古きを訪ね新しきを知る(平成19年度2月)平成20年2月

先日、10年近く使った我が家の電子オーブンレンジが故障しました。電子オーブンレンジの基本中の基本のような、ただ食品の温めと解凍とトースト機能のついた単純なものでした。結構便利に使っていたので、壊れて動かなくなったときには大変困りました。もちろん、そればかりに頼って料理をしているわけではないのですが、仕事を持ちながら食事の用意をするにはなかなか便利なものです。しばらくの間は、電子レンジが無くったって料理はできる!と頑張っていましたが、急に解凍しなくてはいけない時、早くご飯支度をしなくてはならない時にはないと不便なものです。


これは、やはり購入しないと……と思い電気店に行きました。安いものはありましたが、どうせ買うなら……と少し欲張って、グリル機能の付いたレンジを購入しました。店員さんの説明をしっかり聞いて決めたのですが、朝食のメニューが一度にできてしまうというのです。卵・ソーセージ・野菜を鉄板に並べて時間設定すれば、ゆで卵・ボイルソーセージ・温野菜ができあがります。肉じゃがだって、耐熱容器の中に適当に切ったジャガイモやたまねぎやニンジン牛肉を並べ、調味料をかけてスタートボタンを押せばそのまま出来上がります。一瞬、(なんて便利!)と感心しました。いくつも鍋を出さなくてもいいのです。それぞれの時間や出来具合をつきっきりで見ていなくていいのです。その間、違うメニューに取り掛かる事もできるし、その場を離れる事もできるというのです。これぞ!主婦の味方!と思わされました。


家に帰り、こて調べにゆで卵を作りました。なかなかいいゆで卵になったのですが、それを子供達が見ていて、「ゆで卵は、鍋で茹でるんでしょ。お水の中じゃあないのにどうして茹でる事ができるの?」と、ふに落ちない顔をしていました。「じゃあ、何でもこのレンジの中に入れたら料理できるの?」と聞きました。

私は、ハッとしました。この子達は、私がこの便利な電子レンジで毎回食事の用意をするようになれば、鍋の使い方も野菜の本当の茹で方も、黄身が真ん中になるゆで卵の作り方も知らずにお母さんになるかもしれない。そして、自分の子供に「ゆで卵は電子レンジで作るのよ。」と教えるだろう。

たしかに、いずれそういう時代になるのかもしれない。かつて私達が、家庭科の授業で苦労しながら練習した足踏みミシンや、レバーを回しながら脱水する一層式洗濯機が、今や姿を消してしまい、新しい物に変わったように…。こうした時代の流れに人は皆、乗り遅れる事なくちゃんとついていっています。逆戻りする事はほとんどない。でも、やはり、掃除をする時は雑巾を手で絞るし、落ちにくい汚れの洗濯物は手でもみ洗いやたたき洗いをするのです。

時代は変わっていっても、原点なるものは忘れられてはいないのです。炊飯器だって、かまどで火をおこして「はじめチョロチョロなかパッパ」とごはんを炊く古き時代が原点になっている事を私達大人は知っています。子供達に、この原点や基本も教えないで、便利な物を即与えていいのだろうか、それが、当たり前の物だと思わせていいのでしょうか。基本を教えた上で、新しい世の中の流れに乗せてやるべきだと思うのです。包丁の使い方・水や火、調味料の加減の仕方・味付けのコツ等、基本があって進化があるという事を教えてやるべきだと思います。そうでないと、便利な物が無くなったらその他の手段を見つける事のできない大人になってしまうような気がするのです。今の世の中、便利な物が次から次へと出回ります。私達の生活に時間と潤いをもたらすために素晴らしい事です。でも、その原点は大人である私達が子供達に教えてやらなければならないと思います。


こんな事を書いている私も“原点を知らない現代人”の一人かもしれません。しかし、幼い頃、母の手伝いをしながら…あるいは、母のそばで母がしている事を見ながら、原点に触れる事ができていたような気がします。その時はそれでも“便利になった世の中”だったのですが、それから世の中はどんどん進化していっています。ついに、電子レンジという箱の中でごちそうができる世の中になりました。これが当たり前なのではなく、「本当は、こんなふうに肉じゃがを作るんだよ。」「こんなふうに掃除するんだよ。」という事も教えておくべきだと思います。

面倒臭くても、時間がかかっても、基本のやり方のほうがおいしかったりきれいにできたりする場合もたくさんあります。便利な道具を使うとしても、基本や原点をも知り見直す気持ちをどこかに持って子供達に伝えていかなければ、世の中がどこか変になりそうな気がします。


もともと人間は、原始時代、火と道具を使える唯一の動物だったのです。知恵を使い生きてきた動物です。賢い生き物なのですから、便利さだけを求めたり、それにしがみついてばかりではなく、原点を知りその良さにも感心を示す事も忘れないでいたいものです。


私も、子供達に、合理的な生活に流されすぎないように、本当のゆで卵の作り方や肉じゃがの作り方もきちんと伝えてやれる母でありたいと思います。と言いつつ、今日もまた便利な調理器で料理を作り、片付けも便利な食器洗浄機に任せる…。これって…。

