おてがみごっこ(平成24年度2月)平成25年2月

新しい年を迎え、はや1ヵ月が経ちました。幼稚園での一年も残すところあと2ヵ月となりました。この頃になるといつも卒園や入学・入園の事を思い、春が近づいて来る事が寂しかったり待ち遠しかったり…複雑な気持ちになります。この2ヵ月の時間を大切に過ごしたいと思います。

幼稚園では3学期になり、クラスで色々なあそびが流行っています。お正月にお家の人とカルタで遊んだのでしょうか?カルタ取りが前より上手になっていたり、たこ揚げをしたり、すごろくで遊んだりしています。先日の参観日にも“お正月あそび”をテーマに、各クラスでは、カルタとり大会や福笑いや文字あそびをしました。幼稚園でするそれらには、意味を持たせています。カルタをとりながら文字に興味を持ち、その文字を使えば気持ちを伝え合う事ができるという事を知ります。すごろくの数字を見てコマを進めながら数の概念を知ります。ここから、“学びたい!”という気持ちが沸き起こってくるのです。

もうひとつ、幼稚園で流行っているあそびがあります。“お手紙ごっこ”です。先生が用意したハガキに、送りたい人宛てに文字や絵を書いて送ります。クラスに設置したポストに投函(?)するのです。それを郵便屋さんに扮したお当番さんが宛先を見て配達に行きます。毎年この時期になると職員室にも「えんちょうせんせい!!ゆうびんで~す」「ようこせんせい!ハイどうぞ!」と得意気に配達に来ます。そのハガキには、それぞれに色んな事が書いてあります。『いつも、たくさんおはなししてくれてありがとう』『たうえのしかたをおしえてくれてありがとう』『このまえ、パンやさんであったよね』と自分の気持ちを伝えてくれます。私達は、その返事をまたハガキに書き、そっとその子のクラスのポストに入れておきます。このやり取りがとても嬉しそうです。

小学6年生を対象にした文部科学省の調査によると、近年ハガキを書けない…どの場所に何を書けばいいのかがよく分かっていない子が増えているという結果が出たらしく、自分の名前や相手の名前、郵便番号はどこへ、ということがわからないらしいのです。郵便番号を書く場所に枠をはずれて携帯番号を書いた子もいたようで、この話には驚きました。でも、よく考えると子供達がハガキを書く機会も習慣もなかなかなく、仕方ないのかもしれません。今や子供達でさえ、自分の気持ちを伝えたり相手の様子を知ったりする手段は、ハガキや手紙よりも、メールでのやり取りなのかもしれません。その方が早く情報交換ができるし、結論や解決も早いのです。それはそれで、スピードの世の中、便利で必要なものなのですが、手紙やハガキの良さや味わいを知らないで、メール等の便利な方法を知ってしまったら、“便利さ”すら特に感じることなく、それが当たり前になってしまうでしょう。手紙やハガキの方がメールよりもいい場合があるという事も知っていてほしいと思います。手紙はひと文字ひと文字書きます。少なくとも、その間は、相手の事だけを思い、(どんな顔でこの手紙を読んでくれるだろうか?)(喜んでもらえるかな?)(お返事くれるかな?)とウキウキしたりドキドキしたりしながら心を込めてじっくり考えながら書きます。その間を楽しむことができるのです。この『間』に、自分を振り返ったり、ゆっくりと相手の事を想ったりできるのです。これは、結果が出るまで少し時間がかかる事の良さや楽しみ方とも言えると思うのです。そして、しばらくして、相手から返事が届いたら、またウキウキドキドキしながらその手紙を読みます。やっと自分の気持ちを伝える事ができた!…その時の喜びはメールにはないものがあると思うのです。

実にアナログ的発想なのかもしれませんが、昔から伝わってきたカルタとりやすごろくでさえ、形を変えてゲームのソフトになっている時代です。一人で楽しめる時代…気持ちのやり取りや探り合いなど不必要になってきます。人と人との関わりの必要性を感じずに大人になってほしくないと思います。人と人とが関わるという事は、そんなに簡単なことではなく、気持ちを探ったり想いやったりして、心を通い合わせる事ができるようになるまでには、忍耐や心配りをするいい『間』が必要なのです。この『間』を手紙やハガキのやり取りで味わう事ができるような気がします。

「ようこせんせい!おへんじまだぁ~?」と返事を待ちきれない子供が聞きに来ます。「もう少し待っててね」と言うと「は~い!待ってる!」と、まだかまだかと待ってくれています。やきもきしながらポストの中を楽しみにしてくれています。届いた時には、「ようこせんせい、おへんじどうもありがとう」と返してくれます。この時間のかかるやりとりが、何となく素敵じゃありませんか?

