憧れ(平成26年度10月)

初夏の方が夏本番よりも暑く、雨の多かった夏休み、そして夏休みが終わってからのしばらくの暑さには、地球で一体何が起きているのだろう?と不安になるようでした。ここに来てやっとあたりまえの秋の気候になったような気がしています。暑い日はあっても、その日差しはとても柔らかく、稲穂の周りをトンボたちが楽し気に飛びまわる様子にほっとさせられます。

幼稚園では秋季大運動会を目前に、たくさんの保護者の皆様の応援をいただきながら、子供達がこれまでの頑張りの成果や成長ぶりを発揮してくれる事を楽しみにしているところです。

さて、運動会に向けて取り組み始めたのは、さくら組では6月からでした。特に鼓隊演奏の指導には早目に取りかかります。太鼓やシンバルや指揮棒、ひるがえるカラーガードは開園当初からの大先輩たちが毎年見事に演じてきたものです。それを身につけ、フォーメーションを組んで演奏する姿は後輩である年中組・年少組・満3歳児組の子供達の憧れです。それらを手にした年長組の子供達は、しばらくの間は室内で指導を受け、ほぼ一曲が通せるくらいになった頃に園庭に出て練習をしました。その時の華やかさとかっこよさには感動します。そして、いつも鼓隊演奏の練習時間になると、他の学年の子供達が集まって見学をします。砂あそびやアスレチックで遊んでいる子供達も身体を止めて見入ります。何度も見学をしたためか、先日は、満3歳児組の小さな子供達が新聞紙でカラーガードを真似て作り、行進ごっこ(?)をして遊んでいました。指揮者の真似をする子も現れます。その子達は、かっこいい年長組のお兄ちゃんお姉ちゃんの姿に憧れているのです。年長組の子供達にとっても数年前には憧れの鼓隊演奏だったのです。それだけではありません。年長組の女の子が華麗にバトンをまわすお遊戯や、衣装を身にまとって裸足で勇ましく演じる男の子の踊りにも、それら全てが後輩たちの憧れです。満3歳児は年少組にも…年少組は年中組に……。“憧れ”は“目標”や“尊敬”に、そして、“憧れられる”事は“自信”や“責任”につながります。観てもらっているだけで、どこかしら得意顔で張り切っているのが手にとるようにわかります。そこで、先生達が「わぁ!!年少組や年中組のお友達が、凄いねって観てくれているよ!!頑張ろう!!」と声をかけてやれば、俄然やる気が増してくるのです。“あなたたちに憧れている人が、こんなにたくさんいるよ”と伝えてあげるのです。

家庭の中でも、兄弟姉妹の関係の上で、そんな事が必ずあると思います。人生を先に歩いているのですから、上の子は多かれ少なかれ年下の子より色々な経験を先にしています。どんな経験でも、それはその子を大きくしてくれているはずです。だから、しっかりと「お兄ちゃんお姉ちゃんって凄いね。」と下の子に“憧れ”の気持ちを抱かせて、上の子にはそれを “自信”と“責任”に繋げてあげてほしいと思います。そして、下の子には「あなたもいつかそうできるようになるよ。」と話し、目標にして自分の力を出そうとする気持ちを誘うのです。

「お兄ちゃんお姉ちゃんだから」といろんなプレッシャーを与え、ついつい我慢させて上の子は気持ちの持って行き場がなくて辛い想いをする──という兄弟姉妹関係の上での悩みをよく聞きます。いつも、“憧れる気持ち”“憧れられる気持ち”のどちらもを上手く伝え合っていれば、またその仲介役にお父さんやお母さんがなってあげられたら、大きな心の怪我にはならないような気がするのです。むしろ、とてもいい関係ができると思うのです。何故なら、そこには“目標”“尊敬”“自信”“責任”という気持ちが宿っているのですから…。尊敬していてくれる相手から我慢させられる事が生じたとしても、それが辛い事にはならないのです。それに応えようと責任感に変わるのです。この関係は何よりの我慢のご褒美ではないでしょうか。

幼稚園でも家庭でも、縦の関係の中で育てたい事があります。園全体で行う大きな行事にはそんな感情の芽生えのねらいがあります。それぞれの学年の子供達が練習をしたり、活動をしたりしている姿を傍で見て得る感情はお互いを成長させてくれます。そして、そこには子供達へのサポーターが必要なのです。サポーターはお家の人達であったり先生達であったりします。そのサポートにより、子供達は賞賛を受けその後の意欲や発揮しようとする力のスイッチが入ります。

 さあ!!いよいよ明後日は三次中央幼稚園の秋季大運動会です。

子供達はこれまでに色々な事を頑張ってきました。運動会のお披露目としては結果の一日ですが、そこで培った心の成長は、これから先、遥か遠くでまだ見えない人生の結果が出るまで繋がるものです。あくまでも通過点です。これからも何度かある通過点を大切に見守り、いいサポーターでいてあげてください。きっと、トラック内で演じたり競技したりする子供達の耳にもその声援は届き、心に響きます。たくさんの応援をよろしくお願いします。

秋の一日が子供達にとっては勿論の事、ご家族みなさんにとって…そして、私達三次中央幼稚園にとっても、大きな成長と素晴らしいものになりますように…と願いながらお届けします。

