裏舞台(平成20年度10月)

「地球はどこかおかしくなっている」と言われ始めてから、何年経ったでしょうか?地球温暖化・環境問題・エコ…等という言葉を随分耳にしてきました。だけど、地球も頑張っています。少し様子はおかしいですが、空を見上げれば、いつの間にか秋の空に秋の雲、吹く風は秋風でその優しい風にコスモスが揺れています。裏山に行ってみれば、栗の木や柿の木に実が生っています。地球は忘れずに私達に過ごしやすい実りの秋をちゃんと届けてくれたようです。


そんな中、幼稚園では秋分の日に秋季大運動会を行いました。確か、昨年の『葉子先生の部屋』の10月にも運動会をテーマに書いたと思います。今年は違うテーマで…と思いましたが、運動会を終えて、まだ興奮冷めやらぬままの執筆なので、どうしてもここから外れる事ができませんでした。


さて、今年のお子さんの晴れ舞台はいかがでしたか?いつも決まったように行われる運動会ですが、毎年毎年その日を迎える気持ちや感動やできる思い出が違います。それは、その運動会の主役である子供達が毎年違うからです。そして、運動会当日の舞台のムードも毎年違います。きっと、保護者の皆様も、わが子の姿に様々な感動を覚えられたのではないかと思います。本番に、わが子がどんな様子になるのか心配でたまらなかったお家の方は一つひとつの出番が終わるたびに、ほっとしたり感動したりされた事でしょう。


しかし先生達は、当日までにすでに、「この経験は子供達をグーンと成長させるものだった。」と言える自信がありました。


運動会に向けての取り組みが始まったのは6月頃からでした。“運動会の練習”としてではなく、仲間意識や体を動かす事の楽しさを感じ、心や体にも強さを持ち合わせることのできるように経験を繰り返すという意識から始まりました。子供達は、毎日音楽に合わせて踊ったり友達と一緒に「どうかな?こうかな?」と練習し合う子もいました。いつも足の速い友達のフォ―ムをじーっと観察し、自分なりに研究したのでしょう、急に走り方がかっこよくなった子もいました。子供達は自分の中にある“苦手意識”や“弱さ”と葛藤したり、挑戦意欲をもって努力をしようとします。そうしながら、がんばる楽しさや達成感を味わうのです。それはそれは頼もしい限りです。実は、こうしていろんなドラマが運動会の当日までにありました。それを知っているからこそ、私達は本番に自信を持ってその日を迎えたのです。感動的な運動会はこのドラマの延長線上にありました。


特に、さくら組でのリレーは感動しました。様々な面にハンディを持つ子供達を取り巻くクラスづくりや取り組みには特に丁寧に進めてきました。子供は実にピュアです。いろいろな事をストレートにうけいれます。子供の心はもともとバリアフリーなのです。      担任の三上智子先生と専任の新家あずさ先生は、こうちゃんとだいちゃんとみんなで自然に生活したいと思っていました。そして、子供達はみんな一緒に二人の障害を、自分達ももっている個性の一つとして関わっていたように思います。だから、遠慮なく子供同士の言い合いも喧嘩もしていましたし、車いすやバギーにも恐る恐るさわるのではなく、まるで手をつなぐようにみんなが操作していました。そんな毎日の生活の中で障害をもつ友達への関わりや気持ちの向け方を先生達は手探りで、子供達は自然に学んできたと思います。とは言え…と言うか、それゆえに…と言うか、運動会のリレーはクラス対抗です。勝ちたい気持ちになるのは当然のことです。だけど、一番にはなれない…子供達なりの葛藤はそれまでにあったはずです。先生に聞いたところ、子供達の口から出た言葉は、「僕たちがすごく速く走ったらいいじゃん。」だったそうです。子供達が考えた言わば作戦です。

そして運動会。リレーを終えたある子に、「リレー、頑張ったね。」と言うと「うん(こうちゃんもだいちゃんも)わらっとった。」とサラッと言うのです。こうちゃんが車椅子に座って風をきりながら嬉しそうに笑っていた事が嬉しかったのでしょう。だいちゃんが歩行器で一生懸命ゴールに向かう姿に胸を打たれたのでしょう。きっと、子供達の心には、リレーの勝敗すら超える“大切な物”をそれまでの関わりの中で見つける事ができていたのだと思います。


運動会はそれら全ての集大成、その発表のために用意されたステージなのです。運動会そのものは、たった一日限りのステージですが、実は子供達と先生達にとっては毎日が晴れ舞台だったのです。昨日より今日、今日より明日…と子供達がどんどん自分に自信を持ち、変化や進化して行く手ごたえを感じる毎日…それは、まさしく感動的な舞台でした。そう考えると、もしかしたら私達は、保護者の方よりも、素敵なステージを見ていたのかもしれません。園長先生の挨拶にもありましたが、本当は、それまでのこの過程こそが大切な時間なのです。目標に向かって取り組んでいく中で色んな出来事があり、心が揺さぶられ、生きていく上で大切なたくさんの事が子供達の中に宿っていきます。この過程での成長こそ見て認めてやって欲しいと思います。そう!この裏舞台こそが、みごとで輝かしいのです。だから、みんなみんな金メダルおめでとう!!

