こいのぼり(平成15年度)5月

入園式が終わった頃、園庭の木々が芽吹き始め、最初に花を付けたのが、陽光という種類のサクラの花でした。昨年植えたばかりの木ですが、少し赤みかかった花でとてもきれいに咲いてくれました。その次に咲いたのがコブシの花です。純白の薄い花弁で、私の一番好きな花です。子供たちの純粋な心と重なるからです。その次に咲いたのが利休梅という木で、小さな花ですがこれも純白で、とてもかわいい花です。ハナモモもピンクと白の混ざった花が咲いています。今、満開なのがピンクの八重桜と姫リンゴの白い花です。この姫リンゴの木には、秋になると、小さな真っ赤なリンゴがなります。そして、咲き初めなのがピンクの花ミズキです。もう少し先になると、ナンジャモンジャの木やヤマボウシの木が白い花を付けてくれます。そんな花木に囲まれて、子供たちの賑やかな声が園庭に響き渡ります。


4月10日の入園式が済み、新入園児も元気に登園し始めてくれました。それでも、今年も泣く子が数人いました。そういう時は、園長や主任、プレイルームの先生たちが抱っこしたりおんぶしたりして、あやしながら、幼稚園に慣れ親しむようクラスの補助に入ります。


その中に数日泣いていた、うめ組(年少)のクラスの女の子を、門の前で子供たちを受け入れのため待ち構えている、主任の葉子先生が両手を広げ、お母さんから受け取り、毎日、かわいい、かわいいと思いながら抱っこしていました。何日か経って泣かなくなった頃、登園してきたその子の手を引いて、「この先生の名前覚えてくれている?」と訊くと、「オバチャン」と応えます。葉子先生があわてて、「ちがう、ちがう、葉子先生というんだよ」と言うと、キョトンとして葉子先生を見上げています。その子にとっては自分の担任が先生で、門の前で抱っこしてくれる人はオバチャンだったのです。


2週間も過ぎると、新入園児もすっかり落ち着いてきました。そんな中、お迎えで来られたおばあちゃんが心配されて、お家に帰ったらお母さんと孫とで話し合わなければと言われます。
何があったのかと思いながら話を聞くと、おばあちゃんがお迎えに来られて一緒に部屋を出られた後、お孫さん(年少の女の子)が園庭で遊ぶのを見守られていました。そして、アスレチック広場のトリデのネットを登って上まであがりました。ところが、いざ降りようとすると、怖くて降りられなくて泣き出したのです。おばあちゃんは、孫が落ちたらいけないと、孫が降りるのを助けながら、やっとのことで降ろされたそうなのです。お家に帰ったら話し合わなければと言われた意味が分かりました。高い所に上がらないようお孫さんにお母さんから話してもらうと言うことでした。


おばあちゃんの心配はもうひとつありました。幼稚園には高く登る所がたくさんあり、今のようなとき幼稚園ではどうされるのですかと訊かれるので、もちろん、先生が一緒に遊んでいるので、おばあちゃんがされたように、助けながら降ろしてやりますと話しましたが、「落ちたりしないのですか」と心配そうです。


子供たちは少々怖いところは真剣に挑戦していますから、ほとんど落ちたりはしません。かえって、なんでもない安全と思われるところの方が、ぶつかったり転んだりして怪我をすることの方が多いのです。子供は自分の能力よりちょっとだけ難しいことに挑戦して、いろいろな能力を付けながら成長します。そして、本当の危険から身を守る能力を身に付けるのです。アスレチック広場の遊具も難しいことに挑戦できるように仕組んであるのです。そのことも説明しました。


おばあちゃんと話をしている間、その女の子はウンテイに登っては飛び降りています。「ほら、一番上まで行かないで、自分の飛び降りられるところまでしか登っていないでしょ。子供は自分の能力をちゃんと知っているのですよ。小川を飛び越えるのも、自分の能力で飛び越えるところを選んで飛び越えます。もし、危ないからと心配しすぎて、何もさせなかったら、本当の危険なときに命取りになります」と言うようなことを話しました。


おばあちゃんは、「いろいろ話してくださってありがとう」と言われて、お孫さんの手を引いて帰られましが、目に入れても痛くないかわいいお孫さんです。どこまで理解して戴いたかは不安ですが、きっと、お孫さんがだんだんといろいろなことが出来るようになるに連れて、胸をなでおろしてもらえるものと思っています。


4月は午前中で保育が終わりますが、5月からは午後も保育がありますから、遊ぶ時間もしっかりとることができます。この頃から、子供たちの活動が活発になり、友達とのかかわりも多くなり、幼稚園生活の楽しさも深まってきます。


幼稚園舎の屋上にはこいのぼりが風を受けて元気に泳いでいます。日本では、端午(たんご)の節句に男の子の成長を祝って、かぶとや武者人形を飾ったり、こいのぼりを前庭に立てたりする風習となっています。
「鯉の滝登り」という言葉があります。中国の黄河上流の竜門という滝を登りきった鯉は竜になって天に登ったという伝説から、人が立身出世の道を激しい勢いで進むことのたとえとして使われています。(→登竜門) このようなことから、端午の節句にはこいのぼりをあげる風習が出来たのでしょう。戦後は5月5日のこどもの日と変わりました。


一方、3月3日の上巳(じょうし)の節句は、ひな祭りで、女の子のいる家ではひな壇にひな人形を飾り、ひし餅や白酒、桃の花などを備える祭りです。これも、女の子の成長を祝い幸せを願う風習です。
私たちは、このようにわが子の成長を喜び、幸せを願われている大切なお子様をお預かりしています。一人ひとりをしっかりと受け止め、望ましい発達が見られるよう、その子その子の特性をしっかりと伸ばしてやりたいと思います