働かざる者食うべからず(平成21年度6月)

日差しがいよいよ強くなってきました。幼稚園では、子供達が楽しみにしていたプールも始まります。新しい水着の話で子供達は盛り上がっているようです。


さて、今年のゴールデンウィークは行楽にはもって来い!の良い天気で、休み明けにはお土産話を聞かせてくれる子がたくさんいました。さて、我が家は…というと、毎年の事ですが、5月の連休は田植えになります。私が田んぼに入って田植えを手伝うようになったのは6年前からです。「農業を知らないおまえに田んぼに入ってもらうような事はないよ。」と主人に言われ22年前に嫁ぎました。大変さを知らない私は、興味本位で(おもしろそう!!)と思って見ていました。そのうち、これを幼稚園の子供達に経験させてやりたい!と思い、義父と主人に頼んで、田んぼの一部を植えさせてもらう事にしたのです。私が頼んだのですから、手伝わないわけにはいきません。それから、見様見真似で手伝うようになったのです。その頃義母が亡くなったのも手伝うきっかけになった理由の一つです。


娘達も小さい頃は、おもしろがって田んぼについて行っていました。田んぼに入って歩いたり植えてみたり、周りでスケッチしたり、一緒におやつを食べたりして楽しい時間を過ごしていました。だから、ゴールデンウィークにどこにも連れて行ってもらえなくても、それはそれで楽しかったのだと思います。しかし、さすがに中学生になると、「今日は田植えよ。」と言っても「やったー!」と言わなくなりました。それどころか、「勉強がある。」と言って手伝う気もない様子。「じゃあ、家の事をお母さんの代わりにしてくれる?」と頼むと、「だって、宿題が…。」と言います。そのうち、義理の姉夫婦が手伝いに来てくれました。外では、機械の準備や苗運びや植える段取りで大変なのに、それがわかっていても、子供達は一向に外に出て来ません。私は、思わず二人を呼んで話をしました。それは、勉強より大切な事がある!という事を話すためでした。 娘達は、少しムッとしていました。「だって…だって…」としきりに宿題の事を言うのです。「今日の田植えは勉強より大事!親戚までが手伝いに来てくれているのに、家の者がしないなんて…おかしいでしょ。大変な時にはみんなで協力して助け合うのが家族じゃない?」と話しました。


それから、しばらくして、娘達が短パンをはいて田んぼにやってきました。娘達がどんな相談をして手伝う気持ちになったのかはわかりませんが、何か思った事があったのでしょう。田んぼに入って何か所か植えてくれたり、苗箱を運んだり洗ったりしてくれました。そしてお昼にはご飯の準備までしてくれて…、さっきまでの顔とは随分違っていました。「ありがとうね。助かったよ。秋に食べるご飯は特別おいしいかもね。」と言うと、下の娘が、「お母さん!いつもの言葉…“働かざる者食うべからず”…でしょ。」と笑いました。私は“してもらう事が当たり前だと思わないで、そうしてもらえる事への感謝の気持ちを自分にできる事をしてあげる事で返していきなさい。”という想いで子供達に時々そう言います。実際には、子供達が手伝ってくれたからと言ってたいしてはかどるわけではないのですが、小さな力でも仕事を一緒にする事で、家族の一員として、「手伝おうか?」と言えたり、「代わりに何かしてあげられないかな?」と考えられる子になってほしいのです。考えて行動できる子になってほしかったのです。


その次の日、年長組の子供達が我が家に田植えに来ました。その日娘達は学校が休みの日で、年長組の子供達の泥んこになった足を一生懸命洗ってくれました。後で、「幼稚園の子ども達ってすごく可愛かった。」と言っていました。大きな事はできなくても、その中で自分にできる仕事を考えみつけられる人になってもらいたいと思います。娘達がいずれ社会に出た時、そして、家庭を持った時、そういう気持ちが娘達を“なくてはならない人”と認めてもらえる人間にしてくれるのではないかと思うのです。その子のその時期にあったお手伝いをさせて、共同生活の営みに携わる事で、自分も家族を支えている大切な一人なのだという事を実感させてあげてください。家族は、楽しい時も苦しい時もずっと一番強い絆で結ばれていなくてはならないのですから。


その日の夕方、いくつかの放送局で幼稚園の田植えのニュースが放送されました。何人もの知り合いから「ニュースに出てたね。」という電話がありました。上の娘も友達から、「お家で、そんな経験ができるなんてすごいね。」と学校で話題になったり、園児達の足を洗う様子がチラッと映ったニュースを見て「見たよ!」と言われたようで、ちょっと恥ずかしそうでした。そして、下の娘の宿題の『ゴールデンウィ-クの思い出』という作文に『どこにも行かなかったけれど、裸足になって家の田植えを手伝いました。田舎ならでは!の経験なので、とても楽しかったし、いい気持ちになりました。……』と書いていました。夕食を食べながらの子供達との会話──。「友達みんな、いろんな所へ旅行や遊びに行ったりした作文を書いてたよ。」「うちは、ゴールデンウィ-クの時でないと田植えができないんだから仕方ないよ。」「それはそうなんだけど…。わかってるけど…。でも…。」──
言いたい事はわかるよ。“それとこれは別!”って言いたいんでしょ。うん、わかる!!実はお母さんもちょっぴりおんなじ気持ち(笑)。