夢を支える(平成20年度9月)

今年の夏も異常な程の暑さでした。地球全体が悲鳴をあげているような気がします。そんな中今年は北京でオリンピックが行われ、様々な種目で世界記録が塗り変えられました。人間業をはるかに超越したそれらの雄姿に感動をおぼえました。オリンピック選手の姿は子供達の目にどのように映ったでしょうか。金メダルを首にかけた世界チャンピオンは特別に輝かしく見えたに違いありません。メダルには届かなかったけれど、庄原市から競泳女子200m平泳ぎの選手が出場!みごと決勝で7位入賞というビッグニュースに拍手喝采しました。田舎のスイミングスクールからオリンピック選手が出たと驚き、「ぼくもオリンピックに行きたい!」「私もいつか!」と子供達に夢と希望を与えました。また、これまではオリンピック種目でありながらも特に取り上げられなかったバトミントンも、いわゆるオグシオ効果でバトミントンのラケットがとぶように売れたそうです。その経済効果もさる事ながら、人々の心を一気に揺さぶった事に驚かされます。自分もあんな風に走りたい!泳ぎたい!戦いたい!と夢を見させてくれるのです。


あるメダリストが、「メダルを手にした瞬間、誰が思い浮かびましたか?」というアナウンサーのインタビューに「両親です。そして、自分をこれまで応援して支えてくださったたくさんの方の顔が思い浮かび、感謝の気持ちでいっぱいです。」と答えていました。戦いの一瞬しか知らない私達には、それまでにどんな苦しみや厳しい試練や自分との戦いがあったかなんて計り知れません。それは、間近で見てきたご両親が一番よく分かっておられるのです。そして、叱咤激励しながら、共に夢を追い続けて来られたのです。


子供達はみんな、夢を見て、夢を描いて、夢を追っていずれ自分の進む道を選んで生きて行きます。その途中に自分の夢に共感してくれる人が存在していれば、「自分にもできそうな気がする。」と夢実現への光が見えてきて力が湧き、挫折しそうな時も立ち上がれるエネルギーが持てるのです。


高校生になる直前になって始めたボクシングで、今やウェルター級国内高校生の2位で頑張っている卒園児がいます。幼稚園の頃は、どちらかと言えばやんちゃで友達ともよくトラブルを起こす男の子でした。だけど、その分、情に厚く、分かり合えた友達の事はとても大事にする“いい奴”でした。そのお母さんは、その子の良いところをちゃんとわかっておられるよき理解者だったようです。心と体を鍛えたその子は、まっすぐに自分の夢に向かって頑張っています。また、中学受験と同時に頑張っていたフィギアスケートへの夢も諦めきれず、「この子の夢を叶えてやりたい!」とご両親が決心され、受験をやめてスケート一本に絞った卒園児が、今や、浅田真央も夢じゃないぐらいの力をつけ、国体等でいつも輝かしい成績を上げています。その子とご両親に先日再会し、「この子の今があるのは、毎日がむしゃらに遊ばせてもらった幼稚園の環境や遊具のおかげなんです。」と言ってくださいました。受験をスパッ!とやめて、子供の夢を支える決心をされたという知らせを聞いた時、その潔さに感動したのを覚えています。その子は「私は、ずーっとお父さんやお母さんに感謝してる。」と話してくれました。


スポーツだけではありません。子供がキラキラした心で夢を話してくれる時、それがどんな夢であっても、どうぞ、子供と向き合ってしっかり聞いてやってください。一緒にその話に夢中になってやってください。「何つまんない事を言ってるの!」とか「無理に決まってる!」なんて決して言わないでください。その内容は“つまらない事”でも“無理に決まってる事”でも、夢を見るその気持を持つ事が大事なのです。夢は人生の目標にもなります。生きるエネルギーになるのです。そして、それを聞いてやるだけで、夢はどんどん膨らむでしょう。今ある力が何倍にも大きくなる事だってあります。夢を支えるとは、直接何かの手立てやお膳立てをする事だけではなく、夢を見させてやる事、夢を聞いてやる事から始まるような気がします。


私も、幼い頃から、夢を見るのも語るのも好きでした。一番の理解者は母でした。母には何でも話をしていました。幼稚園の先生になりたいという夢もいつも聞いてくれていました。ただ聞いて共感してくれていただけでしたが、そのうち夢がどんどん膨らんで、夢は夢に終わらない気がしてきました。京都の幼稚園の就職試験に合格・採用が決まった時には、やはり両親の顔が真っ先に浮かびました。夢が叶った事を誰よりも喜んでくれる人だからです。


先生になっても、「こんな先生になりたいんだ。」という話を真剣に聞いて意見を聞かせてくれる私のよきアドバイザーでした。


どうぞ、子供達と一緒に夢を見て、夢を支えている事を感じさせてやってください。大きくなっても、夢のない…夢を見つけられない子供達にするのは、私達大人のせいなのかもしれませんよ。
後に、母は私達子供に家業を継がせ、家族皆で店を盛り上げるという夢をもっていた事を聞きました。今、あらためて“私の夢を応援してくれてありがとうございました。”と言いたいです。