全て、スピードの世の中になる事が少し怖いような気がします。時間をかけ心を込めて自分の気持ちや喜ぶ事を書いてあげたい!と思い、ひと文字ひと文字一生懸命書きます。そして、それを手にして読んだ時、その文字から感じるその人の優しさや思いやりに触れ、二人の関係がまた深まるのです。

“アナログカルタ”や“アナログすごろく”“アナログ通信”の楽しさが分かる子供でいてほしいと思います。人と人との関わりはこれから先も変わることなく“アナログ”だと思うからです。

先生と子供の間に育ったもの(平成24年度1月)平成25年1月

新年あけましておめでとうございます。

年をとってきてからでしょうか、ついこの前もこのご挨拶をしたような気がします。こうして毎日慌ただしく過ごしていると、大切な物や大切な事を見落としたり見過ごしたりやり残したりしいないかと、年末になるといつもその一年がどうだったかを思い返してみます。そして、新たな気持ちで新しい年を迎えるのです。惰性的に過ごしがちな毎日にふと立ち止まり自分を振り返ってみる──お正月は、そういう意味でも、大切なものであると思います。今年一年も、皆様にとって充実した年になりますように…。

さて、幼稚園では12月の中旬に、来年度の新入園児面接を行いました。まだまだ集団での生活を全く知らない小さなあどけない子供達ばかりです。現在幼稚園に通っている子供達も、かつてはみんなこんな感じだったなぁと懐かしく思い出しました。そんな子供達が、12月初めに行われた“フロアーコンサート”で見せてくれた姿は本当に素晴らしかったし、それまで積み上げられたものが目に見える技術の上達や姿勢だけではなく、見えない成長もある事を感じ感動させられました。

“フロアーコンサート”後も、保護者の方からたくさんの感想をいただきました。どの感想にも、一生懸命に頑張った子供達や先生の事を認め感動してくださった事が書いてありました。年少組のお遊戯は、我が子の可愛さを引き出してもらえたソーイング隊(子供達のステージ衣装を縫ってくださる有志の保護者)の方々への感謝の言葉も添えられていました。「たくさんのお客様の前で笑顔で踊れた事に感動しました。何年か後には、年中・年長組さんのような立派な演奏ができるようになるのかと思うと今から楽しみです。」と期待の言葉もいただきました。合奏に関しては、「全く楽譜も音符も読めない、楽器も見た事がない…そんな子供達にどうやって教えておられるんですか?」──これは、毎年必ず聞かれる質問です。これは、園長曰く『中央マジック』なのです。全てのタネあかしはできませんが、三次中央幼稚園の先生達がいつも大切にしているのは、“どんなクラスにしたいか。どんな子供になってほしいか。”“という思いや願いを持つことです。“子供像”を描く事です。そんな思いを持ちながら先生は選曲に力を入れます。それから、旋律をとり、合奏譜を作っていきます。この時が一番先生の力量を問われる所です。先生達は、クラスの子供達の顔や雰囲気を思い浮かべながら編曲していきます。どんな合奏に仕上げたいか、何をどのように表現したいかを考えながら…。それからの先生達のマジックについては、ここでは書ききれないので紹介できませんが、選曲からすでに先生の子供達に対する想いがあるので、その気持ちのまま指導していく……これが重要な事なのです。

しかし、順調にいく時ばかりではありません。出来ると思っていた事ができなかったり、クラスの全員が同じ方向を向いていなくてまとまらなかったりして、困惑したり一気一鬱しながら過ごします。技術を磨く事ばかりをしていくのではなく、ひとつの作品(目標)をみんなで作り上げていくこの事を介して、様々な意識を磨き合うのです。これが行事をする意味でもあります。子供達の意識の成長をねらうための手段の一つだとも言えるのです。“自分の力の凄さに気付く”“友達の存在を受け入れる”“協力する事の大切さ”“自己表現”“頑張る事の楽しさ”“一人じゃない事への喜び”“達成感”“満足感”“向上心”etc.…色々な事が期待できるのです。その過程の中で友達や先生との間に“信頼関係”が築かれます。この信頼関係は、様々な事に一緒に挑戦し、励まし合い、喜び合い、乗り越える…そんな生活を繰り返しながら築かれたものだからとても固いものです。

指揮をする先生とステージにいる子供達の間には、特別な空気が漂っています。子供達が絶対的な信頼を寄せ先生を見つめる目、また、先生も子供達を信頼し指揮を振るその様子は、それだけで感動です。たくさんのお客様を目の前に不安気な様子の子供には、“大丈夫だからね”と言わんばかりの優しい目、集中できていない子供には、“先生を見て!落ち着いて!がんばれ!”というまなざしを向けます。そのクラスの子供達には、先生がこのまなざしで僕らに何を言っているかが分かるのです。また子供達も“先生を見ていれば大丈夫だよね”と、熱く視線を向けます。どんな時も一緒にいた仲間で、共にひとつの事に向かって来た同士だからこそ生まれた信頼関係なのです。

本番の一日を観ただけでも、それを感じてくださった事と思います。本番のステージは目に見える結果ですが、その裏にはここに至るまでの過程の中で、目に見えないたくさんの結果を出してくれました。これは、これからの子供達が生涯生きる上での肥やしとなるはずです。

目に見える結果と見えない結果、そのどちらもがこれまでに築いてきた信頼関係なくしては期待できないものだったでしょう。私は、子供達と先生とのこの素晴らしい信頼関係にこそ拍手をたくさん贈りたいと思います。

3学期の始まりです。これから更に、先生と子供達の間には素敵な何かが育ちます。