ルーツ(平成26年度9月)

今年は雨の多い夏休みでした。特に広島市では20日未明からの集中豪雨により大変な災害が発生しました。あまりにも近い場所での災害に、ニュース等を見ながら心配された方もたくさんおられるのではないでしょうか?幼い子供達を含む多くの命が犠牲になった被害の大きさに胸を締め付けられるような思いがします。心よりお見舞い申し上げ、一日も早く日常の生活が取り戻せますようにお祈り申し上げます。

さて、この長かった夏休み、ご家庭では色々な思い出をつくられた事と思います。子供達から色々な話が聞ける事を楽しみに2学期を迎えました。よく考えてみれば、私が、家族で夏休みを楽しんだ……と思えたのは、子供達が中学生になる前までだったような気がします。その頃は、忙しい中でも、家族旅行に出かけたり、一緒にいる時間の流れをいつもよりゆっくりと感じながら楽しい夏を過ごしていました。でも、子供達が大きくなるにつれて、勉強や部活が忙しくなって来たりそれぞれに予定があったりで、なかなか家族皆が揃う事がなくなってきたのです。長女が大学生になってからは、そんな楽しい夏休みが、増々、遠い昔のような気がしています。

しかし、そんな娘達も、お盆には家にいて親戚を迎えたり、行ったりして賑やかに過ごしました。お墓参りも大切な事だと思ってくれていて、一緒にお墓に線香やろうそくをたむけ手を合わせました。少し前までは、ただ手を合わせてお参りするだけだった娘達も、ここ数年は率先してお参りするまでの準備を手伝ってくれるようになりました。そんな時、墓石を見ながら、「ねえ、この名前の人は誰?」「おじいちゃんにとってどんな関係の人?」また、「どうして、田房って書いてないお墓にもお参りするの?」「どうして亡くなったの?」等と、お墓を見渡しながら色々と質問をして来ました。幼い頃にも何度か教えた事がありました。一生懸命聞いてはいましたが、幼くてよくわかっていなかったのか、あまり覚えていなかったようでした。今年は、今までより真剣だったので、おじいちゃんが丁寧に教えてくれました。「この人は、おじいさんのおじいさん。人を集めて楽しむ事が好きな人だったよ。こっちがおばあさんで百歳まで生きて元気な人だった。優しい優しい人で、かなり年をとってからでもお父さんをおんぶして子守りをしてくださったんだよ。」「この人は……。この人は……。」と、どんな繋がりのある人か、その人がどんな仕事をしていて、どんな人だったのかというおじいちゃんの話に娘達はじっと聞き入っていました。その中には、戦争の話や生きるために必死だった頃の昔の苦労話も含まれていて、感慨深かったようでした。「私達の知らない過去の話だね。仏間の写真を見たら色々と想像するね。この人達がいなかったら、おじいちゃんはおじいちゃんじゃあなかったんだよね。お父さんだって生まれて来なかったし、私達もここにはいないんだね。不思議な気分!!」と姉妹二人で顔を見合わせていました。亡くなった中には、“一才”や“二才”と墓石に刻まれてあるのを見て、昔は、元気で生きていく事がどんなに大変な事だったかという事も話してもらっていました。

そんな話を聞いて、どんな事を感じてくれたでしょうか?普段、私達の知り得ない我が家の歴史を知り、ご先祖に感謝の気持ちを持ってくれたと思います。そんな話を聞いてからのお参りは特別な想いで手を合わせた事でしょう。

人には誰にでも、その人のルーツがあります。幼い子供達にも、その子を取り巻くたくさんの人達の存在をわかるように話し、意識させてあげてください。大切な人の繋がりを感じてくれるでしょう。今月は“敬老の日”もあります。例えば、おじいちゃんやおばあちゃんは自分にとってどんな繋がりの人なのか、お父さんやお母さんとの思い出話。それから、お父さんお母さんが結婚した時の話等をしてあげれば、興味をもって聞いてくれると思います。まだ幼いうちは、その時に聞いても十分には理解できないでしょうし、一時的な感動にしかならないかもしれませんが、その時だけでも、自分が生まれてきた事は素晴らしい事なのだと……、色々な歴史があって今の皆の存在がある……、この“不思議”に何となく嬉しい気持ちになる事は大切な事だと思います。子供達はこれから先、自分の人生を自ら切り拓いて生きて行かなくてはなりません。自分の人生は自分のもの…されど、たくさんの人やその歴史の“おかげ”である──と心のどこかに置いて生きて行って欲しいと思うのです。

昔があって今があるという事を知り、その事を良い力にし、今自分が生きている意味やありがたさを感じながら、家族を大切にする事や、自分自身の事も大切にして生きて行こうと思ってくれたなら嬉しいと思います。

私も、実家の本家のお墓参りをした時に、娘の質問に答えながら、祖父母・曾祖父母の事を思い出していました。私もまた父から、父が幼かった頃の事や、父が祖父から聞かされていた昔の話を聞かせてもらいました。懐かしさと共に、忘れかけていた感謝の気持ちが起こったり、これからも一生懸命に生きて行かないといけないな…とあらためて思ったりしました。

自分の『ルーツ』をたどっていけば“自分”が見えてくるようです。