食育(平成19年度1月)平成20年1月

新年あけましておめでとうございます。皆さん、それぞれに色々な想いを持って新しい年をお迎えになられた事でしょう。昨年を振り返り、また新しい年に夢と希望をもって決意新たに過ごしていきたいものです。本年もどうぞよろしくお願いいたします。


さて、我が家は必ず家族みんなが揃って元旦の朝を迎えます。神棚にみんなで手を合わせ家内安全と家族の健康をお願いし、お神酒をいただきながらおせちとお雑煮を食べます。日頃毎日忙しくて、家族全員が集まる事がなかなかないので、子供達はこの日をとても楽しみにしています。本当にのんびりとくつろげるのは、一年を通してもこの日ぐらいかもしれません。おせち料理を食べながら、それぞれの料理の意味を子供達に教えてやります。黒豆は“まめ(元気)に暮らせますように…”数の子は“子孫繁栄を願って…”煮しめの中の蓮根は、穴があいている事から“先の見通しのよい一年が過ごせますように…”等々おじいちゃんの知識に助けられながらではありますが、子供達は熱心に聞いてくれます。毎年同じ話をしているのに、子供達も成長と共に感じ方が変わってくるのでしょう。料理にそんな願いや意味があるという事にも驚きでしょうし、今も昔も変わらず込められている、料理を作る人の家族の幸せを願う気持ちの大切さやありがたみも子供なりに感じているようです。毎年おせち料理は、二人の娘達にも手伝ってもらい、三人でバタバタしながら作ります。子供達も大きくなってきたので、結構助かるようになりました。


先月の初めに年長組の子供達は、三次市が企画している食育推進プロジェクトの一つである食育講座の料理作りを体験しました。味噌汁を作ったのですが、作る前に味噌汁の具になる食材について、どんな栄養があるのか、その栄養は身体にどんな意味を持つのかを話していただきました。毎日何気なく食べていた物が自分の身体でどんな仕事をしてくれているのかを教わりました。サツマイモには身体を温めてくれる力がある事、だしをとるいりこを食べると、骨をつくってくれたり、強くしてくれたりするという事。同時に、私達は食物や動物や魚の命をいただいて命をつないでいる、だから私たちは、粗末な食べ方をしないで、ありがたい気持をもってきれいに食べてあげなくてはいけないのだという意識も持たせていただきました。食べ物に関心を持つ事が、子供の食べる意識や意欲を育てるのです。子供達は一人ひとり包丁を持たせてもらい、サツマイモ、ニンジン、ネギを切りました。シメジを丁寧に手で割きました。お団子を丸めて静かにお汁の中に入れました。おいしく出来上がるまでの時間が待ち遠しかったり、手間と時間をかける過程で、食べる人へのどんな想いが込められているかを実感したと思います。包丁の使い方から、いつもお母さんと一緒にお料理を作っているのかな?と伺える子もたくさんいました。ご馳走をつくってくれるママの隣でじっとママの手先を見つめたり、料理が出来上がるいい香りの中で、幼稚園であった出来事を話したりしているのかな?等と、その様子を勝手に想像して微笑ましく思えました。


料理上手の理事長先生が、遅くまで残って仕事をしている先生達によくご馳走を作ってくださいます。“ご苦労様”の気持ちと“頑張っている先生達に食べさせてやりたい”という優しい気持ちが伝わってきます。その時いつもおっしゃる事は、「愛情がこもっていれば何でもおいしくなるんだ。」──本当にそうだろうと思います。皆さんもお料理しながら(子供達がどんな顔をして食べてくれるかな?)とか(これを食べて元気にしてやりたい。)(パパは「おいしいよ。」って言ってくれるかしら?)等と想いをはせておられる事でしょう。また、食べながら(一生懸命、私のために作ってくれたんだろうなぁ。)とそれを感じてくれたら…作る方も食べる方も心通わせてさらにおいしくいただけるにちがいありません。


今『食育』は、よく耳にする言葉ですが、色々な意味があると思います。生きとし生けるものは皆何かを食して生きています。食べるという事は当たり前過ぎて振り向く事を忘れられがちでしたが、実はこうして考えると『食する事』を通して、単に身体がつくられるというだけでなく心と心の結びつきや命の営みへの関心までも育てられる大切な教育なのです。料理を囲む事によって、家族の時間を生んだり、あるいは取り戻したりできるような気もします。そして、親子で台所に立ち、知らず知らずのうちに料理を覚え、母の味父の味を伝えるのもすばらしい『食育』の一つだと思います。


今年のお正月は、おせち料理を囲んでどのような話題に花が咲きましたか?『食』を通して家族で話をし、『食』に興味を持たせてやってください。今や子供達の中には、朝ごはんを食べずに学校へ行く子もいて、勉強にも集中できず、お昼まで気力も体力ももたないそうです。食育を受けるのは子供達だけでなく、大人達ももっと『食』に関心をもたなくてはいけないのかもしれません。食べる事が大好きなこの幼児期にこそ、親子で食育を意識し、食べる事をもっともっと好きにさせ、『食』によって心と身体は成長していっているのだという事を感じさせてやりましょう。