誕生日(平成19年度7月)

6月20日は、理事長先生の誕生日でした。その少し前に“三次中央幼稚園”と“子供の館保育園”そして“子供の城保育園”の職員全員が集まって行われた研修会があり、その席で理事長先生にお祝いの花束を贈りました。その時のご挨拶の中で、理事長先生はご自分のお生まれになった時代背景を語られました。自分が生まれる少し前に太平洋戦争が始まった…そんな時代です。当然ですが、理事長先生がこの世に生を受けられた頃の事は、私達は知りません。理事長先生の話を聞いて、初めて(ああ、そういう時代だったんだなぁ)と理事長先生の歴史を知るのです。そして、話してくださる理事長先生もまた、この誕生日を機にご自分の歴史を振り返られたと思います。


この世に生を受けるという事は、それはそれは神秘的で素晴らしい事なのです。その日は、誰もが祝ってくれる日です。ましてや、元気で毎年この日を迎えられるなんて、これだけ危険や悪が蔓延している世の中…、当たり前のようだけれど、よく考えれば、とてもありがたい事なのです。全てのものに、この『誕生日』があります。この記念すべき日にはそれぞれの人や生き物の歴史やドラマがあるのです。


『誕生日』をそんな風に考えた事がありますか?誕生日を案外簡単に迎え簡単にその日を終わらせてはいませんか?ましてや、私だけでしょうか、25歳くらいまでは、誕生日を迎える事は一大イベントでしたが、それを過ぎればスーっと誕生日を見送りたくなる心境に駆られるのは…。でも、40歳台になると逆に開き直りかどうかわかりませんが、自分のこれまでの歴史や今まで私に関わってきてくれた周りの人達と絡ませて人生を振り返れるようになりました。


幼稚園では、どの子のお誕生日にもどの先生もが「おめでとう!」と祝ってやれるように、前日の職員会議で自分のクラスの誕生日の子をその都度紹介し合います。その子の『誕生日』を大切に思い、その子にもそれが自分にとって特別な日であるという事を感じて欲しいからです。

よく「お誕生日おめでとう!」と声をかけると「ありがとう!今日ね、おもちゃを買ってもらうんだぁ。」とか「おすし屋さんに連れて行ってもらうんよ。」などと嬉しそうに話してくれる子がいます。誕生日には、何かを買ってもらえるとか、どこかへ連れて行ってもらえる日という感覚になってしまっていないかとふっと感じます。勿論、プレゼントをしてやりたくなる大人の気持ちも、もらって嬉しい子供の気持ちも極々当然の事だと思います。ここまで大きく育ってくれた事の喜びを形にしたいのです。ですが、ただ、「おめでとう!」と祝うだけでなく、その時に「あなたが生まれた時はね…」と誕生のドラマを語ってやってほしいのです。祝ってくれる家族からその時の想いや、様子などを聞かせてもらえば子供達はどんなに望まれて命を授かったか、どんな想いで自分を育ててくれていたかを感じてくれるでしょう。


娘達が9歳と7歳だった時、姉妹喧嘩をしている様子をみて叱った事がありました。初めは些細な事だったのに色々言い合っているうちに、あとに引けなくなったのか、上の子が、「お母さんは、こんな私なんかいないほうがいいって思ってるんでしょ!!」と言い放し、二階の部屋に駆け上がってしまいました。しばらくの間あまりにも静かなので気になって様子をのぞくと、自分が生まれた時のアルバムを見ながらしくしく泣いていました。「なに見てるの?」と声をかけると、突然私に飛びついて「ごめんなさい。私がいけなかった。」とわんわん泣きながらあやまったのです。

落ち着いて話を聞いてみると、色んな人に抱っこされている写真を見て、こんなに大切に想ってくれているのに、なんてひどい事を言ってしまったんだろうと、「“ごめんなさい”の気持ちでいっぱいになった。」と言いました。それから、娘が私のお腹に宿るまでの事や、長い年月を経てやっと授かったときの感激、お腹にいる間の事、生まれる瞬間の事をたくさん話してやりました。そんな色々があって、今の自分がいるという事を知ってどのように感じたかはわかりませんが、それによって娘は娘なりに自分の生きている意味や喜びを感じる事ができたと思うのです。


生まれてわずか3~5年しか経っていない幼児でも、そんな話をしてやれば、本当の“『誕生日』を祝う意味”を感じてくれるような気がします。そして、今もその時と変わらぬ愛で守られている事を実感するでしょう。自分の歴史の始まりを誕生日に話してやってください。そうすると、『誕生日』が家族の繋がりの深さを感じあえる特別な日になるのでは?と思います。

誕生日だから…と物品で満たされる一日よりも、幸せな気持ちで満たされる一日にしてやってください。子供達だけではありません。お父さんお母さん方にも、この私にも自分の誕生のドラマがあります。子供の誕生を心から喜び慈しむ家族の愛は、親から子へ…子が親になり、その親から子へといつまでも繰り返されるのです。

さてさて、理事長先生はご自分の誕生日をどんなお気持ちで過ごされたのでしょうか?また、どんな赤ちゃんだったのかにも興味津々…。