最後の運動会(平成26年度6月)

来月から衣がえ──月曜日から子供達は、爽やかな夏用の制服を着て登園します。新入園児達は、少し長めの丈で初々しく、進級児達は、着慣れた夏服に余裕を感じます。年長組ともなると、随分丈が短くなっていて、入園してからこれまでどんなに大きくなったかをうかがい知る事ができます。日々の生活の中では、その成長になかなか気が付かないものですが、こんな事からも、変わり行く季節と共に、心も身体も確実に成長している事を実感し、思わず感慨深く目を細めてしまいます。

さて、5月下旬の土曜日・日曜日には、あちらこちらで運動会が行われたようです。幼稚園にも、進学予定先の各小学校から年長組の子供達に、運動会の案内が届き、参加できることをとても楽しみにしていたようです。運動会に参加した翌日には、小学校の広い校庭で、かけっこをした事を担任の先生に一生懸命報告していました。

来年の4月になって、それぞれにその小学校に入学することを楽しみにできたらいいなと思うと同時に、すでに小学校に通っている卒園児達も、きっと頑張ったのだろうなと、その姿を想像していました。

娘が通う高校も、日曜日に体育祭が行われました。娘は、運動が大好きで、多分、“体育祭”は、数ある中で最も好きな行事だと思います。実に生き生きとどの競技も手を抜くことなく頑張るので、その姿が観たくて、親の私達も毎年体育祭を楽しみにしています。高校生ともなると親とは別に教室で昼食を食べる生徒が多いようですが、我が家は必ず行楽弁当をみんなで囲み午前の部の話をしながら昼食を一緒に食べます。友達の家族も一緒ににぎやかにいただきます。毎年そうしてきましたが、その娘も高校3年生ですので、今年が最後になりました。

体育祭前日、お弁当の下ごしらえをしていると、「お母さん、これ、プログラムよ。私の出場する種目に順番や位置を書いておいたからきっと探してね。だってね、お母さん、これがお母さん達に観てもらえる人生最後の体育祭よ。絶対!来てね。」と言って来ました。きっと、彼女なりに今年の体育祭には思い入れがあったのでしょう。高校生にもなって、そう言ってくれる娘が可愛くて、大好物のおかず作りにも力が入りました。

そして、当日。言っていただけあって、なるほど彼女はとてもいい顔で頑張っていました。先生やクラスやクラブの仲間たちと大声を出し合って競技する姿を見て何だか込み上げてくるものがありました。そして、閉会式で校歌を歌う姿を見ながら、幼稚園の時からこれまでの運動会と体育祭を思い出していました。その時その時の娘達の緊張した顔や喜ぶ顔、感動etc.…それらがたくさんたくさん頭の中を廻りました。

親はいつも、我が子が一生懸命頑張っている姿や楽しそうな笑顔が観たいものです。持てる力を無心に発揮しようとする我が子の姿、そんな生き生きとした姿に安心したり、元気をもらったり、順調な成長に喜びを感じたりするのです。運動会に限らず、親が子供達と一緒に笑い一緒に泣き、共通の思い出をつくる事ができるのも、その子の長い人生の内のほんのわずかな時期だけです。この間にしか得ることができない感動や喜びの一瞬一瞬をどうか大切にしてください。私も、これまで毎日毎日の生活の忙しさで毎年繰り返される我が子達の様々な学校行事にこんな思いをはせる事もなかったのですが、娘から言われた『お母さん達に観てもらえる人生最後の体育祭』という言葉にハッとしたのです。いつまでも一緒にいられるわけではないのです。いつかは、親とは違う場所でそれぞれに生活することになり、同じ感動を一緒に味わい共有するという事がなかなかできなくなって来ることを実感しました。そう思うと少し寂しくなってきました。

私達親は、子供達を通して、世界を広げてもらえています。子供がいなかったらできなかったママ友、行くこともなかっただろう場所、味わうこともなかった喜びや悲しみ、感動──。こんなふうに子供達は、私達大人の人生に“潤い”と“幸せ”を与えてくれている事にあらためて気付かされました。

年少組の時、可愛いミニーちゃんに扮してお遊戯をして可愛かった事、運動会の朝、熱が出て坐薬を入れて頑張った時の事、孫達の運動会には必ずおばあちゃんが応援に来てくれていた小学校の運動会、そして、勝負を賭けて真剣に走りきった中学・高校の体育祭──その一瞬一瞬の感動が一度に思い起こされた体育祭でした。

幼稚園では、これからたくさんの楽しい園生活、幼稚園行事が待っています。先日も、保育参観日でお子さんの様子を観ていただいたばかりです。こんな行事もお子さんと一緒に楽しみながら、その時その時の感動を共有し、思い出を大切に重ねて行って欲しいと思います。

体育祭が終わった夜、学校から帰宅した娘が、洗い物をしていた私に「お母さん、今までおいしいお弁当を持って応援に来てくれてありがとう。」と言ってくれました。こうして、“人生最後の運動会”は、娘からの感謝の言葉で締めくくられました。