思いやり(平成16年度)平成17年2月

1月23日の参観日に講演会がありました。講師に茶道の上田宗箇流(家元は広島市)の坂部由香子先生をお迎えして、「暮らしに生かせる楽しいマナー講座」という演題でお話を聴かせて戴きましたが、ホールに座りきれないほどの沢山の保護者の方々に聴いて戴き、ありがとうございました。


講演が始まるのが少しずれ、講演時間が予定より少なくなったため、幼稚園の先生たちのお茶の練習の話が出てきませんでしたので、私に関ることだけをここで紹介します。
私は参加していませんでしたが、昨年末の12月27日に行われた、平成16年の納茶会での話題です。練習が終って坂部先生が、「1月7日の新年の練習初めには、お茶漬け懐石をしましょう。」と言われたのです。抹茶を使ってのお茶漬けです。その時に、「お茶漬けに添える料理には、酢の物と和え物を主婦の先生たちが作ってください。若い先生はそれを見て料理の勉強をしてください。」というようなことを話されたそうです。そのことを聞いた主婦の先生たちは、「ここには主婦は誰一人いません。」と、楽しい話題が続いていました。「この幼稚園で主婦(夫)をしているのは理事長先生しかいらっしゃいません。」ということになったらしく、私にお鉢が回ってきました。私も快く引き受けました。


1月7日のお茶漬け懐石は午前11時から始まります。そこで朝9時半から料理を始め、14人分の2品を作るのに1時間をかけて作りました。その、出来上がった料理を先生たちに手渡して、私はそのまま県庁に知事や議長に新年の挨拶をするために出かけましたので、残念ながら、そのお茶漬け懐石には参加できませんでした。


その時、カブのお漬物を、もう1品添えたのです。
そのお漬物は、実は私が漬けたものではありません。私が小学校4年生の時に転入してきた女の子が、中学1年生の夏休みに、お父さんの突然の転勤で転校してしまい、それ以来、所在が分からなくなっていました。その子が歳をとるにつれて、やはり、懐かしくなって、ご主人と一緒に尋ねてきてくれたのです。岐阜市に住んでいました。尋ねて来てくれた、その1年後の還暦を迎えた年、中学の時のクラス会にも初めて参加してくれました。
その彼女が、自分で漬けた漬物を、3年前から、年末になると私のところに送ってきてくれています。そのお漬物を事情は話さないで一緒に添えておいたのです。坂部先生も幼稚園の先生たちも、料理もお漬物も、すごく美味しかったと言ってくれているので、そのまま素直に受け止めています。


講演後、講師の坂部先生と一緒に昼食に出かけました。食事をしながら、楽しいひと時を過ごすことができました。講演で度々お話された、「お茶は思いやりの気持ちを学ぶ」という、その日の講演内容から話が弾みました。その時に、以前、坂部先生が大病を患われた時に、周りの人たちのいたわりや思いやりの心をいっぱい感じられたお話も伺いました。その時に、何かの雑誌で読んだと言われる、「大病を乗り越えると、一国の大統領を超える勉強ができる。」というような言葉を紹介してもらいました。おそらく、死に直面するかもしれないような大病を患うと、自分を問い直し、自分の生き方を改めて考え直すことになるのではないかと思いながら聞きました。そして、自分は自分の力だけで生きているのではなく、宇宙の摂理や周りの人々から生かされていることに気付き、一層、人に対する思いやりも深いものとなっていくのだと思います。


生き方も、一日一日を大切にしようという気持ちも強くなってくると言います。講演後の坂部先生との食事の席に私の女房も同席していました。女房も10年前から大病を患っています。「一日一日を、仕事が出来るのは今日が最後かもしれない」と、体力に合わせて仕事をしていますが、すごく充実した10年だったと言います。
ところが、私と言えば、ほとんど病気らしい病気はしたことがなく、どうも、病人の気持ちを理解できない人のようで、苦しんでいる時にどう接していいのか分からないのです。そのことで、相手に私は優しくないという印象を与えてしまいます。


「この幼稚園で主婦(夫)をしているのは理事長先生しかいません。」と、先生たちが言ったのは、私が毎日、家で料理をしていることを知っているからです。10年前に女房が1ヶ月入院したことがあって、退院してからの様子を見ていると、私の朝ごはんを作ろうと、まだそんなに体調がよくないのにも関らず、無理をして起きようとしていたことに気付いたのです。「朝ごはんぐらい自分で作るからいいよ。」と言って、朝食を作り始めたのが、主夫になる始まりでした。作ってみると楽しいのです。それ以来、料理に夢中になっていったのです。途中で、何でこんなことをしているのだろうと苦痛に感じ出したときがありましたが、その時、「料理を楽しもう。」と、気持ちを入れ替えて以来、何の苦痛も感じなくなってきました。この10年、朝食も夕食もずっと作っています。時には、お弁当も作って持って行きます。以前にも書いたのではと思いますが、料理を始めてすぐに気付いたのが、「料理は愛情」と言うことです。料理を作っている時の自分は、相手にいかに美味しいものを食べさせてあげようかということばかり考えていることに気付いたからです。その気持ちを忘れたら、途端に料理もまずいものになってしまいます。


話が自分のことになってしまいました。話を戻します。
子供たちに、「思いやりのある子になりましょう。」と言って育てても、思いやりのある子には育ちません。「思いやり」とは、相手の気持ちになって、相手をいたわる、自分自身の心の働きだと思いますので、言葉では言い伝えることは出来ません。子供たちが、思いやりの気持ちを持つことが出来るようになるには、周りからしっかり愛され、周りからいたわりや思いやりを、いっぱい、いっぱい受けることによって育まれていくのです。お父さんお母さんの気持ちの在り様次第なのです。