、下宿先に戻って行く娘達が「おじいちゃん、また帰ってくるからね。元気にしててよ。」と声をかけると、義父は涙をこぼして「はい。ありがとう。また帰っておいでや。頑張り過ぎないように……丁度いいくらいに頑張って…。元気で…。」と返していました。“丁度いいくらいに……”このおじいちゃんの言葉に子供達はどんなに救われる思いがしたでしょう。頑張っている子供達をホッと一息つかせてくれる──これが、おじいちゃんおばあちゃんの“見守る愛情”だと感じます。

娘達が帰った後、おじいちゃんは「何べんでも…何べんでも帰っておいで……」と静かにつぶやいていました。

『孫は来て良し、来て良し……』なのです。