還暦(平成14年度)平成15年3月
今年私は、とうとう還暦を迎えてしまいました。とうとうと言う意味は、自分の親が還暦を迎えたときや若いときの知った人達が還暦を迎えられたときの印象が、それなりに、おじいさんやおばあさんに見えていたからです。自分がその年になっても、まだまだ若いし、気分も年をとった感じが一向に湧いてこないのに、60歳は確実にやってきました。平均寿命が延びているので、ほとんどの人は自分が還暦を迎えるのがうそのような感じを抱くのでしょう。
しかし、若い人から見たらやっぱりおじいさんやおばあさんに見えるに違いありません。幼稚園を開園したときは27歳でしたから、33年経過したことになります。長いようで短い33年間でした。最初の卒園児が38歳ですから還暦を迎えるのも無理はないと思います。
還暦を迎えても、何か決心するような、特別の感情は抱きませんでしたが、それよりも、40歳を迎えるときの方がすごく焦った記憶があります。40歳になる1ヶ月前頃に、「あ~、もうすぐ40歳になるんだ」と何気なく思ったのです。24歳で東京から三次に帰ってきて、16年が経っていました。振り返ると、あっという間の16年間でした。
そこまではよかったのですが、この、「あっという間の16年間」を、40歳に足してみたら、56歳です。当時は、55歳定年が主流でしたから、あっという間に、その歳になるんだと思ったとたん、焦る感情が湧いてきたのです。その訳は何かというと、自分の人生が見えてくるからなのです。自分の人生はこのままで終わるんだという気持ちが湧いてきたのです。
若いときは、いろいろな夢を持ちます。あの夢もこの夢もと思っていても、あっという間に定年の歳になることに気付いたとき、何かをしなければという焦りの感情が出てきたのです。もちろん、「幼稚園」というすばらしい仕事に恵まれて、子供たちと共に過ごす生活はこの上ない幸福感で満ち溢れています。それでも、何かしなければという焦る感情と、その焦りに押しつぶされようとしたとき、気がつけば、1ヶ月間、飲み歩いていました。そして飲み飽きて、40歳の誕生日を迎えたとき、「よし、やろう」と、子どもの館保育園を作る決心をしたのです。また、昨年は還暦を前にした59歳で、子供の城保育園を開園しました。いろいろなことを考えても、子どもたちの世界の中からは抜け出すことはできません。私にとっては、「天性の仕事」と喜びを持っているからです。
ところが同じように、60という歳に、この、あっという間の33年を足すと、あっという間に93歳です。この頃まで生きているかどうか分からない歳になります。そうかといって、今は歳をとることの不安や焦りはありません。今では、その歳、その歳の年齢に応じた生き方と喜びを持って生きようと思っているからです。
ご存知のように、昨年3月で、幼稚園の園長を引退しました。今は、幼稚園、保育園の先生たちが、特に、新しい園長や主任がしっかりと力をつけてくれて、たとえ、私がいなくなっても、自分の作った幼稚園や保育園が、永久に栄えて欲しいと思うし、そこに通う子供たちがすばらしい幼稚園や保育園に出会うことができたと思ってくれる園であって欲しいと願っています。
何か、今にでも死にそうな書き方になってしまいましたが、若い時から、私に、万が一のことがあっても、後がちゃんとやって行けるようにと、いろいろな仕事を先生や職員に任せてきましたから、結果として、それぞれの教職員が、しっかりと力を付け伸びてきてくれています。自分の仕事に喜びと生きがいを抱いてくれていると思います。
このようなことが、還暦を迎えての感想でした。
この「つぶやき」を書いている日も、保育室を回ってみました。4月に入園・進級して1年が経とうとしています。年少のうめ組の子供たちも自分のお弁当をかばんの中から出して、机に並べ、箸を持ってこぼさないように食べています。どのお弁当も、お母さんの愛情が伝わってきてうれしく感じました。「美味しい?」と聞くと。子供たちはニッコリとしてうなずいてくれます。4月に入園した頃の光景が余計に思い出されたのでした。年中のもも組に行くと、おひな様の製作をはじめていました。みんなハサミをちゃんと使いこなし、ノリもベタベタに付けすぎないようにして、きっちりと貼り付けています。その中に、3月いっぱいで転園する男の子がいて、しっかりと抱きしめてやろうとしましたが、担任が、「本人にはまだ言ってないそうです」と言うので、抱きしめることをあきらめ、その子のポケットからコインが出たり、その子が私の手を拭くとタバコが出たりする手品をしてやりました。
年長のさくら組に行くと、本当に大きくなったことを感じます。友達同士の会話を聞いていても、しっかりとした人間関係ができていて、本当に仲好しです。「もうすぐ、小学校だね」と言うと、「それを言わないで」と、隣の友達を抱きしめます。「そうなんだ。毎日楽しそうに過ごしているけれど、卒園したら友達と別れわかれになることの悲しみや辛さをしっかりと受け止め、そのことを、口にも出さず、今の一時、一時を、一日一日を大事に過ごしているんだ」と気付いたとき、悪いことを言ってしまったと、済まない気持ちになってしまいました。
担任が気を利かして、「ね~、理事長先生の手品をしっかり見ておこう」と、子供たちに声をかけてくれます。子供たちに、何の手品が見たい?」と聞くと、「見たことのない違うやつをやって!!」と言います。でも、「理事長先生は今までした分しかできないよ」と言うと、「じゃ~、耳から出るのをやって」、「お尻からでるのをやって」と催促してくれます。私のできる手品のほとんどを見せてやりました。
最後に満3歳クラス、さつき組に行きました。担任が、「もうすぐ、うめ組になるんだよね」と言うと、「ブ~」と言います。何を言っても楽しいばかりの「さつき」組の子供たちです。
2003年3月4日 3:02 PM | カテゴリー:白髪せんせいのつぶやき | 投稿者名:ad-mcolumn