気持ちに気付く(平成23年度11月)

この10月は、私達の周りで様々な秋の行事がありました。町のあちらこちらでも、華やかな神輿(みこし)をかつぐ声や鐘の音が賑やかな秋祭り、学校や町の人達による文化祭、そして幼稚園でも秋季大運動会から始まり、イモ掘りや秋の遠足、また、先日は保育参観「ちゅうおう祭」を行いました。実りの秋・芸術の秋・~の秋…と色々な事を言いますが、それらの楽しみや喜びを味わうには大変良い時節です。

幼稚園の遠足には私も全学年の引率をしました。春の遠足の事を思い出しこの半年間の子供達の成長を実感しました。子供達にとって集団生活の中での半年はとても大きな時間である事がわかります。密に関わりを持ちながら生活をして行きますから、楽しい事も悲しい事も経験します。友達との関わりでも色々な事が起こります。それらを通して、子供達は少しずつ大人になる準備をして行くのです。

先日、こんな場面に出会いました。年長組での昼食時、子供達と一緒に食べようと保育室に行った時の事です。お当番の子二人が自分の昼食の準備をした後、前に出て「いただきます」の挨拶をしていました。他の子供達はお当番の号令に合わせて食べる準備を進めます。その間、お当番の子のお弁当やコップや椅子を隣の子がきちんと整えたり、席に戻った時にすぐに食べられるように、準備をしてあげたりしていました。それはとても自然な優しさに見えました。クラスの中でそうしてあげる事がルールになっているわけでもなさそうでした。私はその後もお当番の子とその隣の席の子を見ていました。挨拶を終えて、席に戻ったお当番の子は、自分が準備した時よりもお弁当やコップがきれいに整えてあるのに気付き、「わー、誰がしてくれた?ありがとうね」と周りの子を見ました。すると、隣の女の子が「うん」と一言言い、にっこり微笑みを交わしたのです。特にそれが大きな話題にもなるわけでもなく、そこには、柔らかな空気がほんの一瞬漂っただけでした。私もあえて「ちいちゃん優しいんだね」と声をかけませんでした。二人の間では、ちいちゃんの気持ちは十分に伝わっていたのですから…。また、その子にとっても、その行為は極々自然な気持ちのままだったからです。「やってあげた」という得意な意識を持っていた訳ではなさそうでした。多分、いつか誰かにそうしてもらった事があって、その時に嬉しかったりありがたかったりした経験がその子の心を動かしているのでしょう。相手の子の「ありがとうね」と喜んで言ってくれた一言でまた二人のいい関係が繋がっていくのです。

我が家の娘が小学校の時の事です。私はいつも、学校から帰る娘のスリッパをすぐはけるように玄関に並べて仕事に出かけていました。すると、ある日の夕食の時、「玄関のドアを開けた時、自分のスリッパが自分の方に並べて置いてあったら、お母さんがいなくても、おかえり!って言ってくれてるような気がして嬉しい。」と言いました。そんなふうに思ってくれていたんだと知って嬉しかったし、そうしてやっていて良かったなぁと思いました。なんでもない事ですが、私の気持ちは伝わっていたのです。

人は皆、相手の気持ちに気付いたり気付かれたりしながら、いい関係をつくっていきます。「ありがとう」はそのための美しい言葉だと思います。気付いて欲しくて優しくしている訳ではないのですが、だけど、された側はその気持ちに気付かないと…、当たり前の事として通り過ぎてしまい、次は自分もそうしてあげようと思う子にならないのではないでしょうか。

親子の間には、親から子へ向ける「優しさ」があります。手を差し伸べたり、言葉をかけたりする「優しさ」がいつの間にか、子供にとって無感動な“当たり前の事”になっているかもしれません。特に、幼い時にはなかなかそれを親から自分への「優しさ」だと気付く事はできません。親子とはそんなものなのかもしれませんが、何かの時に「お父さんって…お母さんって優しいね」と気付かせてやる事はお父さんやお母さんの愛情に気付く事になります。

また、逆に子供達からの「優しさ」にも、気が付いてやって欲しいと思います。「ありがとう。嬉しいよ。」「ありがとう。気持ちいいね。」と、どんな気持ちがしたかを伝えてやってほしいのです。自分がしてあげた行為で、相手がどんな気持ちになったのかを知る事で、喜びを感じさせてやってください。子供がしてくれる事は、ほんのささやかな事かもしれません。しかし、ちょっとした事でも人を嬉しくさせたり、楽しくさせたり、元気にさせたりするものなのだという事を小さな頃から実感させてやって欲しいと思います。それは、そのまま子供の世界でも、したりされたり…気付いたり気付かれたりのやりとりができるようになれば、集団の中でもみんなといい関係をつくっていける子供になってくれるような気がします。「ありがとう」の言葉や気持ちが飛び交うような世界ができるといいなと思います。

これは、子供と子供、親子の間の事だけではなく、夫婦の間でも言える事かも……ですね。

ドキッ!…それが、なかなか難しい…。